第2期トランプ政権の暴露本 大統領に返り咲くまでの4年 ショーは再び続く

第2期トランプ政権が発足したばかりだというのに、政権の暴露本『All or Nothing』が発売された。著者マイケル・ウォルフ氏は、2018年に出版され、当時のトランプ政権が発売阻止を試みたにもかかわらず数百万部を売り上げた『炎と怒り』を含む3冊のトランプ本の著者としても知られる。本作は、前作までと同様、多数の匿名内部関係者からの情報をもとに2020年の選挙敗北後から、トランプ氏が大統領執務室に返り咲くまでの4年間を追っている。本書の内容の一部が発表された直後、トランプ大統領は自身のSNSで「彼が書いた他のジャンク同様、完全なフェイクだ」と猛反発した。
トランプ氏はいかにしてアメリカを取り戻したのか。本書で描かれる大統領の姿には、その問いの答えとなるウォルフの鋭い洞察を見ることができる。
著者によれば、第1期政権終了後、トランプ氏は「友人や親しい人がほとんどいない男」となり、「金で雇った仲間たちと行動をともにするようになった」。そして、自分に口答えをする者は誰ひとりとして許さなかったという。
そんな側近の中には、究極のイエスマンで、バイデン氏の勝利認定を阻止するために奔走したボリス・エプスタイン氏や、インターネット上で見つけたお世辞記事を提供するために一日中、トランプ氏に付き添い、小型プリンターを携帯していることから「人間プリンター」という異名をもつナタリー・ハープ氏もいた。彼女は現在も大統領に最も近い人物で、情報の「門番」とも言われている。
2021年の米議会議事堂襲撃事件以降、娘のイバンカ氏と娘婿のクシュナー氏はトランプ氏と距離を置くようになった。ふたりはユダヤ教徒であり、「トランプ氏は反ユダヤ主義者ではない」という声明への署名を拒否した。クシュナー氏は義父への正式な支持を「避け続けた」という。また、メラニア夫人の夫に対する「憎悪」についても詳しく書かれている。
選挙での勝利が現実味を帯びるなか、億万長者や、利権目当ての者たちがトランプ氏の周囲に戻ってきた。バンス氏やイーロン・マスク氏も登場する。本書によれば、トランプ氏はバンス氏の副大統領候補指名を最後まで躊躇(ちゅうちょ)していたという。だが、マスク氏は、バンス氏を候補にしない限り、トランプ氏を支持しないと表明していたとされる。
2024年の大統領選は、多くの訴訟を抱えていたトランプ氏にとって、まさに「生きるか死ぬか」の勝負だった。トランプ氏は2度の暗殺未遂、4件の刑事起訴、多数の民事訴訟を乗り越えた「最も幸運な人物」であり、また、「米政治史上最も非凡なショーマン」だと著者は指摘する。彼にとって「法的戦略はメディア戦略であり、メディア戦略は法的戦略」だった。実際、ニューヨークでの裁判は、メディアの注目を集め、「無実の被害者」として有権者の同情をあおることで、莫大(ばくだい)な選挙資金を集めた。選挙集会での暗殺未遂事件の直後も、拳を突き上げ、自らの強さをテレビカメラの前で誇示した。ジョージア州での逮捕直前には、逮捕時の顔写真撮影のための表情を何度も練習し、実際に撮影された写真を目にした時には「これはクールだ!」と大喜びしたという。
ウォルフは本の最後で、「彼の年齢、任期制限……という避けられない事実もある。権力は衰退する」「いつかは……その物語は終わるのだ」と記しているが、大統領はすでに3期目の大統領職を目指す可能性についても言及している。
第2期トランプ政権発足後、米国そして世界で毎日、実に驚くべきことが起きている。米国の文芸雑誌『The Yale Review』誌の評者は、本書を読んで「トランプ氏がいかに変わっていないかに驚かされた」と言う。「トランプの世界では、ためらうことも、間を置くことも、考え直すこともない。ショーは続けられなければならないのだ」と。
(eブックを含むノンフィクション部門)
3月16日付The New York Times紙より
『 』内の書名は邦題(出版社)
The Body Keeps the Score
Bessel van der Kolk
『身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法』(紀伊國屋書店)
ベッセル・ヴァン・デア・コーク
トラウマが心身に与える影響と革新的な治療法を紹介するロングセラー。
I’ll Have What She’s Having
Chelsea Handler チェルシー・ハンドラー
人気女性コメディアンが、公私にわたる出来事を語るエッセー集。
On Tyranny
『暴政:20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン』(慶應義塾大学出版会)
Timothy Snyder ティモシー・スナイダー
20世紀から学ぶ、専制政治に関する20の教訓。
The Anxious Generation
Jonathan Haidt ジョナサン・ハイト
スマホ中心の生活が子どもたちの精神衛生に与える影響。
The Technological Republic
Alexander C. Karp and Nicholas W. Zamiska
アレクサンダー・C・カープ& ニコラス・W・ザミスカ
IT大手の上級幹部が、米国に対する潜在的な脅威について警鐘を鳴らす。
The House of My Mother
Shari Franke シャリ・フランキー
元人気ビデオブロガーを母親にもつ娘が、母親から受けた虐待を語る。
Source Code
Bill Gates ビル・ゲイツ
マイクロソフト社の共同創設者が回想する幼少時代とコンピューターとの出合い。
Seven Things You Can’t Say about China
Tom Cotton トム・コットン
アーカンソー州選出の共和党上院議員が、中国からの脅威について語る。
All or Nothing
Michael Wolff マイケル・ウォルフ
『炎と怒り』の著者が描く、2024年のトランプ大統領選挙陣営の舞台裏。
The Wager
『絶海:英国船ウェイジャー号の地獄』(早川書房)
David Grann デイヴィッド・グラン
18世紀中期、英西の海上覇権争い中に難破した英国船の生存者たちの物語。