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トランプ時代の政治とは何だったのか

国際ニュースの補助線
ジョージア州上院選を応援するために開かれた集会で演説するトランプ大統領=ジョージア州バルドスタ、ランハム裕子撮影、2020年12月5日

2021年1月20日、最後まで選挙の敗北を認めなかったトランプがホワイトハウスを去る。政策のみならず、経歴、コミュニケーション手法、思想、外交、政府組織マネージメントなど、あらゆる面で他に類を見ない大統領であり、今後、トランプ大統領時代をどのように評価し、記述するのかに関しては多くの議論がなされるであろう。とりわけ、再選を目指した大統領選に敗れたにもかかわらず選挙不正を訴え続け、それがしまいには1月6日の連邦議会議事堂乱入事件を引き起こす結果をもたらしたことは、アメリカの歴史に大きな爪痕を残すこととなった。

トランプ政権の四年間を振り返り、まとめるにはまだ時間がかかるだろうが、ここでは今年に入ってからの出来事を踏まえて、トランプ時代とは何だったのかを考えるための補助線を引いてみたい。

強烈なエゴによる統治

しばしばトランプ大統領の行動は予測不能とみられ、通常の大統領ではやらないことを平気で実行することで、多くの人を驚かせてきた。しかし、トランプ大統領の行動を彼のエゴに焦点を合わせて見直してみると、驚くほど一貫しており、彼のエゴを守ることがすべての行動原理になっていたとみると説明がつくことも多い。

例えば2016年の大統領選挙でトランプは勝利したわけだが、実はその時も投票する資格のない不法移民が投票しているなどと主張し、勝った選挙にも関わらず選挙不正を訴えていた。それは州ごとに選出される選挙人投票では勝ったが、一般投票(実際に人々が投じた票)では300万票もヒラリー・クリントン候補に負けており、それが彼のエゴを傷つけ、負けた理由を探した結果、不正投票が行われ、そのせいで負けた、という世界が出来上がったのである。これは2020年の大統領選挙と全く同じ発想であり、トランプ大統領は2020年の選挙で負け、大統領職を失うということよりも、選挙で負けたという事実の方が受け入れがたいものであった。もしトランプが大統領職にしがみつきたいのであれば、2024年に再挑戦して勝つという道もあったが、そんなことよりも目先の選挙で負けたことに不満があったため、自らの支持者が離反するリスクがあっても、あらゆる手段を使って選挙結果をひっくり返そうとしたのである。

その1月6日の暴動も、そもそもはトランプ大統領が選挙に勝利したことを信じる人たちを集めて大規模集会を開くというところから始まっている。新型コロナが蔓延する中でも支持者を集めて集会を開き続けたのも、最後の大規模集会も、とどのつまりはトランプが自分を熱狂的に支持する人たちの前に立つことで自らのエゴを満足させることができるからである。演説の内容を見ても、政策的な話はごくわずかであり、自らの政敵や対立候補をこき下ろし、聴衆を煽って熱狂させることに多くのエネルギーを注いでいる。これは、トランプがしきりにテレビ演説の視聴率を気にし、自分がどう報道されているか、自らの敵よりも多くの視聴率を得ているかを気にする強烈なエゴのなせる業である。

もちろん、政治家は一般的に強烈なエゴの持ち主であり、そのエゴが原動力になっている。しかしトランプの場合は、その規模が極めて大きく、事実や現実を否定し、自らのエゴを満たすことを目的とした行動をとるため、ルールや慣習を無視し、その行動がもたらす帰結を考えずに判断をする。それがしばしば破壊的な結果をもたらすことになる。その集大成ともいえるのが1月6日の議事堂乱入事件であったと言えよう。

連邦議会議事堂に集まるトランプ支持者たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

イエスマンによる政治

巨大なエゴを行動原理とするトランプは、人々が自分を支持するのは当たり前だと考えているが、自らに歯向かい、批判する人々や彼の求めるものを実現できない人に対しては極めて厳しい。その結果、閣僚や補佐官、報道官など、政権運営の中枢を担うスタッフが前例のない数で辞任ないしは罷免され、その職を去ることになった。ムニューシン財務長官やロス商務長官など、政権発足当初からその職についている閣僚は18人中5人しかおらず(CIA長官から国務長官となったポンペオを含む)、閣僚級のスタッフも最後まで職についていたのはライトハイザー通商代表しかいない。大統領顧問としては娘婿のクシュナーや貿易顧問のナヴァロ、スピーチライターのミラーなどがいるが、いずれもトランプに忠実でイデオロギー的にトランプに同調する人たちである。

これはトランプが自らの求める政策や結果を性急に求め、それを実現できないスタッフに対して、それが実現しない理由や制約などは考えずにクビにするというプレッシャーを与えれば結果が出るはずだ、という信念に基づいている。これは、かつて不動産業を営んでいたトランプは、そうした圧力をかけることで組織を動かし、様々な新しいこと(トランプ大学やトランプ航空など)にチャレンジし、失敗してきたパターンと同じである。トランプ大統領は圧力をかければ法の抜け穴や法律の解釈を歪曲させられることと経験的に学んでおり、部下にもそれを求めることで何事も実現可能だというイメージを持っているが、それを強圧的に押しつけて部下が嫌気を指し、やる気を失って失敗するのである。

しかし、ビジネスと政治は様々な点で異なっており、いくら圧力をかけたところで政策が実現するわけではない。また、トランプはアメリカの国家構造の基本である三権分立を十分に理解していないところがあり、議会共和党は自らの部下だという認識を強く持っていた。確かに議員の多くはトランプの方針に迎合し、共和党が「トランプ党」となっていた側面はあるが、それは議員たちがトランプ支持者の票を自らの支持に結びつけようとしていたことが大きく作用しており、必ずしもトランプの言いなりになるというわけではなかった。そのため、1月6日の議事堂乱入事件の責任を問う下院の弾劾決議で10人の共和党議員が賛成に回ったことに対してトランプは強い憤りを感じていた。

この点は最高裁の判事に対しても同様である。トランプの中では三権分立に基づく司法の独立ということは理解されず、トランプが指名した3人の判事が2020年の大統領選挙の不正を認めなかったことに対して、最高裁の保守系判事に対して罵声を浴びせるようなツイートを繰り返していた。トランプは、自らが指名した判事は恩義を感じていないと非難したが、そもそも最高裁判事はそうした政治的介入を拒否することが前提となっており、それゆえ政治によって判事を解任できないよう、終身制になっているが、トランプにはそうしたことが理解できていなかった。

トランプはイエスマンに囲まれ、自らが求める結果を手にすることでエゴを満たすという政権運営をしてきたわけだが、アメリカの大統領制はある程度それが可能となる仕組みである一方、三権分立によって必ずしもトランプが望んだとおりにはならない、ということも示した。二度目の弾劾決議の採択では共和党から10人の議員が賛成票を投じただけでなく、これまでトランプの指示を忠実に実行してきた下院院内総務のマッカーシーもトランプの責任を問い、トランプと戦略的に連携してきた上院院内総務のマコーネルもトランプを突き放している。彼らもトランプ時代の政治では重要な役割を果たしたが、彼らが離れていったことで、共和党内にもトランプの居場所はなくなっていくことであろう。

連邦議会議事堂の外で「トランプ勝利!」と書かれた新聞を持つ女性=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

ウソと陰謀論

トランプが政治の舞台を降り、共和党が彼の居場所を奪ったとしても、トランプが開けたパンドラの箱から飛び出したものは元には戻らない。その飛び出したものは「トランプ主義」ともいわれるが、一言で言えばウソと陰謀論によって成り立つ世界を信じる人たちが、「もう一つの事実(Alternative Fact)」を堂々と主張し、それを現実世界に持ち込むことを認めた、ということである。

トランプ支持者には様々な集団がいるが、共和党大統領だから支持する、民主党が嫌いだから支持するといった党派的なものだけでなく、中西部のラストベルトで苦しい生活をしている人たちに語り掛け、これまでの政治とは異なったことを実現するかもしれないという期待を持つ人や、宗教的な理由から妊娠中絶反対、同性婚反対といった価値に重点を置き、それを実現してくれる大統領としての期待を持つ人もいる。しかし、そうした真っ当な政治的な支持とは異なり、ウソと陰謀論に基づき、トランプが腐敗した政治を一掃する救世主として崇め、トランプがいなくなればアメリカは外国の支配を受ける、小児性愛者ばかりの民主党による人身売買が始まるなど、何の根拠もない陰謀論を信じ、トランプを勝たせるためであれば暴力を用いることもいとわないというグループがいることも確かである。

こうした「もう一つの事実」を信じ、現実世界での事実を否定し続ける人たちが、これほどまでに多く、アメリカ政治に大きな影響を与えうるということを示したのが、1月6日の議事堂乱入事件であった。彼らは民主主義的な制度やプロセスに対するリスペクトは一切なく、そうした制度はエリートやエスタブリッシュメントが権力を持つための仕掛けでしかないとみている。その制度を乗っ取り、彼らが信じる「もう一つの事実」に基づく世界を実現する人こそトランプなのだという理解を示している。

こうしたウソと陰謀論が政治の表舞台に現れたことこそ、トランプ時代の最大のレガシーであろう。これまでも白人至上主義者やネオナチ、人種差別主義、宗教原理主義など様々な思想に基づく集団は存在しており、また、彼らは一部の地域では大きな影響をもってはいたが、それでも民主主義的なプロセスを受け入れ、またはそのプロセスから排除されたことで、暴力によって「もう一つの事実」に基づく世界を実現しようとはしなかった。しかし、トランプがけしかけ、煽った結果、その一線がついに崩壊した。

ただし、これは1月6日に突然起こったことではない。2016年の大統領選の前から、トランプは当時の大統領であるオバマがケニア生まれであり、大統領の資格を持たないという「バーサー運動」を主張し、トランプの大統領就任式の参加人数が明らかに少なかったにも関わらず、史上最高の参加だと主張した(いみじくもその時に「もう一つの事実」という言葉が生まれた)。その後も幾度となくウソや陰謀論を展開し、新型コロナウイルスの対応が遅れたことで40万人が亡くなるという事態を招いたことは周知の通りである。

こうしたウソや陰謀論を現職の大統領が主張し、メディアによる批判を「フェイクだ」と言って棄却し、それに対して誰もトランプを止められずに4年間の大統領の任期を全うするということを示したことの意味は大きい。つまり、ウソや陰謀論を使ってでも選挙に勝ちさえすれば、そのウソや陰謀論が正当化され、現実の政策に反映されるという実績を作ってしまったこと、さらには、そうしたウソや陰謀論を信じ、トランプに投票する人が7400万人もいる、ということは、これからもアメリカ政治においてウソや陰謀論を振りかざし、「もう一つの事実」の世界の住人が政治の表舞台に出てきて、権力を握り、それを支持する人たちがいる、ということを意味する。そうした政治的土壌が豊かに存在するということを明らかにしたことこそ、トランプの最大のレガシーとなるだろう。

大統領選投票日の夕方、「米国を再び偉大に」というトランプ大統領のスローガンが書かれた陶器の帽子が割られていた

バイデンが引き継ぐアメリカ

1月6日の議事堂乱入事件は、結果としてトランプ時代の政治が行きついた姿を明確に可視化し、こうした混乱を生み出してしまったことに対する後悔や恐れが議会だけでなく、アメリカ全体を覆っている。そんな中でバイデンが新たに大統領に就任することになるが、彼に課せられた課題はあまりにも大きい。政策の分野ではパリ協定への復帰など、大統領に就任することでトランプ時代の政治を巻き戻すことはできるが、厄介なのはトランプが開いたパンドラの箱から飛び出した、ウソと陰謀論を信じる人たちがアメリカに一定数存在し、彼らが政治的に正当な存在であると自認し、バイデンが目指す「アメリカの統合」を阻む可能性が高いという点である。これまでアメリカの分断や分裂は多く語られ、バイデンはその溝を埋める存在として期待され、トランプ時代に傷ついたアメリカを癒す大統領になろうとしている。しかし、「もう一つの事実」の世界の住人は、バイデンを正統な選挙によって選ばれた大統領としては認めず(実際、共和党支持者の75%がバイデンは正統な大統領ではないとみているとの調査もある)、バイデンがいかに誠実に、事実や科学に基づいて彼らを説得しようとしても、陰謀論を信じ、「もう一つの事実」の世界に住む人たちに、その言葉は届かないだろう。

バイデンが引き継ぐアメリカは、事実や科学といった共通言語を失い、互いに対話する可能性が著しく低い集団に分裂したアメリカであり、そのウソと陰謀論を否定しない人たちが7400万人もいる国である。バイデンはそれでも持ち前の楽観主義で希望を持ち、現状を少しでも良くしようと努力するだろう。ツイッターなどのSNSもウソや陰謀論の拡散を妨げるような姿勢に転じ、トランプ時代のように堂々とウソと陰謀論がまかり通るということは無くなっていくだろう。しかし、もしトランプと同様に、社会の分断を利用し、「もう一つの事実」を信じ込ませることができる政治家が現れ、「もう一つの事実」の世界の住人を組織化するようなことがあれば、アメリカを再び統合するということは、極めて困難になるだろう。コンクリートブロックと鉄条網を巻いたフェンスと2万5千人の兵士が守る首都ワシントンで行う就任式は、まさにその困難さを示している。