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アメリカ共和党いつ変節?トランプ氏登場前、起源となる人物いた 辛辣論評の分析本

Bestsellers 世界の書店から 更新日: 公開日:
洋書『The Destructionists』
『The Destructionists』=山本正樹撮影

11月の中間選挙を控え、米国では民主党と共和党の対立が激化している。

バイデン大統領は9月、フィラデルフィアの独立記念館前で演説。中間選挙を「この国の魂をかけた戦い」と位置づけ、トランプ前大統領とその支持者たちが米国の民主主義を脅かしている、と強い調子で語った。

共和党は、いつからトランプ前大統領を支持する政党に変わってしまったのか。

ワシントン・ポスト紙のコラムニストのデイナ・ミルバンクは、本書『Destructionists(破壊者たち)』で、2021年1月6日の米議会議事堂襲撃事件に至るまでの四半世紀にわたる共和党の変遷について辛辣(しんらつ)な論評を展開している。

著者によれば、2015年にトランプが大統領選に出馬する前から、共和党は彼のような人物に脆弱(ぜいじゃく)になっていたという。

出発点は、1995年に下院議長に就任した共和党のニュート・ギングリッチにあると著者は断言する。冷戦終結後、反共産主義の指針を失っていた共和党は、民主党に対する強硬姿勢を打ち出すことで党の結束を図った。

ギングリッチは扇動的な言葉を使い、クリントン政権を攻撃した。その手法は、事実と異なる証拠のない主張を、誇張を交えて執拗(しつよう)に繰り返すというものだった。

象徴的なものに、クリントン政権初期の大統領副法律顧問ヴィンス・フォスターの死がある。

検視の結果、フォスターは明らかに自殺だったが、共和党は、クリントン夫妻による暗殺説を約2年にもわたって展開。政治を陰で操る闇の政府(ディープステート)の陰謀論をアメリカ社会に浸透させた。

また、ギングリッチは労働者階級や地方の白人と有色人種を敵対させる人種差別的な政策を推進。党の方針に従わず、民主党との対話を模索する同胞の共和党員への人格攻撃や中傷もいとわなかった。

共和党の人々は、たとえ嘘であっても支持者が聞きたいことを伝えることが自分たちの利益になると判断した、と著者は分析する。

それまで陰謀論や虚偽の考えを持つ人は常に社会の片隅に存在していたが、突然、共和党の指導者やコメンテーターら影響力のある人間が、明らかに事実と異なることを言うようになった。

1996年に開局したFOXニュースは、共和党の偽情報やプロパガンダ、陰謀論を繰り返し全米に配信。その後は右派ネットメディアが台頭し、右派のプロパガンダネットワークが確立されていった。

オバマ政権の発足によって、共和党の過激主義的な傾向に拍車がかかった。オバマが大統領就任の法的前提条件とされる米国籍を持っていないのではと疑問視する「バーサー(Birther)運動」、サラ・ペイリンに代表されるティーパーティー運動、民兵組織や白人至上主義グループの台頭、トランプ大統領就任、そして議会襲撃事件。現在に至るまでの共和党の嘘とその担い手が、次々に紹介されていく。

著者は数十年にわたってワシントンの政治を取材してきたが、1990年代から積み重ねられてきた共和党の嘘が、まさか民主主義社会を破壊する道につながるとは思いもよらなかったと語っている。

本書と同様に、議会襲撃事件や共和党の変貌など民主主義の危機を訴える書籍は、今年に入って多数発行されている。だが、主要メディアの報道はすべて嘘だと信じているトランプ支持の共和党員が、こうした声に耳を傾ける可能性は残念ながら低いように思える。

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 Path Lit by Lightning

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ワシントン・ポストのコラムニストが、四半世紀前からの共和党の変遷を検証。

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