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セブン&アイ鈴木敏文氏「コンビニも銀行も、大反対されながら作った」

令和の時代 日本の社長 更新日: 公開日:
セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏(画像の一部を加工しています)

インタビューシリーズ「令和の時代 日本の社長」#6 セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問・鈴木敏文氏 「流通業界のレジェンド」「流通王」とも称される鈴木敏文氏は、1978年にセブン―イレブン・ジャパン社長に就いて以来、40年近くにわたり経営トップを務めてきました。大変革の時代、社長に求められる資質とは? それを聞くために、セブン&アイ・ホールディングス本社近くのホテル一室にある執務室を訪ねました。インタビューシリーズ「令和の時代、日本の社長」第6回。(畑中徹)

■変化に即応。これが社長だ

――日本企業のガバナンス改革が進んでいます。「社長の選任・解任」が主なテーマとして議論されています。どうして「社長」が注目されるのでしょうか?

時代が大きく変わったからです。時代はどんどん変化する。変化というものに、対応できるかどうか。企業にとって一番大事なことで、それを担うのが社長だ。では、「社長とは何ぞや」と聞かれたとき、ひと言でいえば、やはり「時代の変化に即対応できる経営者だ」と言いたい。社長の役割とは、時代の変化に対応し、会社を成長させていくことです。

――「時代が変わった」ということですが、社長に求められる資質や役割も変わったのでしょうか?

いまのように変化の激しい時代でなかったら、日本の伝統的な経営のやり方は、それで通じるのでしょう。だが、いまは「新しいもの」をどんどん吸収していかなくてはだめです。世界がどんどん変わっているから、変化への対応力が必要。経営に自分の考え方をしっかり持っていることが重要です。年功序列に沿って、ただ下から上がってきたという人物では難しい。

新しいものを吸収する一方で、トップの社長が自分の考え方をはっきり持っていないといけない。そうしないと、経営はうまくいかない。いまの時代の社長とは自分の確固たる考え方がある人です。

■分からないことは、分かる人に任せる

――日本企業では、新卒で入った会社でコツコツ階段をのぼり、最後に社長にたどり着く、というコースが一般的です。

日本の会社というのは新入社員で入ってずっとそこに勤めて、社内の階段を上がってきた人が社長をやります。日本の会社は、社内で育った人が多いから社風も大きく変わらないし、会社に染みついた伝統とかが根強く残っている。世の中がそれほど大きく変わらないのであれば、そこで育った人が社長をやった方がうまくいきます。

いまは過去の延長線でやってきたことが通用しない時代になった。どこの業界もそうです。自分たちが培ってきた自信が通用しない時代。だからこそ、「いまの時代を自分のものにする」ということが求められます。世の中の変化を、常に自分の中に取り入れられたら何をやっても成功する。過去にやってきた、伝統的なやり方に拘泥する人だと難しいですね。会社員として、忠実に階段を登ってきた人ほど、新しいビジネスをやるのは難しいものです。

――人口減や高齢化、デジタル化やグローバル化の加速など日本経済をとりまく環境も激変して、経営のトップに立つ社長にとっては困難が多いです。

ぼくに分からないこと、例えばデジタルのことね。若い人たちはいま、それをふつうに会得していますよね。「分からない」と言っているのは我々だけなんでしょう。だったら若い人たちに任せればいいじゃないですか。その人たちの力をどうやって活用していくか、そういう風に考えればいいわけです。

自分が「分からないこと」を学んで、自分のものにしようと思ったら、それは大変です。リーダーである自分が全部ものにしようと思わなくていいから、できる人材をどう活用するか。そういう考え方に立てばいいのでは。ぼくは流通業界に入ってから、店頭に立ってモノを売ったことがなければ、自分で商品を仕入れたこともない。それができる人に任せればいいと思ってきた。

全国から集まってくる社員に対しビジネスの基本を語りかける鈴木敏文氏=2006年、セブン&アイ・ホールディングス本社

――ガバナンス改革では、「将来の社長」をどう育てるかが焦点の一つになっています。これを受け、意識的に育てようとする企業も増えてきました。「後継者育成」については、どう考えますか。

後継者を「つくる」のは無理です。せいぜい、適格者を「探す」ことしかできない。学校の勉強だったら、子どもに勉強させて、学校でもクラスでもできるようにしてあげられるが、経営の後継者を育てるということはちょっと違う。

――「将来の社長」を育てることが難しいならば、「自分で育つ」しかないのでしょうか。

できるとすれば、見込んだ人材に仕事の「責任を負わせる」ということじゃないですか。与えられた責任をまっとうする人材がいたら引きあげる。だけど、これは「教える」ということではないよね。教えるってことは難しいです。

――米国では、トップのCEOを、いきなり外部から招くということが珍しくありません。こうしたやり方は、日本でも広がるのでしょうか?

日本の会社は、会社に染みついたもの、伝統というのか、そういうものが根強く残っている。米国の会社はトップが代わって経営方針も変わると、わりと素直に受け入れる。米国であれば、いきなり外部から社長・CEOが来てもトップの方針が日本より浸透しやすく、日本よりやりやすい。ずっと、そう見ていました。日本と米国の会社には、大きな風土の違いがある気がする。

日本の会社に残る根強い伝統はいい面でもあるが、新しいものを受け入れがたいという側面もある。それだけにトップを外部から連れてきたとしても、うまくいくことは少ないのではと思います。

■役に立つ社外取締役は1割か2割

――ガバナンス改革の議論では、社外取締役をどのように活用するか、ここに注目が集まっています。

社外取締役でいえば、本当に経営の役に立っている人というのは、全体の1割か2割程度だろうと思っている。最近、「社外取締役の割合を何割にしなさい」という議論もあるが、あれは学者や評論家が言っていることだ。実務家がそう言っているという話は聞いたことがない。

社長が、自分の方針を持って経営をやる。社長が優秀であれば、リーダーは1人いればいい。意思決定するのは1人なのです、会社というものは。そういう人を配置することによって、ほとんどの会社は成り立っている。

――そうなると、優秀なリーダーを持てない会社は、経営の屋台骨が揺らぐこともある、ということですか。

そういうことです。みんなが腹が減っているという時代ならば、「そこそこ」のものがあったら、みんなそれを食べて満足していた。だけど、いまのように、多くの人が満腹の状態のときに、何かを与え、かつ食べた人みんなを満足させることは難しい。時代の変化に対応しながら会社を成長させるが社長の役割です。

2016年4月、セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEOを退任すると記者会見で発表する鈴木敏文氏(現・同社名誉顧問)

――会社の経営を担う人の呼び方もいろいろあります。「社長」「経営者」「実業家」のほか、会社をつくったトップであれば「起業家」など、さまざまです。鈴木さんは、どれだと思いますか。

(即答で)経営者だろうね。「社長」といっても、千差万別でよく分からないところがありますね。「社長」と呼ばれる人は、どこにでもいます。「経営者」といえば、事業を実際にまとめていく人物のことでしょう。やはり経営者ですね。

――「社長」や「経営者」という言葉を、意識的に使い分けてきましたか?

あまりそういうことはなかったけれど、自分でやってきた仕事を振り返ってみて、何をやってきたかといえば、やはり「経営」です。「社長になりたい」と思ったことはまったくなかった。「目の前にあるこの事業を何とか成功させよう」ということだけ、いつも考えていた。

■「経験」が通用した時代は楽だった

――社長になったのは、「目の前の事業」をやってきた結果だった、ということですか。

そうそう。ふと過去のことを考えると、私の場合、やることなすこと、すべて反対された。セブン―イレブンを始めるときは、みんなに反対された。「日本には、すでに小売りの商店街がいっぱいあって、そこに小さい店をさらにつくっても、うまくいかない」「日本では各地にスーパーが進出していて、商店街の多くが衰退している状況を見ても、小さな店は成り立たない」とか。それが当時の流通業界の常識だった。でも、そうじゃなくて、なぜ日本の小売業が大型店中心になって小さな店は伸びないのか、それは時代の変化に対応できていないからではないのか。そういう風に考えた。日本に商店街がたくさんあるからといって、関係ないだろうと思っていた。「大きいことはいいことだ」という時代だから、反対論の根拠は規模の大きい小さいの話ばかりだったし。

だから、反対されても何とも思わなかった。あんなに反対されたのに、何でやったのか。世の中に反抗してやろうとか、そんなことを思ったわけでもなく、「なんで反対するんだろう、やってもいないのに」と思っていた。うちの伊藤(=イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊氏)からも「そんなことやっても、うまくいかないよ」と言われていた。

当時、アメリカにコンビニがあったとはいっても、あれは自分で土地を買い、店をつくり、オペレーションする人たちを採用するやり方だった。私たちがやったのは、商店街の酒屋さんであったり、食品店であったりしたところを、資本を出さないでチェーン化していった。世界で初めてでした。だから学者などは、そんなことできないと言いました。

――セブン銀行をつくるときも、同じように否定論の嵐でしたね。

「銀行をつくる」と言ったときも、わざわざメインバンクのトップが来られて、「鈴木さんね、素人がやるって言ったって、銀行業って大変なんです、難しい。私たちが付いていながら失敗ってことになったら、あなた方も大変だろうし、私たちも笑われてしまう。だから、おやめになった方がいいですよ」といろいろ忠告を受けた。そのとき考えたのは、先ほど言ったように「なんで反対するんだろう、やってもいないのに」ということだけ。都市銀行と同じものをつくるわけじゃないからね。

だから、セブン―イレブンをやるときも銀行をつくるときも「さあ、とんでもないことに挑戦するんだ」とは、全然考えなかった。何というか、絶壁を、崖をはいあがるような難しさは感じていなかったですね。やろうとすることを「これは難しいことなんだ」って考えたらダメなんじゃないか。物事を「難しい」と考えたらできなくなってしまう。

――周囲のみんなが反対するなか、その事業をやろうとするのは、多くの会社員にはなかなかできません。

反対するってことは「前例がない」からなんです。「前例がない」ことに対しては、みんな反対するんだよね。これまでの「経験」にとらわれるんです。たしかにこれまでは、経験というものが通用する世の中だったのよ。経験というものが通用した時代は楽だった。

経験が通用した時代における「優秀な人」っていうのは、記憶力に優れている人のことでした。つまり「過去にこんなこと、あんなことがあった」ということを覚えていて、それをまねすればよかったから。いまの時代の社長は、まねだけじゃだめです。自分の確固たる考え方を持ったうえで「率先垂範」を実践する。リーダーがしっかりしないと。

――やはりリーダー、社長が大事ですか。

よく昔から言うでしょ、企業というのは「社長の器以上にならない」と。その通りです。