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【山本良一】小学校の経歴も調べ上げる 社長の決め方、「人を知る」を突き詰める

令和の時代 日本の社長
J.フロントリテイリングの山本良一・取締役会議長=山本和生撮影

■社長選び、もはや「社長の専権」ではない

――企業のガバナンス改革では、「社長の選び方」がテーマの一つになっています。一般に、多くの企業では、「次の社長」を指名する権限は現社長にあると考えられてきました。しかし、山本さんは「もはや、社長の専権事項ではない」と強調しています。

これまでは、間違いなく「専権事項」でした。「次の社長」をどう選ぶかについて、私自身、社長時代にいろいろ勉強しましたが、「こうありたい」と思ったのが「指名委員会」を置く会社のあり方(=指名委員会等設置会社)でした。透明性があり、客観性もあります。J.フロントリテイリングの指名委員会は、3人の社外取締役、取締役会議長の私、現社長の計5人で構成され、委員長は社外取締役が務めています。「トップ人事は社長の専権事項」というのは、私はもう通用しないだろうと考えていました。選定のプロセスを明確にして、透明性を確保することにしたのです。

――3人の社外取締役が社長選びに関わるわけですが、「社外の人に社内の人材が分かるのか」といった批判はつきまといます。これを克服する手立てはあるのでしょうか。

たしかに、指名委員会で社長を決める場合、「社外の人がどれだけ社内の人材を知っているのか」と言われがちです。

そこで、社長を選ぶにあたって、第三者機関(コンサルティング会社)を活用し、「経営人財評価」に時間をかけました。J.フロントリテイリングの取締役から、傘下にある事業会社の執行役員クラスに至るまで全員を調べました。社長候補となりうる本人や上司、同僚、部下への個別インタビューを通じ、それぞれの「人となり」、能力や資質、特性などのあらゆる情報をきちっと把握するのです。

本人へのインタビューでは、小学校で学級委員をやっていたことや、中学へ行ったら何をやって、高校ではどんな運動をやっていたのか、大学では何を勉強したのか、会社に入ってからはどの部署でどんなことを成果としてあげたのか、それらがすべて書かれたものをつくります。1人あたり膨大なデータ量になりますし、ものすごいページ数です。読み込むと1時間ぐらいかかります。すべて文書化して、当社の社外取締役に渡しています。

■次の社長について15分話せるか

――すごい作業ですが、どうしてそこまでやるのですか。

「人を知る」ことが大事だと考えました。「自社の役員のことを本当によく知っていますか?」と聞かれると、意外と答えられないものです。たとえば、私がよく知っている人物を次期社長に選んだとします。「山本さん、次の社長に指名する人について15分間話しなさい」と言われたら、たぶん話せないでしょう。正直、5分ともたない。会社でいっしょに仕事をしているといっても、その「人となり」を、それほど知っているわけではない。そういうものです。その人の能力レベルや仕事ぶりなど多少は語れますが、本当の意味でその人を語ることは残念ながらできない。

――社長候補となりうる人物の情報を、社外取締役と共有していくのですね。

候補者についてのデータは社外取締役にすべてオープンにする。社外取締役は、候補者について、私が知らないようなことも全部知っています。そういうデータを知ったうえで、社長候補を含めた経営幹部の仕事ぶりを日ごろから見てもらっているので、それぞれ、どんな人なのかよく分かっていただいている。私が「次の社長」を指名するより、はるかに公平で透明性があります。株主に説明するにしても、その人を選んだ理由がパッと説明できます。

「社外の人に何が分かるのか」と言われがちですが、分からなくて当然ですね。それを分かるような仕組みをつくるべきだと思います。社外取締役の人たちと、社内の私たちが同じ情報を共有しているから、社長選びでは「この人はいい」とか「この人じゃない」というものが浮き彫りになってくる。それを毎年、指名委員会で、がらがらぽんではないが、昨年選ばれた人は何人ですが、今年はこの人は外れます、といったことが話し合われる。候補者は毎年入れ替わる。もちろん本人たちは知りません。秘密事項です。

――一方、社長の後継者の育成にも力を入れています。

どこの企業もそうかもしれませんが、以前のように大量に採用された人たちがドッと控えていて、その中から自然にはい上がってくるような状況ではありませんから、育てるべき人材を意識的に育てていかないとダメです。はい上がってきた人に、「はい、社長をやりなさい」というのではなく、社長などができる人材をつくりあげていくというプロセスを経ないと、そう簡単に有能なプロの経営者は出てこない。これほど厳しい環境の中で経営していかなくてはなりませんから。そこで、将来の経営を担えるような人を早めに選抜して、計画的に育成や登用を始めているところです。

■社長が塾頭の「経営塾」

――具体的には、どんな育成をしているのでしょうか。

一例としては、当社では「経営塾」というものを開いています。役員になれそうだと人事評価を受けている人たちをピックアップし、「塾」に参加してもらう。10人ほどのグループ。年に5回ほど、大阪・高槻の研修所で泊まり込みの合宿をします。

研修期間はだいたい1年間。そこで、私もそうでしたが、社長自らが「塾頭」を務めまして、土曜・日曜日の合宿では2日間みっちり参加して、みんなで議論する。塾頭から「J.フロントリテイリングの社長になったつもりで経営戦略を考えなさい」と課題を出して、話し合っているのを後ろから聞く。途中で「こう考えたらどうか」といったアドバイスもします。

夜は食事が終わってから、酒を酌み交わしながら膝をつき合わせながら、いろいろな話をします。「私に聞きたいことがあったら遠慮なく質問してほしい」と言いまして、私に対して「あのM&A(合併・買収)はどうしてうまくいかなかったのか」「どうして大丸と松坂屋は合併したのか」など、ずばりと聞かれます。ふだんは、なかなかそういう話は聞けない。私も自分が経験したことを、腹を割って答えています。

J.フロントリテイリングが運営する「GINZA SIX(ギンザシックス)」

――経営塾はかなり上の世代が対象ですが、ほかの世代に対する育成のあり方はいかがでしょうか。

部長クラスになれるぐらいの世代には、「マネジメント塾」を開いています。そこでは財務など実務的なことを勉強していきます。その下には、もっと若い世代向けに「リーダー塾」があります。全部で3層あります。経営塾とマネジメント塾、リーダー塾。三つのグループをつくって、順番に上がっていくイメージ。これからの時代はそういう育て方をしていかないと、将来を担っていく本当の経営陣をなかなかつくれないと思う。

とくに経営塾をやろうと思った理由があります。私たちの会社は社員に一生懸命教育する会社だと思いますが、経営を担う人材になるんだぞという時期にまったくお金を使っていなくて、それが一番ダメなことだと思った。なんとなく社長になって、「いまから社長業をがんばりましょう」と言っても簡単にできないでしょう。競争環境は厳しいし、変化が激しいし、スピード感があるなかで、経営のかじ取りをどうするのかが問われる。このままの延長線上で生き残っていけるのかどうか。生き残れる可能性が少ないとすれば、どうしたらいいか。そういうことを考えなくてはいけない。経営塾などを経験した人が、ここ数年、実際に経営幹部になり、やりっ放しではなく、実際の登用にも結びついてきました。

大丸と松坂屋の大手百貨店同士の経営統合を発表する記者会見の様子。左は、大丸社長(当時)の山本良一氏=2007年、朝日新聞社撮影

――社長の選び方を変えたり、後継者育成のあり方を見直したりと、コーポレートガバナンス改革を進めている背景には、やはり百貨店事業を取り巻く環境変化があるのでしょうか。

人口減少や高齢化、グローバル化が進んでいることを、小売業の現場でひしひしと感じています。デジタルテクノロジーの進化も加速していると実感します。私たちの百貨店は、100年ほど前からあって、この100年は「いい時代」を過ごしてきました。それが、いまになって百貨店が成長し続けるかというと大きな疑問もあり、立ち行かなくなるような難しい転換期にきている。百貨店がずっと成長していくのであればこのままでよいが、そういう時代ではないから、流れを変えて大きな方向性をつくり動かさなくてはいけない。

これまでは、業務の効率化とか、営業の改革とか、基本的には「現場」をどう変えていくかという話でした。しかし、百貨店を取り巻く環境が急速に変化していくなかで、手がけている事業内容を変えるとか、M&A(合併・買収)をやるとか、業績が悪いところは整理するとか、もっと大きいフレームで改革をしていかないといけない。そういうことを決定していくのは取締役会です。取締役会そのものを変革することで、企業の成長につなげられないか。そう考えたわけです。

「大丸」社長時代の山本良一氏

――山本さんご自身は、2003年に取締役の経験もないままに、大丸社長に抜擢されました。

3月の私の誕生日に社長室に呼ばれて、「おい、頼むぞ」と言われました。あのときは「助走」もなく、いきなりポンと「社長をやれ」と言われました。何とか見よう見まねでやってきたのですが、そういうことが可能だった時代だったのだと思います。いまの事業環境では、そういったやり方、つまり社長のポジションに就いてから社長業を学んでいてはダメだと思います。

■「異分子結合」でさらなる成長を

――取締役会の改革にも力を入れています。議論中心の取締役会になってきましたか。

社外取締役のみなさんが、一切空気を読まない、忖度をしない、そういう取締役会になってきました。決して、「お客さん」感覚で加わっていない。社外取締役も「同じ釜の飯」を食っているという意識で、たまたま社外出身者であり、社外のキャリアを持っているだけという感覚を持っておられる。

最近は、取締役会の8割ぐらいは議論の時間になっているんじゃないか。長いからいいってもんじゃないけど。報告事項はごく短い。私は取締役会議長なので、あちこち話をふることもありますが、発言をふるまでもなく、みんな意見を言います。それを整理するのが大変なぐらいです。取締役会でシーンとしているのは考えられません。

――社外取締役が、取締役会に活力をもたらしている面もあるのですね。

そうですね。これだけ競争が厳しい時代です。海外との競合もあるし、国内の競争相手もいる。同じ業界だけじゃなく、業界を超えたところにライバルが多数いる。そうすると、他社の経営を経験した社外取締役の重要性が出てくるわけです。メーカーで社長をやったことがある人、あるいは財務部門で経営を率いた人、そういう人に社外取締役に入ってもらい、その人たちの知恵をうまく取り込んで、将来の企業の方向性を決めていく。百貨店ビジネスで育った同じような仲間だけで、やろうとしても無理です。私は「異分子結合」という言葉を使うのですが、価値観の違う人が集まり、そこでいろいろ議論して、そこから新しいものが生まれ、育っていく可能性があると思うのです。

コロナ禍で苦しい時期にありますが、コロナが収まれば経営も元に戻ってそこそこよくなるはずだ、と自分たちが見たい部分だけを見るのはよくない。社外取締役は、社内の人が「見たくない現実」をはっきり言ってくれる。そこに意味がある。自分と同じ価値観の人ばかりが集まっていたら、いまそこそこやっておけば将来はよくなると期待してしまうが、現実はそうじゃないんだと、社外取締役はずばり言ってくれる。それが、コーポレートガバナンスのいいところだと思っています。