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【中村圭志】役職も部署もない「バリフラット」な会社 人の数だけリーダーがいる

令和の時代 日本の社長 更新日: 公開日:
カラクル代表取締役の中村圭志さん

■上司の判断、正しいとは限らない

――1999年創業のカラクルでは、役職や部署をすべて撤廃した独自の組織運営をしています。

「4つのゼロ」と呼んでいるのですが、「役職」「部署」「階層」「情報格差」がありません。それを「バリフラット」と名付けました。バリ=「超」、フラット=「階層のない組織」です。ラーメンのバリカタってありますよね。あの「バリ」です。

ふつうは、部署があり、各部署ごとに採算を管理します。また、階層にしたがって、上司が部下を評価する人事制度が成り立ちます。給料は、役職に基づいて係長はこの水準、部長はこの水準と決まっています。このように役職、部署、階層は、近代の会社組織をつくるベースになっていますが、カラクルのバリフラットは、これらをすべてなくそうというコンセプトです。

全部なくすと、「部下を評価する」「部署ごとの採算管理」といったことができなくなる。それができなくても機能するエコシステムをつくり、効率的な組織運営ができるようにしました。その総称を、「バリフラット」と呼んでいます。

オフィスで打ち合わせをするカラクル社長の中村圭志氏(左)=同社提供

――どうして、そんな大胆なことをやろうと思ったのでしょうか。

私がいまの時代をどうとらえているか、そこから説明します。

多くの会社組織は、役職や部署、階層ごとに従業員にラベルが付いています。ここ100年ぐらい多くの会社は同じようなシステムでやってきました。ところが、私たちを取り巻く環境、とくにコミュニケーションのテクノロジーが変わってきて、このやり方が制度疲労を起こしていると感じたのです。

社長、取締役、部長、課長、係長と続く役職や階層がありますが、こうなった理由の一つは、いちどにコミュニケーションがとれる人数が限られていたからだと思います。100人の会社があるとして、社長が日常的にコミュニケーションをとれるのは、すぐ下の経営陣ぐらい。全員に何かを伝えようとする場合は、社員集会をやればいいかもしれませんが、毎日はできない。だから、階層型の組織が必要になったのでしょう。

また、20世紀は「プロダクトの時代」でした。そこで大事なのはプロダクトが高性能になっていくことです。過去の延長線上で進化していくイメージで、それができればビジネスでも「勝てる」時代だった。これを、日本企業は得意としていました。

インターネットの登場などで、プロダクトの世紀から「サービスの世紀」に変わりました。「サービス」または「プロダクト×サービス」など、サービスが経済を引っ張る時代になった。過去はプロダクトの機能を向上させれば、ユーザーは高い値段で買ってくれた。ところが、現代はちょっと機能を向上させた程度では買ってもらえない。イノベーションを起こさないといけなくなったのです。

こうした中で、上の人が意思決定して、下におろす組織だと全然合わなくなってきた。意思決定が遅いうえに、過去の成功体験を持った上司の知見や判断が正しくないことも多くなってきた。スピードが速くないとダメで、やってみてうまくいかなかったら、すぐに次の新しいことをやらなくてはいけない。

これまでの組織だと「伝言ゲーム」のような承認をやりますね。ハンコが一枚の紙に10個あってというような仕組み。組織を速く動かすには、「縦長」の承認プロセスはダメで、フラットな組織のもと、同時多発的にいろいろなことに挑戦しなくてはいけない、と考えたのです。

多くの会社において、経営層は50代から60代でしょうか。この世代は、ネット時代以降の成功体験がほとんどなく、イノベーションの主役であるデジタルにも疎い人が多い。この人たちのアイデアで、いまの時代をリードできるのか。「難しい」としか言いようがない。組織のマネジメントはできても、新しい事業を引っ張るリーダーとしては不適格かもしれない。若い世代のアイデアを入れなくては、ということも考えました。

■社長はプロジェクトの「いちメンバー」

「カラクル」のオフィスの様子(同社提供)

――部署や役職、階層がない組織ということですが、日常の業務はどのように運営しているのでしょうか。

必要に応じて「プロジェクト」をつくり、そこにリーダーを置きます。例えば、コーポレートブランディングに一番詳しく情熱がある人をみんなで選んで、その人がリーダーになって取り組む。リーダーはすべてを決めて、責任を負います。その際、代表である私自身が戦力として必要とされた場合は、そのプロジェクトにメンバーの1人として加わる。リーダーから「中村さんは○○をやってください」などの指示を受けて動きます。

また、「コーポレートブランディングのリーダーといっても、他企業の広報部長と同じでは?」と言われそうですが、「広報部長」とは異なります。ふつうの会社では、部長はどこにいっても部長ですが、カラクルの場合、あるプロジェクトでは「リーダー」の人も、ほかのプロジェクトでは「いちメンバー」となることがほとんどだからです。

――代表取締役である中村さんも、「いちメンバー」としてそれぞれのプロジェクトに加わるのですね。

ぼくも、「いちメンバー」として各プロジェクトに参加します。会社の大きな決定はぼくが下しますので、その意味で会社の命運を握っています。しかし、すべてにおいて、ぼくがスーパーパワーなのかというと、そうではありません。それが、バリフラットの特徴の一つです。

――そうはいっても、代表である中村さんがメンバーに入ると、リーダーや他のメンバーは遠慮しませんか。

入ってきたばかりの人などは、多少はそう感じることはあるかもしれませんね。実際、カラクルの「リーダー」たちは、ぼくの言うことに、ただ従って行動する人はいません。各リーダーは、彼らなりの判断をしています。例えば、ぼくは自社サービスをやっているプロジェクトのリーダーに「このサービスはこうするべきだ」などと新しい画面を書いて提案することがよくありますが、リーダーはまったく鵜呑みにしません。「優先順位を決めるのはリーダーである自分だ」と、みんなが自覚しています。

そういう意味では、日常の仕事においては、「社長」という肩書もいらないぐらいです。リーダーがそれぞれ事業を引っ張っています。私は全体を見ながら、間違った方向に行っていないかを見てはいますが、各プロジェクトに出しゃばって日々の意思決定に影響を及ぼすことはありません。

■社員がお互いに評価するシステム

中村圭志・カラクル社長

――一方で、「みんながフラット」だったら、がんばって成果を出しても報われないのかと批判も出そうです。

この組織では、「がんばって成果を出しても報われない」ことはないです。基本的に、その人の「人材価値」が上がったら給料も上がる仕組みになっています。フラットな組織ではありますが、給料は人それぞれで、かなり違っています。新入社員は月収約25万円、理論年収415万円ほどで始まりますが、社員全体の一番上は年収1700万円ぐらいに達する設定になっています。若いうちに1000万円を超える社員もいますし、自分の「成長」次第です。最近、一番上がった人は3年半で3倍ぐらいになりました。ちなみに彼は外国人です。国籍も性別も関係ありません。

「キャリアをつくる」ということは、役職とは別物だと考えています。理想とする会社は、事業規模が大きいだけではなく、その会社で人材が成長し、それに見合った給料を支払っている会社です。

――人材評価はどうしているのですか。

組織をフラットにする際、「さあ評価をどうしよう」と悩みました。ほかの企業には、「お手本」がなかったからです。そこで考えたのは、社員がお互いに評価するシステムです。自分の仕事ぶりを評価する人を、自分で指名します。最大7人。自分の仕事をよく理解し、的確に評価できると思う人を選ぶ仕組みです。

評価する人に「お友達」を選んだらどうなのか、甘い評価にならないかという指摘を受けます。これは、情報をオープンにすることで規律がきいてくる。評価する人、評価の内容、評価コメントなど、すべて社内でオープンにします。評価する人たちも、またみんなから見られている構図です。全部オープンにすると、おのずと規律がきくものです。

たとえ代表であっても、個人的な好き嫌いとか印象で、だれかの評価を上げるとか、給料を上げることはできません。個々人の評価と、それに連動する給料もすべてオープンにすることで、この会社では誰がどんな評価で、どんな価値を発揮すればどんな給料水準になるのか、すべて見えるので、評価に対し納得感も出てくるのです。ちなみに、昨年とった「自分の評価に納得しているか」という匿名アンケートでは、85%の社員が納得していると答えました。世の中では平均で40%ほどが納得していると答えるようですので、この評価の仕組みは納得性が高いと言えるのではないでしょうか。

「カラクル」のオフィスの様子(同社提供)

――バリフラット導入以前は、どんな組織だったのですか。

いわゆるふつうの階層組織でした。多くの会社と同じようにトップに代表(社長)がいて、取締役、事業部長、部長、グループ長がいました。一つのことを決めるのにラインの人が全部関わっていましたが、効率が悪く組織が疲労している感じがあった。当時は実際に業績も悪く、ぼくがカラクルに加わったときは、62カ月連続赤字の真っ最中でした。

そこでフラットな組織を思いつき、2012年から組織を少しずつフラットに変えていきました。3年かけて、あせらず進めて、順を追ってポストを減らした結果、15年10月に完全にフラットな組織になりました。

――従業員数はどんな規模で推移してきましたか。

トータルの従業員数でみると、ピークだった17年が250人ぐらい。18年に会社を分割して100人になりました。いまは130人ほどです。よく、「100人規模だからできるのでしょう」などと言われもしますが、250人の時点もバリフラットでやりましたので、この人数でもバリフラットは機能することを「実証済み」と言えるでしょう。

■組織の理不尽な苦しさがなくなった

――役職や部署、階層がなくなると、社員同士の関係はどうなるのでしょうか。

人の「格」の上下が見事になくなりました。自分たちも驚きました。社内での人間関係は「ご近所づきあい」に似ていて、年上には敬語で話すとか、そんな感じです。ご近所同士も人間関係の上下はふつうありませんよね。その結果、組織から理不尽な苦しさがなくなりました。多くの階層型組織の会社では、自分より役職が高い人の話に納得できなくとも反論は許されず、ただ従わなくてはならない。ポジションによって、意見の強さが決まってしてしまうのです。それは理不尽な苦しさをうみだします。ぼく自身も過去こういったことを経験しました。組織がフラットになったことで、いまはフラットに議論できるようになりました。

――冒頭、「4つのゼロ」とおっしゃったうち、「情報格差」をなくすとはどんなことですか。

情報の格差をなくすことも重要です。多くの会社では、役職の高い人が「特別な情報」を持っているからこそ、社内でパワーを持ちます。当社では、人事に関連することや、社内的に機密度が高い話もオープンにするので、情報格差による権力維持ができません。会社での権力の源泉は決裁権限にあるというより、情報を持っているかどうかだと考えています。

社内情報を全部オープンにした当初は、みんなぼくに対し、たくさんの質問をしてきました。「予算の使い方が間違っていないか」「なぜあの事業を続けるのか」など。リーダーとしては説明責任がありますので、社内SNSで、一つひとつに回答していくうちに、「この会社はこんな考え方で運営されているのだ」と全員に共有されました。

――「立身出世」にやりがいを感じる人もいます。バリフラットの場合、どこに満足度があるのでしょうか。

肩書はありませんので、採用するときに「肩書が欲しいのであれば、この会社は向いていません」とはっきり伝えるようにしています。最初に、組織運営のコンセプトを理解してもらいます。

ぼくは、会社における満足度は突き詰めると「成長って何だろう」という話につながると考えています。肩書が高くなっていくのがその人の成長なのか、という問題です。新聞記者であれば、切り口の鋭い世の中に影響を与えるような記事が書けたら、それは間違いなく成長です。幹部になっても、いい記事が書けなかったら、それは記者としての成長とはいえないです。記者にとっては「いい記事が書ける」ようになることが成長じゃないですか。記者に例えましたが、成長の本質はそこにあると考えています。

カラクルでは、例えば「一生、プログラムを書き続けたい」というような、自分の専門を極めていきたいと考えている人が多いです。ふつうの会社だと何かの役職が付かないと給料が上がらない仕組みがありますが、当社はそんなことはありません。世の中が求めている価値を生み出したのであれば、それにふさわしい給料を払いましょうという思想です。

■「成長」に見合った給料をもらう

中村圭志・カラクル社長

――会社法における「代表取締役」のポストは置いているのですね

代表取締役はもちろん置いていますが、ぼくは自分のことを社長と言いません。それでも、全社のリーダーとしての役割は間違いなくありますし、ほかの社員と同じ責任で構わないという簡単な話ではない。リーダーというポジションは、地位が高い=「エラい」というものとはまったく違った、役割と責任を示すものだというのが、ぼくの考え方です。

――社員のみなさんは、中村さんのことを「社長」と呼ぶのですか。

「圭志さん」とか「中村さん」ですね。英語で会話するときは「ケイジ」です。私のことを「社長」と呼ぶ人はゼロですし、「代表」と呼ぶ人もいません。名刺にも社長とは書かれていません。

プロジェクトの「いちメンバー」として営業に行くこともありますが、そこでも「カラクルの中村です」と言うだけで「社長です」とは言いません。社長だと気付かない人もいると思いますよ。わざわざ言いませんから。会社のウェブサイトには書いてありますけれど。

――カラクルをどんな会社にしていきたいですか。

個人にとっては、働くことが楽しくて、自分が成長できて、成長に見合った給料ももらえる。そのうえでチームとして、世の中にインパクトを与える事業を成し遂げる。これが会社のビジョンです。こういう会社にしたいと思っています。

カラクルで働く20代の社員3人に話を聞いてみた。

■田嶋勁士さん
「年齢が高いから偉い」「給与が高いから偉い」という概念がないので、普段から大先輩とも気軽にコミュニケーションがとれます。肩書を得たからといって満足できる時代ではないと思いますので、役職を獲得することには正直あまり興味はありません。肩書ではなく、実力があるかどうかが大事だと思います。向上心は持っていますが、「偉くなりたい」というよりスキルを磨いて成長につなげたいという気持ちの方が強いです。実力を伸ばせば評価してもらえる環境なので、「自分の成長」こそがモチベーションになっています。

■青木匠さん
カラクルでは、「自分が何をしたいか」を強く考える必要があります。「なんでもできる」がゆえに、自分で指針を立てられないと、逆に何をすればよいのか分からなくなってしまいます。入社した瞬間から「考える癖」をつけることが求められます。入社2年目の私でも、周囲を納得させられる説明ができ、仕事のパフォーマンスが伴えば、必要なお金や権利は何でも使わせてくれると思います。上昇志向はありますが、「社長になりたい」「偉くなりたい」という感覚ではないです。根底にあるのは「やりたいことが、できるようになりたい」という思いです。

■西田昂弘さん
基本的にエンジニアとして仕事をしています。「部署」がなくプロジェクト制になっているので、私の場合は、3~4つのプロジェクトに関わることもあります。各プロジェクトごとに役割や使う技術が違うので、幅広い経験ができることが魅力です。マルチに活躍するエンジニアをめざしている私にとっては、ぴったりの環境です。年功序列がないので、実力があれば大きな役割も任せてもらえます。いまの年齢だと、他の会社では経験しにくいこともできますので、そこにモチベーションを感じています。