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5歳の娘のために書いた科学絵本 中国で250万部の大ヒット

Bestsellers 世界の書店から
Photo: Toyama Shigeki
Photo: Toyama Shigeki

書籍専門サイトのランキングは最近上位が固定化しているので、今回は趣向を変えてオンライン書店『当当網』から。

リアル書店との顕著な違いは、セット物や全集などボリュームのあるもの、不朽の名作が目立つこと。昨年の総合トップは、太宰治『人間失格』(楊偉・訳/2015年版)。ブームのきっかけは太宰生誕100年の2009年前後に日本で映画化や漫画化されたことか。太宰ら文豪と同名の登場人物たちが活躍する日本の漫画『文豪ストレイドッグス』の影響か。

著作権切れで訳者も出版社も異なる訳本が毎年のように刊行され、訳文の良し悪しも議論される。時代も国境も超える名作の新訳は今後も続くだろう。

今回取り上げる『這就是二十四節気』は、自然の変化を四季よりさらに細分化した「二十四節気」を全4冊で丁寧に紹介する科学絵本。地理・地形学の研究者と教育学の研究者夫婦が、当時5歳の娘・牙牙のために探し求めた「二十四節気」に関する絵本がなかったことで、自ら作った。日本でいう「啓蟄」を中国では「惊(驚)蟄」と表記する他は、日中の二十四節気は同じだ。子供は一通り歌で覚えるが、それぞれの意味を家庭で教える機会は減っているという。本書では、二十四節気発祥の地・黄河流域の農村で暮らす祖父母との生活体験から、季節をめぐって牙牙が意味や由来を学んでいく。

たとえば冬至に食べるものと言えば、日本では南瓜だが、中国では餃子。故郷の農民が、耳が凍傷になるほどの寒さと飢えに苦しむのを目にした後漢時代の聖医・張仲景が、小麦粉を練った皮で漢方薬になる食材を耳の形のように包んだものを煮て人々に食べさせ、飢えと凍傷から救ったことに由来する。また、編んだ紐でゆで卵を包み、首にさげる立夏の風習「挂蛋」。疲れがちな初夏に無病息災を願うもので、子供たちはその卵をぶつけあう遊びを楽しむ。日本には伝わらなかったが、中国でも近年見られなくなっている。

都市生活に根付いている二十四節気の習慣もあるが、その意味が希薄になる中、農村生活を懐かしむ大人にも人気だ。2015年の刊行後、今年1月に計250万部に達し、家庭に必須の定番に。優しい色彩が美しい絵巻物風で、折々にめくりたくなる。

  ファーブルに学んだ地理本

『我的第一本地理啓蒙書』も親子で楽しめる一冊。「地理は小学生のときから学んでいるはずなのに、大人でも東西南北がわからない人、地図が読めない人がいて、見知らぬ土地ではスマートフォンのナビ機能に頼るしかない。これは、地理の知識が積み重なっているだけで、地理的思考が形成されていないからだ」

子供は、両親の間に座る。右にママ、左にパパだったはずなのに、くるりと体の向きを変えたら、右にパパ、左にママ。左右で方向を示すなら、前、あるいは後ろにあるものを「参考物」として指定しなければならない。太陽が木の上から昇るのを示す象形文字が東であり、夕方になると鳥が帰ってくる巣を描いたのが西……という具合に身近なところの「どうして地球は回り続けているのに、僕らはちっとも感じないの?」「高い山に登っても星には手が届かないの?」といった疑問に答えてゆく。全般的に「広く浅く」という印象だが、子供に読み聞かせながら、その視点を借りて、当たり前であったことが意味をもって見えてくるようになり、いつしか日々の生活の中に「地理的思考」が生きてくる。

児童書制作のみならず、会員制の「童書館」を創設した著者が、本書を書く際に誰よりも啓発を受けたのが『昆虫記』のファーブルだという。確かに、直接語りかけてくるわかりやすい文章のスタイルは、ファーブルの語り口のように優しく、語り手自身が楽しんでいるのが伝わってくる。

 社会に疲れたときに読む?国民的哲学者の一冊

「愛とは理由なく愛しく、前提のいらない寛容である」「人は自分の運命を支配することはできないが、自分の運命に対する態度を支配し、自分に降りかかる逃れられない巡り合わせを心穏やかに引き受けることはできる」

中国の国民的哲学者というべき周国平による、第1位の『我喜歓生命本来的様子』は生命、愛、魂について、「いかによりよく生きるか」を珠玉の言葉で綴った散文集。本書の人気も『人間失格』ブームも、めまぐるしく変化する社会に適応しなければと必死になっている人々が、疲れ、孤独を感じた時、自身を見つめなおすために読む本だからなのだろう。正反対の読後感ながら、どちらにも同じように「人間とは何か」という答えのヒントがつまっている。

中国のベストセラー(ノンフィクション部門)

『当当網』20184月月間ベストセラーリストより

『 』内の書名は邦題(出版社)

1 我喜生命本来的

周国平

中国を代表する哲学者が説く、「生命本来のありさまを尊重すること」の意味

2 雪落香杉

『殺人容疑』(講談社文庫)

戴維·伽特森  デイヴィッド グターソン

ペン/フォークナー賞(第15 1995年)を受賞。映画『ヒマラヤ杉に降る雪』原作

3 活着

『活きる』(角川書店、邦訳絶版)

余華

子孫へと語り継がれる刊行から25年の名作。世界的作家の代表作

4 神奇校車(全20巻)

『フリズル先生のマジック・スクールバス』(岩波書店)

ジョアンナ・コール著、ブルース・ディーギン絵 

恐竜時代や宇宙空間に子供たちを運ぶスクールバス。科学の世界へと誘う絵本

5 我的第一本地理啓蒙

鄭利強・著 段虹・絵

身近な生活の中からいかに世界を見つめるか。地理に対する興味をかきたてる本

6 小さ熊和最好的爸爸(全7(オランダ)

Arend van Dam・著、Alex de Wolf・絵

小熊とその父親の日々に学ぶ、豊かな父子関係。

7 就是二十四

高春香、邵敏・著、許明振、李婧 ・絵

農村の祖父母の家で、都会育ちの少女が体験する豊かな自然の中の二十四節気。

8 少年読史記(全5巻)

張嘉驊 

中国人必読の歴史書『史記』の子供向け入門書。

 天才在左 子在右

高銘

メディアプロデューサーが4年間をかけた「国内初の精神障害者取材手記」。

10 解憂雑貨店

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川文庫)

東野圭吾

中国のSNS「豆瓣」読書コミュニティーのレビューは、3年あまりで1万件を超える。