1. HOME
  2. World Now
  3. 堀江貴文氏が考える、いま起業するならこの分野「ITなんかもう超絶レッドオーシャン」

堀江貴文氏が考える、いま起業するならこの分野「ITなんかもう超絶レッドオーシャン」

スタートアップワールドカップ 更新日: 公開日:
自らの起業経験などについて語る堀江貴文さん=7月6日、京都大、関根和弘撮影
自らの起業経験などについて語る堀江貴文さん=7月6日、京都大、関根和弘撮影

堀江貴文さんとアニス・ウッザマンさんの対談の様子

堀江さんは7月6日、京都大学で開かれたスタートアップの世界的なピッチコンテスト「スタートアップワールドカップ2023」の国内予選にゲストとして登壇。主催するアメリカのベンチャーキャピタル「ペガサス・テック・ベンチャーズ」代表、アニス・ウッザマン氏と対談した。

テーマは「日本のベンチャー企業が世界で輝くために」で、堀江さんは自身の起業経験や、今後、世界市場でも競争力がある分野について語った。対談の主な内容は次のとおり。(以下、敬称略)

対談した堀江貴文さん(右)とアニス・ウッザマンさん
対談した堀江貴文さん(右)とアニス・ウッザマンさん=7月6日、京都大、関根和弘撮影

ウッザマン 堀江さんはこれまで色んな企業を作ってきました。大学にいたときにも作ったと思うんですが、起業したきっかけや、そのときどんな挑戦があって、どう乗り越えたのか、聞かせて下さい。

堀江 僕は東京大学の在学中に会社を作ったんですけど、あの時代って何が起こったのか、今冷静に後講釈で分析はできるんですが、ちょうど(オープンソースのコンピューターOSの)Linuxが出てきた時期だったんですよ。

(Linuxの生みの親である)リーナス・トーバルズは僕と同じ世代。ほかにも同世代のNetscapeを作ったマーク・アンドリーセン、イーロン・マスク、Googleのラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンという起業家がこの頃出てきたのは、やっぱりLinuxのおかげだったのかなと思うんですね。

リーナス・トーバルズさん
リーナス・トーバルズさん=2001年5月、東京・お茶の水の小学館

フリーソフトができて、CコンパイラといったUNIXで動くツール類がオープンソース化されて、Linuxのマイクロカーネル(OSの中核部分の設計様式)をフィンランド人が1人で作って、それで自作のパソコンでUNIXが動くようになって、皆さんがインターネットのノード(ネットにつながっている一つひとつの機器)をたくさん作れるようになって、「こんなんでできるんだ」と思って。サン・マイクロシステムズのめっちゃ高いサーバーを買わないとできないのかなと思ったのに、「Linuxって、PCでできるじゃん」と思って。それで起業したんですよね。

それがインターネットの「民主化」が起きた瞬間。インターネットは情報の民主化を行うツールである、と。今だとそうやって一言で言えるんですけど、当時は一言で言いませんでした。

でも、明らかにインターネットによって情報が民主化され、誰もが等しくほとんど全ての情報にアクセスできるようになり、そしてSNSなどでディスカッションできるようになったので、スタートアップのエコシステムっていうのが多分、めちゃくちゃ機能するようになって、「雨後の筍(たけのこ)」のようにベンチャー企業が出てきて、ものすごいスピードでテクノロジーの進化やイノベーションが起きるようになったという感じです。

記者会見に出席するラリー・ベイジ氏(左)とセルゲイ・ブリン氏
記者会見に出席するラリー・ベイジ氏(左)とセルゲイ・ブリン氏=2006年5月、アメリカ・カリフォルニア州のGoogle本社、ロイター通信提供

ウッザマン そのとき起業家として色々なチャレンジがあったと思いますが、当時は資金調達も結構厳しかったのではないですか。

堀江 マクロ経済は全然考えてなくて。私が起業したのは1996年で、日本経済の「失われた10年」と言われていた年。起業から2年後に長銀と日債銀がつぶれて。三洋証券と山一証券もつぶれたみたいな時期だったので、マクロ経済だけを見れば、めちゃくちゃどん底なんですが、私の会社は絶好調でした。

レベニュー(売上・収入)は作れたというのもあるんですが、マクロ経済がどうだろうが、あんまり関係ないんですよね。

経済が全く回ってない、デフォルトしてるような国ではなく、日本経済は実態がちゃんと回ってるんで。1億や2億ぐらいのお金はすぐ集まる。真っ当な商売をやっていれば集まるってことなんです。

ウッザマン プロダクトマーケットフィット(製品やサービスが特定の市場に適している状態)で、やっぱりそのとき必要なものを作ればいい、ということですよね?

堀江貴文さんと対談するアニス・ウッザマンさん
堀江貴文さんと対談するアニス・ウッザマンさん=7月6日、京都大、関根和弘撮影

堀江 いや、必要なものを作ればいいというより、僕はもう、インターネットの未来をいかに早く実現させるのか、自分の頭の中にある、インターネットで頑張っている人たちの頭にある世界をいかに早く実現するのかだけを考えていたので。

何だろう、それを応援してくれる人たち、インターネットが好きな人たちに売っていたという感じですね。「インターネットってなんかよくわかんないけど、面白そうだよね」って言って、お金を出す人しかいなかったです。

ウッザマン そのとき、スタートアップやベンチャーに対する(世の中の)関心はなかったのでしょうか。資金を入れないといけないとか、ベンチャーが本当に育っていくのか、とか。

堀江 日本では初めてそういうことが行われた時期でしたよね。シリコンバレーでは既に当たり前になりつつあったんだと思いますけど。僕たちは全然わからず、そして孫(正義)さんがナスダック・ジャパン作るから上場しなきゃみたいな感じになって、いつの間にか上場してる、みたいな。もう全くよくわかんない状態でやってましたね。

ナスダック・ジャパン市場の取引開始で記者会見する孫正義・日本ナスダック協会副会長(当時)
ナスダック・ジャパン市場の取引開始で記者会見する孫正義・日本ナスダック協会副会長(当時)=写真右端=ら関係者=2000年6月、東京都内のホテル

ウッザマン ちょっと話題を変えます。堀江さんは結構色んな本を出されていまして、4月に出た「信用2.0」という本が気になったんですが、信用2.0って、ざっくりと言うとどういうことですか?

堀江 いやいや、そんな大した本じゃないです、これ(会場爆笑)。ただ、言いたいことは何だろうな、信用、社会的信用というのは、昔は積み上げ方が違ったんですね。例えば大企業で何年とか十何年とか働いて、それによって社会的信用をつけて銀行から金を借りるとか、そういう感じだったと思うんですけど、今は別に中学生、高校生でもいいんですけど、「こんなビジネスアイデアを実装することについて、僕は能力があります」とか、つまり、僕はアイデアとか構想力ではなくて、実行力だと思ってるんですね、実行力でしかない。

「もう動きました。作りました。こういうアイデアあるんだけど、やりました」っていうような人たちが、お金を集められるようなプラットフォームができましたよ、と。

それは大中小とあって、例えば「小」だったらクラウドファンディングで、自分たちのプロダクトサービスを実現するのに何百万円という単位で(資金を)集められるし、逆に言えば、集まらなかったらそのアイデアは社会から受け入れられないということなので、失敗する前に止められる。

すごく素晴らしい仕組みだし、じゃあクラファンが集まりましたと。株式投資型のクラウドファンディングで、本当に1人何十万円ぐらいの感じで投資をしてくれる人たちがいて、何千万円とか集められたりとかして、そうしたら一応、ビジネスってローンチするし、ある程度の売り上げを立てられるようになったら、もうVC(ベンチャーキャピタル)が勝手に寄ってくる。特にね、ITとかはもう完全にそういう世界、そういう時代になってますよっていうことを書いてるだけです。

多分今までの信用の積み上げ方と違うんで、さっさと動いた方がいいと。何か準備をしてとかだと時間がもったいない。僕も今50歳ですけど、もうね、もうすぐ死にますよ、みたいなね(会場爆笑)。

もう50歳だと思って焦った方がいいです。時間をかけて準備をするとか、失敗を恐れるとかやってる間に50歳なっちゃいます。僕が多分、一番焦ってると思いますよ。この中で。

対談する堀江貴文さん
対談する堀江貴文さん=7月6日、京都大、関根和弘撮影

ウッザマン アメリカでも実は、早めに実行しようということがメインのエッセンス。パテントを期待するとか、特許を取得して待つとか、みんなに(アイデア)盗まれちゃったら駄目だとか、そういう考えでは結局、企業を作れないんですよね。

それで堀江さんのもう一つの本「2035 10年後のニッポン ホリエモンの未来予測大全」も紹介したいです。今日の対談のメインテーマは「日本のベンチャー企業が世界で輝くために」ということなんですが、この本の中にもそのテーマは含まれていますか。

堀江 もちろん含まれています。シード(種)的なテクノロジーって山のように大学とか研究機関とかにはあって、企業の中にもたくさんシードの技術ってのはあります。誰も見向きしないんだけど、見る人が見ればわかるという技術が、実は山のようにあって。

日本だと例えば、光関係の技術ってめちゃくちゃすごいんですよ。光ってちょっとアナログなんで、経験と技術の蓄積みたいなものがめちゃくちゃものを言う世界。経験、ノウハウの蓄積が連綿と受け継がれてるからこそ、光技術のレベルの高さみたいなものが維持できてるんですけれども、それって産業化しないと駄目なんですよ。

産業化をして、もうからないとお金が戻っていかないんで。もうからないとか日の目を見なかったら、やっぱり研究者がやる気を失うんで。

こういう状態の中、以前は総花的にやっていてもよかったんですが、日本もアメリカや中国と競合するためには、最近は「重点科目」を絞って、日本の得意分野を伸ばしていかなければいけない。

日本の得意分野はITとかバイオではない。まあ、バイオは多少あるんだろうけれども、ITではないと思うんですよね。ITでGAFAに勝つのは結構、僕は大変だと思いますよ。だって給料が高いもん。何倍も(給料を)あげているんだから、そりゃ行きますよね。日本人だって。

だから、そうじゃない部分でやらないと絶対勝てないと思うんですよ。そういう分野は本当に少なくて。それこそロボットもそうだし、光の技術もそうだし、我々がやってるロケットもそうだし、限られる。

ロケットなんかは産業の総合格闘技なので。まず鉄を作れない、鋼鉄を作れないとロケットって作れないんですよね。つまり鋼鉄を作れないと特殊鋼が作れない。特殊鋼が作らないと工具が作れない。工具がないと工作機械が動かない。工作機械が動かないと部品が作れない、という流れの中で、これ全部サプライチェーンになってるわけですけど、その結果として、高度な部品が作られて、ロケットが飛ばせるわけです。

堀江貴文さん(左)が出資するロケット開発ベンチャー・インターステラテクノロジズのロケット。右は同社社長の稲川貴大(たかひろ)社長
堀江貴文さん(左)が出資するロケット開発ベンチャー・インターステラテクノロジズのロケット。右は同社社長の稲川貴大(たかひろ)社長=2021年6月、北海道大樹町

でも全部それができる国って、アジアに何カ国ありますかと。韓国、中国、インド、でしょ。多分両手で数えられるぐらいしかロケット作れる国ってないので、逆に言うと、競争が緩いですよね。

やっぱり、やるからには日本人であることがアドバンテージになっていることをやる、有利に勝負できる分野に行くべきなんです。

ITなんかもう超絶レッドオーシャンなんで。日本でそこそこうまくいく、ということでよければ全然ITをお勧めします。お金もいらないし、投資はいらない。失敗してもそんなリスク高くない。

ですけど、本当に世界をとろうと思ったら、日本人であること、日本に住んでること、これがアドバンテージになって、競争が緩いところを選ぶしかなくて。

そうなってくると、一つはそういった部分なんだけど、もう一つは僕、キーワードは水だと思っているんですよね。日本は世界で唯一、水の豊かな国、「湯水のごとく」ということわざがあるんですけど、おいしい水が全国でいくらでも使いたい放題という国は、日本しかない。これを生かしたビジネス、それはインバウンド観光なのかもしれないし、何か和牛みたいなものかもしれない。

和牛は僕がやらせてもらってますよね。僕は全部、日本人であること、日本人のアドバンテージがとれること、ニッチというか競争が激しくないことみたいな条件の中で考えてやってるんで、和牛やってるんですけど。そういう事業がいいと思います。

ウッザマン 堀江さんがおっしゃったように、やっぱり海外でのエンジニアの給料はすごいですよ。シリコンバレーだとGoogleとかAppleとかFacebookで働くエンジニアの給料はスポーツ選手と同じぐらい。

堀江 あそこまで(給料が)上がったら、自分でやった方がいいですね。ChatGPTでAIブームになったんで、そろそろ自分でさわんなきゃと思って、久しぶりにPC買って(プログラミング言語の)Pythonの実行環境入れて、Pythonたたいてみたら、めっちゃ簡単じゃんこれ、みたいな。

僕の時代はPythonなんかなくて、Perlとか使ってたんですけど、ライブラリとかまで全部自作しなきゃいけないの。プロトコルも自分で作るとかいう感じの状態で。今は超絶楽だな、みたいな。なんかレゴブロックを組み合わせるようにプログラミングできると思って。

しかもサーバーを自分で作らなくていいんですよ。僕は当時、全部自分で作ったんですよ。UNIX買ってきて、自分でサーバーを組み立てて、データセンターに持って行って、ケーブルつないで。

しかも負荷分散のやり方とか全部自分で考えて紙にサーバー図を書いて。今はやってない。だってAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)で一発ポチじゃないですか。「なんかトラフィック来てるな」と思ったら、ポチポチみたいな。そしてクレカで決済、みたいな。もう超絶楽なんで。

だから今、エンジニアリング的なそういうソフトウェア、SaaS(Software as a Service)みたいなのをやるんだったら、自分でプログラムをやった方が、めっちゃコスパいいです。

ウッザマン 最後の話題になりますが、堀江さん、「ゼロ高等学院」とか「堀江貴文イノベーション大学校」とか、自分の経験を若い世代に教えていこうという活動もやってると思うんですが、それについてお話し下さい。

堀江 教育の話で言うと、僕は小中学校は絶滅しろと思ってるんで。自分にもし、幼い子どもがいたら、絶対に小学校とか入れたくないし。やっぱり大人、先生が子どもの自主性とか自由な考え方とか、何か不規則な動きとかを押さえつけている。でもそれが個性であり、可能性であるんだけど。それを押さえつけないような環境を作ろうと。

社会性がどうのこうのとか言うんだけど、今もネットで自分と同じようなやつらは見つけられる。少なくとも自分と同じようなやつって何百人も世界中にいると思うんで、その人たちとバーチャルでコミュニティーつくればいいと思う。

だけど、親たちが四六時中、子どもの面倒は見られないから、預かるような施設をつくる、施設というかサービスを作る。それも自分でやらなきゃ駄目だな、と最近思っていて。

ただちょっとまたやりすぎて、すぐは受け入れられないと思いますけど、こういうのは全部トラックレコード(過去の実績)なんで。そこで育った子たちが活躍したら、みんな手のひら返すんですよね。でも子どもってすごくコスパよくて。小学校から6年たったら18歳なんですよ。大人なんですよ。そう考えたら、たった6年で結果がわかるから、すごくよくないですか?