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強烈な経営者をたたえるアメリカ、たたく日本 企業がさえないままでは経済再生はない

令和の時代 日本の社長
日本投資顧問業協会会長の大場昭義氏
日本投資顧問業協会会長の大場昭義氏=畑中徹撮影

――大場さんは、日本経済の再生には「日本企業の復活が不可欠」と訴えています。

資本主義経済において、ただ一つおカネを生み出せる主体は企業であり、企業は「経済のエンジン」と位置づけることができます。いま、日本ではそのエンジンが何ともさえない。だから、日本に元気がないのです。

株価や賃金の長期低迷が続く日本企業は多く、このままでは従業員も株主も報われません。投資家からの評価も高いとはいえず、世界企業との格差は開くばかりです。株式時価総額でみると、上位はアメリカ企業と、一部のアジア企業に集約されています。

こうした状況を反映してか、資産形成をスタートした若い世代は心得たもので、アメリカ企業など外国企業への投資ウェートを高くして、日本企業への投資は限定的になっているようです。

企業は社会に価値を提供し、キャッシュフローをつくりだすことが仕事です。そのことによって、税金を納め、国のために役立つのです。従業員の給料も増え、家計が豊かになり、収める税金も増える。残念ながら、いまはそうなっていません。

アメリカのGAFAM(グーグル=アルファベット、アップル、フェイスブック=メタ、アマゾン、マイクロソフト)5社の利益と、すべての東証上場企業の利益が同じレベルといわれています。利益水準が低く、結果として納める税金は少ないし、従業員の給料は上がらず、株価も上がらない。これでは、岸田政権の言う「成長と分配の好循環」は実現しません。

――安倍政権のころ、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が導入され、日本企業の価値向上につながるのではないかと、世界の投資家から注目されました。

日本でコーポレートガバナンス・コードが導入された目的は、持続的な企業価値の向上です。コード導入をきっかけにして、企業価値を高めた会社は存在しているのですが、残念ながら一部にとどまって、「稼ぐ力」が弱いままの企業も目立ちます。

コーポレートガバナンス・コードというものは、法律ではなく、あくまで「指針」です。これを、どのように受け止め、どう判断していくかは企業の判断に任されていますから、自ら考え抜く主体的な経営が期待されています。ところが、実態としては「とりあえず指針に従っていれば、それでよし」という安易な思考停止に陥っているように見受けられます。投資家も、企業がコードに従っているかどうか確認するだけの、形式的な取り組みが目立ちます。

――経営者の中には、コーポレートガバナンス・コードは「政府からの押しつけられたものだ」として、根強い抵抗感もあります。

企業は民間組織ですから、経営者が「上からの押しつけだ」と反論したくなる気持ちも分かります。

ただ、別の見方をすれば、なぜ政府が、民間企業の「稼ぐ力」を高めるためにコーポレートガバナンス・コード導入を決めたのか考える必要があるように感じます。かつて、日本は経済一流と評価された時代がありました。その原動力となったのは世界をリードする企業が目白押しだったからです。残念ながら、いまは非常に少なくなってしまった。民間企業に対する「叱咤激励」でもあるともいえると思います。

自ら企業価値を高め、世界と競争できる高収益企業が日本にずらりと並んでいたら、株価も上昇し、従業員の賃金も上昇傾向で推移しているでしょうから、政府はこのようなコードを策定しようとは言い出さなかったかもしれません。民のやることに口出しする政府が「おせっかい」なのか、あるいは民間企業が「だらしないのか」。見方は分かれるでしょう。

海外では、コーポレートガバナンス・コードというものは、どちらかといえば、「経営者の暴走」を防ぐことを目的に導入されています。例えば、多くの海外企業の経営者は、アクセルを強く踏みすぎて「暴走」するようなことがありました。だから、「ブレーキ」が必要ですね、という議論がなされてきました。
一方、日本企業の経営者のほとんどは、そもそも「暴走」しようとする傾向は、非常に弱いのが実態でしょう。自制してリスクをコントロールしてしまう。経営が守りに入っているようにも感じられます。つまり企業として成長することよりも、安定を指向する傾向が強いといえます。

――その一方、経営者がアクセルを踏んで、稼いでいる企業もあります。

確かに、「民間企業」と一括りにすることは乱暴です。なぜなら、日本においても「稼ぐ」ということにこだわって実践している企業もありますから。問題は、そういう企業がごく一部に限られ、世界との比較でほとんどが「稼げない企業」のカテゴリーに分類されていることでしょう。

そもそも、世界企業並みに「稼ぐ」ことを実践している企業や経営者の間では、「政府にわざわざ経営について指図されなくても十分に稼いでいる。コーポレートガバナンス・コードの要件にがんじがらめにされ、負担ばかりが多く、効率性を阻害している」という不満がたまっているとの声も聞かれます。

東京証券取引所
東京証券取引所=朝日新聞社撮影

――企業の価値を向上させるため、社外取締役の役割にも期待が集まります。

一般に、社外取締役については「客観的な意見を述べることが大事だ」と言われます。しかし、社外取締役には株主の代表という「当事者意識」も強く求められます。客観性や独立性ばかりを求めると、社外取締役という仕事が評論家のようになってしまいます。株主の代表として、どのようにすれば企業価値が向上するか、という視点で経営を監督することも重要ではないでしょうか。

そのためには、その企業の実情に精通した専門性も必要になるので、よほど勉強しなければいけない立場です。程度問題ですが、1人で複数社も掛け持ちできるようなものではないでしょう。

――日本企業に「元気がない」のは、日本企業を取り巻く文化にも原因がありそうですね。

アメリカの場合、新たな価値をつくりだすような企業や起業家をサポートする、称賛する、応援する文化がありますね。日本では、お金をもうける、利益を上げると、なぜか批判されやすい。

故ジャック・ウェルチ(米ゼネラル・エレクトリック=GEを率いたカリスマ経営者)とか、故スティーブ・ジョブズ(アップル創業者)、イーロン・マスク(電気自動車のテスラや宇宙ベンチャーのスペースXを手がける起業家)といった経営者や起業家は、それぞれ個性は強烈かもしれませんが、そういう人物も称える文化がアメリカにはあります。

日本だと、他の人たちと違う行動をとると、たたかれたり批判されたりする傾向があります。だから、オーナー経営者以外は、みんな同じような「個性のない同質的な経営者」が多くなってしまう。

あと、日本では、例えば「創立100周年」ということが、ことのほか重んじられます。企業が成長するという価値観より、「存続」の方が大事にされやすい傾向があります。

一方で、アメリカのGAFAMなどの企業は、それぞれの歴史がさほど長くないこともありますが、おそらく「創立○年」といった価値観に重きをおくよりも成長志向が強いのではないでしょうか。

GAFAMもそうですが、企業の歴史を振り返ると、ライバルを圧倒する気迫や熱意のもとでイノベーション(技術・経営革新)は生まれてきました。創業の原点を見つめ直すことも大事でしょう。

繰り返しになりますが、日本経済再生には、「経済のエンジン」である企業の復活が欠かせません。いまこそイノベーティブで創造力にあふれ、世界をリードする企業が日本からも多数生まれることが期待されているのではないでしょうか。