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【藤田晋】ガバナンス改革、形だけになっていないか 数合わせで終わらせない経営改革

令和の時代 日本の社長
サイバーエージェントの藤田晋社長

■腑に落ちなかったガバナンス改革

――ここ数年、日本企業の間でもガバナンス改革の議論が盛んになってきました。

2000年にサイバーエージェントが東証マザーズに上場した当時、ガバナンスという言葉が世間に出てきて、企業どうしの株式持ち合いが否定され、IR(投資家向け広報)の重要性が強調されて、村上世彰さんのような「もの言う株主」まで登場しました。私たちの会社も、株主から経営にプレッシャーをかけられ、十分すぎるほどに監視の目にさらされていました。

このように、「説明責任」「透明性」が盛んにいわれた時代に上場したこともあり、常にガバナンスと向き合ってきたという自負があります。株主の約半分は海外投資家ですし、上場時からIRや決算説明会も自分でこなしてきました。ここにきて政府が主導するかたちで「コーポレートガバナンスを強化しなさい」と言われても、すでに十分やってきただけに、どこか腑に落ちない気持ちがずっとありました。

一連のガバナンス改革が進んで、ようやく分かったのは、この改革は私たちの会社を対象にしたものではなく、もっと古い大企業に向けて変革を迫っているのではないかということです。古い企業の経営をつぶさに見ると、「なるほど、これは圧力や規制を外からかけないと経営のあり方は変わらない、変われないのではないか」とも思いました。

インタビューに応じるサイバーエージェントの藤田晋社長=東京都渋谷区、迫和義撮影

――たしかに、日本でのガバナンス改革は、古い企業に変革を迫るために、政府が主導するかたちで加速した印象があります。

経済のグローバル化の流れがあり、政府としても世界から投資を呼び込みたいという思惑があったと思います。日本企業の「ROE(自己資本利益率)」や「ROA(総資産利益率)」といった指標を見たときに、それらが欧米企業に比べて劣っているのは経営者の怠慢ともいえます。これまでは、経営の質を高めることへの外からの圧力が少なかったため、変わらなかったのだと思います。

そういう状況でもあるので、コーポレートガバナンス改革を日本という国全体で強化していく方針にはまったく反対していません。これは国の政策なので仕方がないと分かりつつ、すべての企業に画一的にあてはめられたことが腑に落ちず、迷惑しているという気持ちはぬぐえません。

――「迷惑している」とおっしゃいましたが、それでもサイバーエージェントとしては、かなり積極的にコーポレートガバナンス改革を進めてきました。

例えば、社外取締役の人数を増やせということが言われていますが、どうせやらなくてはいけないのであれば、ただの「人数合わせ」にしたくなかった。私はこの会社を本当に大事に育てているので、こんな大事なところに適当な数合わせとしての社外取締役に入ってもらいたくなかった。誰でもよければ人数はすぐにそろいますが、そんなことをしては、長期的に見て会社の価値を毀損してしまいます。

そこで、かなりの時間をかけて人選を進めました。サイバーエージェントという会社の文化や社風を十分に分かってくれて、かつベンチャー企業はどんなものかという点もよく分かってくれる方ということで、リクルートの生え抜きとして副社長を務められた中村恒一氏に社外取締役をお願いしました。

もう1人は、ネスレ日本の前代表取締役CEO、高岡浩三氏です。私たちがこれから必要な要素に「海外」や「マーケティング」があったので、そういう分野が得意な人として高岡さんにお願いするタイミングを探っていました。それで、お願いしたら最初は難色を示されてしまったのです。

■「社外取締役はつまらない」と言われて

サイバーエージェントの藤田晋社長=迫和義撮影

――それはなぜだったのでしょうか。

「社外取締役って、つまらないから」というお答えでした。ネスレの経営をやめてから、社外取締役などという仕事をやってるようでは何ともつまらない、とおっしゃったのです。たしかに私自身も、社外取締役のお仕事を依頼されることがありますが、すぐにお断りしています。その理由は、同じく「つまらない」と思うからです。

しかし、サイバーエージェント社長である私としては、何としても高岡さんに入っていただきたく思いまして、「絶対に面白くします」と説得して社外取締役になってもらいました。「社外取締役を増やせ」という形式的なルールに対して、「かたち」だけ従いたくないという気持ちがあって、もっと言えば反発心もありましたので、やるからには「ベストな人選」ができたと思います。

2000年代には、社外取締役として、楽天の三木谷浩史さんや、USENの宇野康秀さんを招いた時期もありました。それぐらい実績のある人じゃないと、ネット業界やベンチャー企業が理解できないと思っていました。

ただ、取締役会そのものは退屈なもので、別の会議で議論は尽くされている。ものすごく忙しい人たちを月1回呼ぶのが申し訳ない気持ちになって、やめました。そういう経験もあったので、いまは社外取締役の方々には、退屈にならないよう、ふつうの生々しい議論が繰り広げられる常勤役員会にも参加してもらうようにしました。そこまで見てもらわないと、この会社のことは分からないだろうと考えたからです。

サイバーエージェントの藤田晋社長=迫和義撮影

――海外投資家は日本企業のガバナンスをどう見ているのでしょうか。コーポレートガバナンスを整えることで投資の対象になりうるのでしょうか。

海外投資家の立場になって考えると、多くの日本の経営者から会社の成長性を高める意欲が感じられないうえ、もっと会社をよくしようというモチベーションがはたらいていないように見える。そのことに腹を立てているのだと思っています。企業のガバナンスをしっかりすることが主たる目的ではなく、会社の成長性を高めるという目的を達成するためにもガバナンスはしっかりやってほしい、ということだと思います。

――コーポレートガバナンス改革はもともと日本企業の「稼ぐ力」をつけることが主な狙いだったわけですが、それは実現したのでしょうか。

「稼ぐ力」という点について、あれだけ盛んに取りあげられて、改革の必要性がいわれたわりには、「ROEは高まったのか」「ROAはどの水準に到達したか」という検証が足りないと思います。目標に掲げた経営指標の「数字」の点検をやらなかったら、この改革の意味がない。「社外取締役を3分の1以上は入れなさい」とか、企業統治の「かたち」の議論に終始している印象はあります。

■形から変える改革も大事

インタビューに応じるサイバーエージェントの藤田晋社長=東京都渋谷区、迫和義撮影

――先ほど「古い企業」の話が出ましたが、コーポレートガバナンス改革でそういう企業は変わるでしょうか。

例えば、「女性取締役を増やそう」といった論点は、企業に対し、無理にでもやらせないと変わらないと思う。日本の企業社会は基本的に「男社会」ですので、男性目線で優秀か、優秀でないかを判断してしまうからです。日本企業を本気で変えようと思ったら、いったんそういう「カタにはめる」ことから改革をスタートするのは、強引だけど、よい方向に進むのではないか。ちょっとぐらい荒療治でもリセットするような感覚が必要だと思います。

――たしかに日本企業の多くは、「男性目線」で経営されています。

それを歴史のどこかの時点で、揺さぶらないと変わらないと思います。揺さぶることにより「男社会」の意識が変わってくるし、価値観が変わってくるでしょう。私たちの会社も、まだまだ女性管理職の人数比率は少ない。私自身は、「男性だから」「女性だから」ということで何かを判断してきたつもりはありません。ただ、いまは「これは社会全体の問題だ」と思うに至りまして、こういう日本社会の特性がある以上、「女性を増やそう」と意図的に、かつ強引にでも取り組んでいかない限りは、私たちの会社もまた変わらないと思いました。実際に、女性社員に要職に就いてもらうと、高い能力が存分に発揮されます。

――コーポレートガバナンス改革の議論では、経営トップの「後継者育成」も論点の一つです。

企業においては、誰がトップなのかによって業績が全然変わってきますから重要です。自分のことを省みると、年齢的に若いということもあって「後継者育成」のようなものはやっていないが、ちゃんと育てておかないと、育たないのかもしれない。

私自身は、「社長業」について誰かに教えてもらったわけではなく、自分で会社をつくって社長という立場になって成長してきた、という感覚があります。「後継者育成」といわれるように、人に経験を積ませないといけないのだとすると、私の場合は、「社長」というポジションを独り占めしているとも言えますが。ただ、一方で、例えば企業には「経営者育成プログラム」といったものがありますが、そこで後継者が育つとは思えないです。ほかの育て方として、グループ企業のトップを経験することが大事だ、ということであれば、私たちの会社ではすでに多くの事例があって、「子会社社長」という人たちはたくさん育っています。

――多くの日本企業は「2期4年」「3期6年」と任期が決まっていることが多いです。そうなると、そういう社長には任期という「逃げ道」があるということでしょうか。

その任期中の4年なり6年は、逃げ道はないと思います。ただ、一般的に、社長の任期が短いので、ある意味、うまく逃げ切れてしまう。よほど経営全体を揺るがすような出来事がない限り、抜本的な対策を打たなくても、何とかしのぐ程度の業績をあげることはできてしまうから、「楽な方向」に行きがちですが、日本を見渡すと、抜本策を打ち出さないといけない会社の方が多いと思います。

あとは、インセンティブ(誘因)の設計が、日本では全然できていない。ガバナンス強化が大事というわりに、大きく成功した経営者に報いるとか、企業業績をよくしたり、ROEを上げたりしたことに対する、それ相応の対価が設計されていない。このため、「嫌われてでも経営をよくしよう」というモチベーションは、どうしても足りなくなってしまう。

「社長の任期」については、優秀であればずっとやればいいし、そうでなければ早く交代した方がいいと思う。とくに有事だと社長が腰を据えて取り組まないと、会社は変わらない。これは国の政権も同じで、長期政権でないとできないことがある。業績を上げているトップがいるのであれば、その人が続行するべきだと思います。

■「逃げない」社長でありたい

――今回、このインタビューシリーズの初回に登場いただいた楽天の三木谷浩史会長兼社長は、ご自分について「社長というよりも、実業家だと思っている」と語っていました。経営トップの肩書や呼称にもいろいろありますが、藤田さんの場合はいかがですか?

まず、三木谷さんについて申し上げると、「実業家」という意味で本当にすごい方だと思います。本業のほか、がんの治療薬まで実用化させて、いまは携帯電話事業も手がけています。プロ野球やサッカーまでやったりと、実業家としてものすごく能力が高い。あのような感じは、ぼくにはありません。質問について答えると、私は、現場の全責任を持ち、全権限を持って、責任を負う立場でありたいと思います。そういう意味では、自分のことは「社長」だと思います。逃げないというか、「逃げられない」位置にいる人が社長だと思っています。

――著書で思い浮かべるのは、起業してまもなく、仲間の日高裕介さん(現サイバーエージェント副社長)に、「これからは俺のことを会社の中では社長と呼んでくれ」と言った場面は印象に残りました。

最終的に誰が物事を決めるのか、誰が責任を持つのかを明確にしておくべきだ、という思いがあったからです。エラそうだとか、いばっているとか、そんなつもりはないです。「おれが最後は責任を持つ」ということでやっていますし、やらないといけないと思っています。

――「社長」といっても、じつにさまざまです。社長という言葉から思い浮かべる人物はいますか。

孫さん(ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長)が、自分のことをずっと「社長」と言っていたのですが、あれほど会社の規模が大きくなっても、「社長」と言っていたのが印象に残っています。「ソフトバンク社長 孫正義」って。いまはソフトバンクグループというホールディングスの会長兼社長ですが、ずっと自分のことを「社長」と呼んでいるのを見ていて、いまも「現場にいる」という感じがして、かっこいいと思っていました。孫さんは、いまは投資家のような仕事をされているわけですが、「社長」と言い続けているところからすると、現場で権限や責任を一手に担っているのでしょう。私自身、「逃げない」社長でありたいと思っています。

サイバーエージェントの藤田晋社長=東京都渋谷区、迫和義撮影