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北朝鮮制裁が「最大限の圧力」でなくなったら何が起こるのか

国際ニュースの補助線 更新日: 公開日:

61日に金英哲副委員長と面会したトランプ大統領は予定通り612日に米朝首脳会談を開催することを宣言し、ひとまずは北朝鮮の「非核化」に向けての一歩を踏み出した。しかし、トランプ大統領は、これは「プロセス」の始まりに過ぎないといい、段階的非核化の可能性を示唆しただけでなく、「最大限の圧力(maximum pressure)」という表現は使いたくないと発言した。ただ、既存の制裁は継続するという姿勢も見せている。63日にシンガポールで開かれた日米韓防衛相会談では「最大限の圧力」の代わりに、「国連安全保障理事会決議の履行を継続することで一致」という表現が使われた。

 果たして、612日の米朝首脳会談に向けて、またその結果、制裁がどうなっていくのだろうか。「最大限の圧力」という表現を使わないまでも「史上最強」と言われた制裁を継続し、北朝鮮を追い詰めていくのか、それともなし崩し的に制裁が弱まっていくのだろうか。

 制裁は履行が命

トランプ大統領や日米韓防衛相会談での言葉を文字通り解釈するなら、2017年に採択された国連安保理決議2371、2375による「史上最強の」制裁は変更せず、そのまま継続するということになる。しかし、制裁はいくら厳しくても、加盟国がそれを文字通り履行するかどうかが重要だ。筆者が国連のイラン制裁専門家パネルで勤務していた時も、様々な形での違反事例が報告され、決議を文言通り履行していない加盟国を数々見てきた。

とりわけ北朝鮮の場合、中国が国連安保理決議を履行するかどうかが重要な意味を持つ。中国は米朝首脳会談の前に二度にわたって中朝首脳会談を行い、その場で何が合意されたかは明らかにされていないが、おそらくアメリカの出方がどうであれ、制裁履行を緩めることが話し合われたものと思われる。実際、二度目の中朝首脳会談の後、北朝鮮にとって外貨獲得手段である朝鮮レストランが中国国内で営業を再開し、北朝鮮から労働者が送られているとの報告もある。また、アメリカと中国は現在貿易戦争とも言える緊張を孕んでおり、中国はアメリカとの合意を尊重する義理もなくなってきている。さらに、中国にとって北朝鮮の核開発は望ましいものではないが、米朝首脳会談で何らかの合意が成立し、どのような形であれ「非核化」が進むのであれば制裁を強める必要はない。

トランプ大統領が「最大限の圧力」という表現を使わないという発言をしたことで、こうした中国の制裁緩和をアメリカが批判しにくくなっている。「史上最強の」制裁を継続しつつも「最大限の圧力」をかけないということは、即ち制裁の履行を緩めて良いという宣言だと解釈されても仕方が無いのである。また米朝首脳会談にも関わらず、カンボジアをはじめとする東南アジア諸国では、制裁違反となるビジネスが横行しているとも伝わっている。つまり、北朝鮮は既に制裁緩和の果実を得ているのである。

 合意にはスナップバックが不可欠

では、米朝首脳会談で何らかの合意が結ばれる場合、制裁は継続されるのだろうか。現時点では合意が出来るとすれば、それは何らかの形で段階的なものになり、部分的であれ、制裁は停止されていくことになるであろう。そうなれば、北朝鮮は制裁緩和の果実を受け取り、核開発能力や既に保有している核兵器を維持する形で米朝首脳会談を打ち切る可能性もある。これまでの北朝鮮の数々の裏切りの歴史を見ればその可能性が高いと言えよう。

その場合、重要になるのがイラン核合意で設定された「スナップバック」の仕組みであろう。スナップバックとは、北朝鮮が合意に違反したとの疑いがある場合、既に解除した制裁を復活させるという仕組みである。しかし、既に述べたように仮に制裁決議が復活したとしても、中国が北朝鮮の裏切りは許さないという姿勢を示すことが重要であり、そうした合意を米朝首脳会談で何らかの約束をする前に取り付ける必要がある。しかし、貿易問題で揉める中、アメリカが中国に対してそうした働きかけが出来るのか、疑問は残る。

 核を持つ北朝鮮を許容するしかないのか

6月12日から始まる米朝首脳会談で非核化を議論する際、何らかの合意が出来るとすれば双方が歩み寄った場合であり、それは包括的で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)にはならない可能性が高い。そうなると北朝鮮が何らかの核開発能力を維持したまま終戦協定・平和体制を築くか、そうでなければ会談を決裂させ、北朝鮮が音を上げ、CVIDを実現するまで制裁を強めていくかしかない。中国の姿勢が変わった今、北朝鮮が音を上げる程の効果を持つ制裁が可能とは考えにくく、そうなると核を持つ北朝鮮と平和体制を作り、新しい北東アジアの秩序を作らなければ行けなくなる。それが許容しがたいことは間違いないが、現在の交渉の方向性がこちらに向いていることを踏まえると、これからはどこまでが許容出来る範囲なのか、そして新しい北東アジアの秩序に日本はどう関わっていくのかを考えていかなければならないだろう。