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【奥谷禮子】社長の器、社外取締役の選び方で分かる 「脱・イエスマン」への道

令和の時代 日本の社長
奥谷禮子氏は政界や財界に幅広いネットワークを持つ。「ふつうのレベルの経営者は、人脈をつくることがどれほど大変なことか、分かっていない」

■社外取締役、社長のブレーキになれるか

――ここ数年、日本でもコーポレートガバナンス(企業統治)改革が加速してきました。改革が進んだ背景や、現状について、どのように見ていますか。

コーポレートガバナンス改革の主体は、当然企業なのですが、企業自らが改革に踏み出せなかったことは残念でした。政府が主導するかたちでガバナンス改革が進められ、この「外圧」を受けてやっと企業が動き出しました。その最中にも、東芝や日産自動車など日本を代表する企業で不祥事が続きました。改革で先頭を走っていた企業でも、ガバナンス不在が明らかになったことは衝撃でした。

一方、ガバナンスにしっかり取り組んできた企業からすると、政府が「余計なことを言わないでほしい」という気持ちがあるはずです。改革は、すべての企業に「同じ網」をかける仕組みだからです。企業ごとに最適なガバナンスのあり方は異なります。本来であれば、それぞれの社風や、企業の成り立ちをふまえたガバナンスのあり方を認めるべきです。

――コーポレートガバナンス改革では、「社外取締役」の役割が注目されます。奥谷さんは自ら創業した会社でトップを担ってきた一方、数多くの会社で社外取締役を務めました。社外取締役に求められる役割とはどんなことですか。

まずは、社長に「モノが言える」ことですね。私が社外取締役を務めた、ある会社の取締役会では最初に延々と「社長の演説」が続きました。それだけ見ても、ここは社長の力が強く、部下はほとんどモノが言えないことが分かりました。

この会社で、ある損失が出ました。すると、会議の前に「事前説明」と称して社員たちが私のところに説明にやってきました。要するに、「取締役会では穏便に済ませてほしい」という根回しですね。しかし、穏便に済ませるだけでは今後の教訓にならないと思い、取締役会では、しっかり原因を究明するべきだと発言しました。

■社長が経営のリスクになることも

「ザ・アール」社長時代の奥谷禮子氏=朝日新聞社撮影

――社長にとって「耳の痛い」ことも、ちゃんと言うのが社外取締役の役割なのですね。

そうです。私は、社長に「モノを言う」だけでなく、ときに社長の「ブレーキ役」になるべきだと思います。

――「ブレーキ役」とは、どういうことでしょうか。

例えば、M&A(企業の合併・買収)の話が出たときです。会社に勢いが出てくると、さまざまな方面から、「あの会社を買収しないか」「この事業を買わないか」といった売り込みが舞い込みます。勢いがある分、社長も買収に前のめりになりますね。社長から「この買収案件を検討してくれ」と指示を受けた部下たちは、とにかく買収を実現させようと必死になります。本当は、その買収に効果があるのかどうか、仮に買収したとして、その会社や事業をマネジメントできる人材が社内にいるのか、などをよく吟味しなくてはなりません。ところが、社長の指示だからという理由で、部下たちは「買うこと」で頭がいっぱいになってしまう。そのときに、社外取締役の役割が重要になります。

以前、私が社外取締役を務めた会社で、海外企業買収の話が持ち上がりました。会社の規模を大きくしたい社長は買収に乗り気で、社内では「とにかく買おう」という方向で話が進んでいました。しかし、冷静に考えると、買収のメリットはうまく説明できませんでした。社内の役員は社長に反対できないので、私が社外取締役の立場から「反対」の意見を述べました。結局、この買収はやらないことになり、いま振り返ってみても、買わなくてよかったと思います。

M&Aは「いけいけどんどん」になりがちで、社外取締役がしっかり見極めることが重要です。多くの企業には、社長にブレーキをかけられる人がいないので、その役割を社外取締役が担うべきです。先ほどの買収ではメリットがはっきりしない中、社長が「買いたい」の一点張りだったので、すべてが落ち着いてから、「社長のそういう姿勢こそ会社のリスクになっている」と述べました。厳しい言葉だと思いましたが、それを指摘することが社外取締役の仕事だと考えました。

――その社長にとっては厳しい存在だったわけですね。

社長と社外取締役の間には、健全な緊張関係が欠かせません。社外取締役は、社長に依頼されて就任するというケースが多いのですが、就任先の企業をよくしようと思ったら、社長に対しても遠慮せず言うべきことは言わないといけません。お互いに「クビを切られても構わない」というぐらいの覚悟がないと、まったく意味がなくなってしまう。

ちゃんとした社外取締役を選べるかどうかは「社長の器」の大きさ次第だと思います。厳しくアドバイスしてくれる人を選べるかどうか。「イエスマン」を連れてきても仕方がないです。

――社外取締役になる人はどんな経歴の人物が適任でしょうか。

できれば「社長業」をやったことがある人材が望ましいです。私自身、自分で会社をつくり、社長として会社を経営してきましたが、自分で経営トップをやった経験がある人は、社外取締役としても社長に助言できる。いまの経営のどこに課題があるか、何か問題が発生したときに社長としてどう行動するべきか。それが分かるのです。私の実感としては社長とナンバー2の副社長の間には相当大きな違いがあるように思います。

ただ、社外取締役に、トップ経験者ばかりをそろえる必要もありません。例えば弁護士からは企業法務など、法律的な観点から支援してもらうことができます。それぞれの専門的な知見をいかして支えてもらえばいい。

――社外取締役の人材不足のためか、何社も兼任している人も目立ちます。

私の経験からすると、社外取締役は5社、6社も兼務できません。臨時の取締役会が入ってくることもあり、重大な決断を迫られる買収案件もあるでしょう。取締役会の議案を前もって読み込んでおかないといけない。新商品を出したら、それをしっかり見ておくとか、ライバル企業がどんな動きをしているか、マーケット環境も知っておかないといけない。兼務が多すぎると、責任が持てません。

そもそも社外取締役が足りないので、特定の人にオファーが集まっているのは事実ですが、その会社の経営に責任を持つ「当事者意識」を大事にしようと思えば多くの兼務はできない。たくさん掛け持ちして「社外取締役業」のような仕事をこなしておられる方もいますが、それはどうかと思います。

――奥谷さんは、例えばローソンで15年近く社外取締役を務めました。

現在はサントリーホールディングスの社長である新浪剛史氏が、ローソン社長に就任した同じタイミングで社外取締役を拝命しました。長い期間やらせてもらったのですが、新浪氏に「なぜ私が長期間やることになったのか」と聞いたことがありました。新浪氏は「社長の私にも遠慮なく意見を言ってくれたからだ」と説明してくれました。たしかに私は人目を気にせず、どんどん発言しました。

これはローソンに限ったことではありませんが、会議で厳しい質問を社長たちにすることによって緊張感を与えることができたことはよかったと思っています。緊張感を与えると、社長たちにも相応の責任感が生まれてくる。決して「なあなあの関係」でやらない。株主代表として仕事を与えられたわけですから、株主に損をさせてはならないと考えました。

■イエスマンを選んできた日本企業

――最近、社外取締役が「社長選び」に関与するケースも増えてきました。

日本では「密室人事」「社長の一存」で次の社長が選ばれましたから、透明さを高める「指名委員会」の仕組みはよいと思います。ただ(委員会メンバーに入っている)社長の意見がそのまま通ってしまう指名委員会だと意味がありません。あと、社長に就任してすぐさま堂々とやれる人は少ないですから、社外取締役が新しい社長をサポートしていくことが必要です。

――米国の最高経営責任者(CEO)と異なり、日本の社長は自分の先輩である複数の社長経験者にも気配りしているように見えます。

こんなことがありました。ある企業の社長になった方を訪ねました。ところが、社長になったのに社長室に移っていなかったのです。理由を聞くと、前社長(現会長)が社長室から出ていかないからだという。部屋を空けてもらうべきではないですかと言うと、「会長にそんなこと言えない」という。結局会長が社長室に陣取り社長が狭い部屋にいるわけです。部屋のことはともかく、社長になってからもなお「上下関係」が続くわけです。多くの日本企業では、前の社長の言うことを聞く人が後任に選ばれやすかった。イエスマンを選んできたのです。

――社長経験者の影響力をなくそうと、日本に独特の「相談役」「顧問」などの役職はなくした方がよいのでしょうか。

そこは難しくて、一概に否定できない。例えば人脈が豊富な社長経験者がいて、ビジネスを推進するうえで人脈はとても大事です。人脈というのは一朝一夕にはつくれない。この社長経験者の人脈が、そのまま会社の「財産」になっているようなケースも、たくさん見てきました。次の社長は、そこまでの人脈をつくれないことがある。人脈というものは受け継ぐのが難しく「○○会社の社長です」と名刺を出してもそこからは関係が深まりにくい。財閥系の企業のように名の知れたところだったら相手から寄ってくるかもしれないが、ほとんどの場合、そうならない。

社長経験者をみんな相談役や顧問として残すのではなく、会社にとって真に値うちのある人をどう残すか。人脈という財産を会社が必要だと思えば、相談役や顧問として残ってもらえばいいし、判断の理由を社内外に説明すればいい。

――変化の激しい時代ですから、今後は社長の役割も大きくなりそうです。

ある金融機関の中堅と話したとき、彼が言いました。「私は会社に入ってから、自分で物事を考えることをやめた」と。大きな組織でやっていくには、その方がストレスがないし、下手に意見を言うと外されてしまうというのです。たしかに日本企業にはそういう風土があります。でも、そのような人材がそのまま順調に階段を登ってトップになったら会社にとって「悲劇」かもしれない。自分で考えられない人がかじ取りをするわけです。このところ、何もやらず「現状維持」をよしとする社長が増えているように思うのです。日本経済が変わるにはトップが変わらないといけないと思います。