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アメリカがスナップバック強行 国際社会で深まる孤立

国際ニュースの補助線
演説するトランプ大統領=メリーランド州オクソンヒル、ランハム裕子撮影、2020年2月29日

8月20日にポンペオ国務長官はニューヨークの国連本部に出向き、カメラの前でポーズをとりながら国連事務局にある通知を手渡した。その通知にはイランが核合意の規定に違反し、核開発を進めているとの告発と、国連安保理決議2231に基づき、アメリカはイラン核合意参加国としてイランが30日以内に合意を履行する姿勢を見せなければ、スナップバックを起動させるとの警告が書かれていた。

スナップバックとは過去の国連制裁を定めた安保理決議を復活させ、イランに核合意に戻させることを意図した措置である。しかし、ポンペオ国務長官が通知を提出してから30日が経った9月20日、世界はアメリカの訴えを無視し、何のアクションもとらなかった。なぜこのような結果になったのか、今後アメリカは一層孤立化していくのか、なかなか常識では測れない状況にある現状を、なんとか理解出来るよう補助線を引いてみよう。

 安保理決議2231

アメリカは2018年5月にイラン核合意からの離脱を宣言した。常識的に考えれば、核合意の参加国であるP5+1(安保理常任理事国+独)に与えられたスナップバックの権限は、核合意の離脱によって失われているはずであり、アメリカはスナップバックを起動させることは出来ないはずである。

しかし、トランプ政権は「安保理決議2231には『核合意参加国』としてアメリカの名前がある」と主張し、ゆえにスナップバックを起動させることができると主張した。確かにアメリカは「イラン核合意」からは離脱したが、安保理決議から離脱したわけではないという理屈を考えると、この主張にも一部の理はある。

安保理決議2231 主文10

ではアメリカにスナップバックを起動する権限があるとして、スナップバックはどのような手続きで起動されるのであろうか。イラン核合意では、合意参加国のみで作られる合同委員会があり、イランないしP5+1が合意を守らなかった場合、15日間かけて議論し、それでも解決しなければ閣僚級委員会で15日間議論することになっている。それでも解決しなければ安保理に訴えることができるという建て付けになっているが、既に核合意からアメリカが離脱している以上、合同委員会や閣僚級委員会に訴えることはできない。ゆえにいきなり安保理に訴えるということになった。

イラン核合意参加国が安保理に違反を訴えた場合、安保理が通知を「受理して」30日以内に過去のイラン制裁決議を廃止したままにすることを求める決議案を審議することができる。安保理決議2231でいったんは廃止した決議は、事実上の一時停止状態で、その一時停止を継続することを安保理理事国が求め、一時停止継続決議が採択されなければ、過去の制裁決議が復活するという仕掛けになっている。一時停止継続決議には拒否権が適用されるため、もし他の理事国がこの決議案を提出しても、アメリカが拒否権を発動して一時停止継続を拒否する、つまり制裁が復活する、ということになる。もし決議案が出されなければ、「安保理議長国が一時停止継続決議を出」さなければならない。

安保理決議2231 主文11

アメリカは通知を出し、30日経ったので過去の制裁決議は復活したといっているが、安保理議長はこの通知を「受理して」いない。通知を受理した場合、安保理の文書として理事国に配布しなければならないが、その処理は行われていない。また、安保理議長は決議案も出していない。すなわち、スナップバックを起動するための手続きは完了していないため、決議に照らせば、アメリカの主張は極めて弱い。

それでもスナップバックを主張する理由

アメリカがこれだけ根拠が薄弱なスナップバックを主張するのは、イスラエルの脅威となるイランの武器輸出を止め、中国やロシアからイランが武器を輸入することを止めさせたいからである。安保理決議2231では、決議が成立してから5年間はイランの武器禁輸が継続されることになっていた。その5年が過ぎ、2020年の10月18日で期限を迎え、イランは国連決議による武器禁輸が解除されることになっている。

そのため、8月14日にアメリカはイランの武器禁輸を求める決議案を出したが、アメリカとドミニカ共和国しか賛成せず、中露は反対し、他の11ヶ国は棄権に回った(賛成が9票に届かなかったため拒否権の発動にカウントされない)。アメリカを除くP5+1の国々は、核合意の際にイランの武器禁輸を5年で解除するということに合意しており、もし武器禁輸を継続すればイランが反発して予期できぬ行動に出ることを懸念していた。しかし、それ以上に、アメリカが11月に控えた大統領選挙のためにイランに対して強い姿勢を見せ、イスラエルの脅威であるイランの武器輸出を止めさせるという政治的なパフォーマンスのためにやっている、ということを見透かしているからである。

つまり、アメリカ(というよりトランプ政権)は自らの再選と、親イスラエルの立場をアピールするために国連安保理を巻き込んで大騒ぎしている、というのが現状であり、欧州も含めて付き合いきれなくなっているのである。

スナップバックには国際社会の合意が不可欠

アメリカはスナップバックが成立したと宣言し、復活した国連安保理決議に違反した国はアメリカが国内法に基づいて罰するとの姿勢を示した。アメリカはこれまでも二次制裁と呼ばれる、アメリカの単独制裁に違反した非米国企業や非米国人に対しても、アメリカの国内法に基づいて罰することを行ってきた。具体的にはアメリカの制裁に違反した企業は米国市場での活動が禁じられるといった措置がとられた。多くの企業はイランと取引することにより、アメリカの市場から閉め出されることを回避し、アメリカの国内法による制裁に違反しないよう、慎重に行動してきたため、結果的にイランの経済活動は極めて強い打撃を受けた。

アメリカの単独制裁は国連制裁よりも広範囲の問題を扱っており、核開発、ミサイル開発だけでなく、イランの軍事活動や革命防衛隊の経済活動に至るまで制裁の対象となっている。そのため、過去の国連安保理決議が復活しなくても、既にイランの核開発などに関する制裁はアメリカの単独制裁で実現していると言って良いだろう。

しかし、武器禁輸は少し様相が違う。イランに武器を輸出する可能性のあるロシアや中国の防衛産業は、そもそもアメリカとの取引がないか、あったとしても極めて限定的であるため、アメリカの国内法による罰則を恐れる必要がない。また、イランから武器が輸出される際も、イランの防衛産業や輸出の中心にいる革命防衛隊はアメリカの制裁を気にして輸出を止めるようなことはしない。そのため、スナップバックが成立したとアメリカが主張しても、アメリカ一国でイランの武器禁輸を継続することは難しい。

言い換えれば、武器禁輸は国連加盟国がすべてコミットし、イランとの武器取引をしないと国際社会が合意することが重要なのである。安保理決議による武器禁輸が有効なのは、多くの国がイランを国際の安全と平和の脅威と見なし、イランを制裁し、孤立化させななければならないと考え、彼らの国内でイランが武器取引を行っている場合は安保理決議の法的拘束力を根拠に、その取引を止めさせることができるからである。核合意前にはナイジェリアやケニア、イラクなどでイランの武器取引が摘発され、ロシアはイランに売却予定であった地対空ミサイルの輸出を止めるといったことを行ったが、それは国連安保理で決まったことだからであり、その正統性や法的拘束力を尊重して各国が自ら行動をとったからである。そうした正統性や法的拘束力をアメリカの単独制裁は担うことができない。

つまり、スナップバックは国際社会の総意としてイラン制裁を復活させなければならないとの意思が示されなければ効果はなく、アメリカ一国だけでスナップバックを宣言し、他の国々がそれを無視している限り、その効果は薄く、アメリカが一層孤立化していくだけの結果を招くことになる。いくら再選のためとはいえ、トランプ政権がとった選択は悪手であると言わざるを得ない。