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トランプ氏が募る法廷闘争献金、大半の使途は「その他」

World Now 更新日: 公開日:
11月8日、アリゾナ州フェニックスの開票所前で、トランプ氏支持を訴える支持者(2020年 ロイター/Jim Urquhart)

[11日 ロイター] - トランプ米大統領は、大統領選で不正が行われたという根拠のない主張により、選挙結果を否定しようとしている。そうした中、同氏の陣営は選挙を巡る法廷闘争の資金手当てに協力を求めるとして、支持者に電子メール攻勢を掛けている。「左派はこの選挙を盗もうとするだろう!」と、あるメールには書かれていた。 ところが、これに応えてトランプ氏の草の根支持者が例えば少額を献金しても、訴訟費用には一切流れない見通しだ。ロイターが献金要請メールの法的文言を精査したところ、こうしたことが分かった。

メールに記された資金調達に関する開示文書に基づくと、ある人の献金が8000ドル(約84万円)を超えなければ、大統領選関連の訴訟費用を賄うために設立された「再集計基金」には1ドルも入らない。この場合の訴訟とは、票の再集計や「不正行為」の疑いを巡る提訴のことだ。

支持者が電子メールの献金要請書を開くと、「公的選挙防衛基金」と題されたウェブサイトに誘導され、「選挙日が過ぎてもその結果を守り、戦い続けるため」、定期的な献金を登録するよう求められる。

細かい文字を読むと、大半の献金はその他の優先事項に流れることがはっきり分かる。

献金の大部分は、9日に設立されたトランプ氏のリーダーシップ政治行動委員会(PAC)である「セーブ・アメリカ(アメリカを救おう)」と、共和党全国委員会(RNC)に入る。連邦選挙委員会のルールでは、いずれの団体も資金の使途について大きな裁量権を持つ。

トランプ氏陣営とRNC、「セーブ・アメリカ」はいずれも、ロイターのコメント要請に応じなかった。

セーブ・アメリカのようなリーダーシップPACはしばしば著名な政治家が設立し、自分ではない他の候補者向けに資金を支出したり、あるいは自分の旅行やホテル滞在費などの費用に充てたりもする。

開示文書は、トランプ氏とRNCは、献金を他の政治的用途や他の選挙戦に回すことができるとする。例えば来年1月にジョージア州で行われる見通しの上院議員決選投票だ。この投票は、共和党が上院で多数派を維持できるか否かを決するもので、選挙費用は米国の歴史上、屈指の高さになる公算が大きい。

トランプ氏の献金要請サイトでは、「公的選挙防衛基金」、「今すぐ献金を」という題名が大文字でバナー表示されている。

ページをスクロールしていくと、献金者は細かい文字列にたどり着き、そこには献金が「セーブ・アメリカ」とRNCに分割され、前者に60%、後者に40%入ると記されている。1件の献金での「セーブ・アメリカ」への法定上限は5000ドルで、開示文書によれば、献金がこの額を超えなければ、その献金からトランプ氏の「再集計」基金に流れる金額はゼロになる。

前述の配分比率に基づくと、1回の献金で例えば「セーブ・アメリカ」に5000ドル、さらにRNCに約3300ドルが入った後に初めて、残りの額が再集計基金に回る。再集計基金への献金額は、法律では2800ドルが上限だ。

あるトランプ氏支持者が仮に500ドルを献金すると、300ドルが「セーブ・アメリカ」に、200ドルがRNCに入り、「選挙防衛」のための再集計基金には1ドルも流れない。

ある共和党の政治ストラテジストはトランプ氏が、自分が良いと言うことのためなら何にでも小口の献金をしそうな支持者を誤解させていると指摘する。

RNCの元政治ディレクター、マイケル・デュハイム氏は「人々に正直に説明することが重要だ。特に、ポケットを探ってようやく25ドルをひねり出すような人々に対しては」と言う。「訴訟費用に回ると言っているのなら、訴訟費用に使うべきだ」

一方で、2016年にトランプ氏の政権移行チームに協力したオハイオ州の牧師、ダレル・スコット氏は、自分の献金がリーダーシップPACやRNCに流れても問題はないと話す。

「1本のズボンの両ポケットのようなものだ。左と右、どちらのポケットに入っても構わない」とスコット氏は言う。「最終的に、このお金はトランプ氏支持者が応援するであろう正当な目的に使われるのだ」

■大量の訴訟

トランプ氏陣営は、投票で不正が行われたという主張の根拠を示さないまま、主要州の選挙結果を覆すために数々の訴訟を起こしている。

トランプ氏自身による訴訟は、共和党側の監視者が開票にアクセスできなかったなど、おおむね開票作業の不行き届きなどを訴えるものだ。法律専門家は、どれもバイデン前副大統領の勝利を覆すのに必要な票数の無効化につながるような広がりのあるものではないと話す。

多くの訴訟については、判事がすぐに却下した。共和党側を含む各州の選挙管理委員らは、大規模な不正があったことを否定している。一方、バイデン氏の勝利を認めた共和党上院議員は一握りで、多くはまだ認めていない。ただ一部の共和党議員は、トランプ氏の法廷闘争への自分たちの忍耐は、もうすぐ切れるかもしれないと述べている。

連邦選挙委員会のデータが示唆するのは、トランプ氏の募金活動は、選挙戦中に枯渇した陣営の財源補充を狙っているということだ。トランプ氏陣営は共和党の協力を得て、選挙戦開始当初はバイデン氏陣営に資金力で大きく勝っていた。しかし陣営が過去2年間で集めた16億ドルのうち14億ドルを使い果たすと、資金力の優位を失った。

10月半ばまでに、トランプ氏陣営と共和党の再選チームの残り資金は2億2350万ドルとなり、選挙広告を縮小せざるを得なくなった。選挙まであと3週間の時点で、トランプ氏陣営単独の資金は4300万ドルに減っていた。これに対し、バイデン氏と民主党側の資金はこの時点で合計4億3200万ドル、バイデン氏陣営単独では1億7730万ドルだった。

■派手な生活を補助

トランプ氏は投票日後、特にここ数日は1時間に1本のペースで献金を募る電子メールを出した。送り主の名前は「選挙防衛特別チーム」や「公的選挙防衛基金」。当初、開示文書には、トランプ氏が献金の大きな割合を、陣営の債務返済に充てると記されていた。

しかし陣営の財務担当者であるブラドリー・クレート氏が9日、「セーブ・アメリカ」委員会に加わると、開示文書の文言は変更された。クレート氏はコメント要請に答えていない。

使途が厳しく管理される選挙資金と異なり、「セーブ・アメリカ」のようなリーダーシップPACには制限が少ない。共和、民主両党ともに、こうした資金を設立者などの家族の費用や、派手な場所での贅沢なイベントに充てたと批判を浴びたことがある。

選挙資金改革を求める2団体が18年に出した報告によると、一部のリーダーシップPACは「献金者がひねり出したわずかな資金」をてこに、政治家の「派手なライフスタイルを補助する」機関と化した。

連邦選挙委員会の元総務会長、ラリー・ノーブル氏は、トランプ氏が「セーブ・アメリカ」を使い、選挙後の「政治活動」資金を手当てする可能性があると言う。献金要請のメールは、細かい文字を読まない献金者を誤解させるものだ、とノーブル氏は指摘した。

「トランプ氏は選挙を巡って法廷闘争をすると大騒ぎしている。それを見た多くの人々が、策略的な文言に注意を払わず、もしくは理解しないまま献金している可能性は十分にある。わが国の選挙への攻撃を資金調達の道具に使うのは、わが国の民主主義にとって非常に危険なことだ」

ノースカロライナ州共和党も同様の戦略を用いている。今週、献金が期待できそうな人々に対し、トランプ氏の写真入りの大量の電子メールを送り、選挙の公正性を守るために資金を募っていると訴えた。

しかし、付いている法定開示文書を読むと、献金は共和党の諸経費を賄う口座に入り、今回の大統領選に関する訴訟には直接流れないことが示されている。なお、同州ではトランプ氏は勝利を確実にしている。

ある著名なノースカロライナ州の共和党員は匿名を条件に「もっと透明性を確保すべきだ。法廷闘争を助けるために資金を募っておいて、その資金が党や陣営の幹部の給料に回るとすれば、正しいこととは思えない」と語った。

同州共和党の広報担当者は文書で、同党の意向は「すべての合法的な投票の集計を確保」することだとした。しかし、献金要請が誤解を招いているのではないか、なぜ献金が訴訟に直接回らないのかについての質問には答えなかった。

(Jarrett Renshaw記者、Joseph Tanfani記者)

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