1. HOME
  2. 特集
  3. 変われ!学校
  4. オランダで注目「イエナプラン教育」日本にも出てきた導入校

オランダで注目「イエナプラン教育」日本にも出てきた導入校

Learning 更新日: 公開日:
ホワイトボードに書き出された、イエナプラン教育のキーワード

■問いを自分で立てる

広島県福山市は、常石造船を傘下に持つツネイシホールディングスが本社を置き、JFEスチール西日本製鉄所がある中国地方の大都市だ。造船所を望む市立常石小学校は2022年度、「イエナプラン教育」をとりいれた全国初の公立小学校として再スタートする。

イエナプラン教育はドイツで提唱され、オランダで発展・普及した。一人ひとりの発達や個性を大切にしながら自律と共生を重視する。生徒は6~9歳、9~12歳といった異年齢グループで学ぶ。時間割は「(サークル)対話」「遊び(演劇など)」「仕事(学習)」「催し」の四つを循環させて組み立てる。多様な生徒が協働して学ぶのが特徴だ。

その研修が7月末、常石小で開かれた。

参加したのは、中学の先生を含め約20人。「日本イエナプラン教育協会」の中川綾(42)が説明する。「『総合的な学習の時間』や学習指導要領と方向性は同じです」。ホワイトボードに「テーマ」「探究」などと丸で囲んで記される。「子どもの興味関心」と「大人の意図」が関連づけられたが、「評価」は別枠で示されていた。オランダの一般的なイエナプランスクールでは、子ども一人ひとりがどんな学びをしたのかを文書で表記するという。

イエナの「ハート」とされるのが「ワールドオリエンテーション」。教科の枠を越えて、生徒が自ら問いを立て、考え、創造する力を育むことを目指す。研修では、4~5人に分かれてテーマを検討した。あるグループは「造船所」を挙げた。「目の前の工場を見学し、町の歴史や地理を調べる。工場にある電磁石の原理や働きについて知れば、学びが広がる」

現場の先生には不安も残るようだ。常石小教諭の梶田裕美子(26)は「研修で、見えていなかったところが少し見えてきた。不安と期待が半々」と話す。

■「学ぶは楽しい」知って欲しい

新生・常石小は定員180人ほどの予定で、希望すれば全国から受け入れる方向だという。イエナプラン教育の導入に踏み切ったのはなぜか。福山市教育長の三好雅章(61)は「学ぶことは楽しい、と感じて欲しかった。学ぶ環境や学び方を研究してきて、イエナがあった」と話す。

教育長に就任した14年以降、子ども主体の学びを重視し、教科や学年の枠を超えた教育課程を少しずつ編成した。先生の研修を毎月するなど、地ならししてきた。そんなときイエナに出合った。昨年11月のオランダ研修だった。誘ったのは広島県教育長の平川理恵。文部科学省も昨年6月、人工知能(AI)などの先端技術が高度化した社会「Society5.0」の人材育成について、一人ひとりの能力や適性に応じた学習、異年齢集団で学ぶ重要性を指摘した。常石グループも資金協力を申し出た。お墨付きはそろい、環境が整った。

2019年4月、長野県佐久穂町に、イエナプラン教育を実践する私立の大日向小学校が開校した。イエナプラン教育協会代表理事の久保礼子(63)は「日本でも、一斉型授業ではなく主体的な学びが大事だという流れがあり、イエナのやり方とマッチして、関心が高まっている」と話す。

オルタナティブスクールなど多様な学びの場を認める動きは広がっていくのか。聖心女子大学教授の永田佳之(国際比較教育学)は「日本には学校教育が唯一最良のシステムであるという、ある種の信仰がある。そこから逸脱してはいけない、という大人たちのとらわれが、多くの子どもたちの生きづらさを生んでいる」と指摘する。

聖心女子大の永田佳之教授

永田の研究によると「多様な学びが認められている国で、そうした教育を選ぶのは全体の1割程度。それを大きく超えることはない」という。「でも、その1割が大切なものとして社会の中で位置づけられ、公教育の中で一翼を担うことに意味がある。『1割の妙』が教育全体の風通しをよくして、残りの9割にも新鮮な空気を吹き込んでいく。怖がらず、発想を転換することが必要だ」

■まだ制約多い、日本のオルタナティブスクール事情

国が認める「学校」以外の「もう一つの学校」として世界で広がったオルタナティブスクール。日本にも、主に不登校の子が通う「フリースクール」のほか、ドイツの芸術の要素を取り入れた「シュタイナー教育」、年齢や発達の程度が異なる子がグループで学び合う「イエナプラン」など、さまざまな理念や教育方法を取り入れた学びの場がある。

文部科学省が2015年に実施したアンケートによると、小中学生だけで少なくとも4200人以上が約320の施設に通う。NPO法人が運営する100人規模のところも、個人で住宅の一室で開いているところもあり、国も把握できていない。オンライン教材などで自宅を拠点に学ぶホームスクーリング(ホームエデュケーション)を選ぶ人もいる。

ただ、日本では、学校教育法1条に定められた「学校」以外で義務教育を行うことは認められていない。こうした「学校以外の場」は公教育の枠から外れた存在で、地元の学校に二重に在籍する必要があったり、公的補助が乏しいため授業料が高かったりと、さまざまな制約がある。

こうした状況が、不登校の増加にも影響しているというのは、多くの専門家が指摘するところだ。年間30日以上学校を欠席した「不登校」の小中学生は17年度に過去最多を更新し約14万人に。保健室登校などの「不登校予備軍」も中学生だけで33万人に上るとの日本財団の調査結果も出た。

3年前に成立した「教育機会確保法」は、当初案にオルタナティブスクールやホームスクーリングを義務教育と認める内容が盛り込まれていたが、「不登校を助長する」などの反対論が出て削られた。「学校以外の場での多様な学習の重要性」は明記された。