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非核化が達成されても、北朝鮮の対日軍事的脅威は変わらない

ミリタリーリポート@アメリカ
北朝鮮の対日攻撃用弾道ミサイル射程圏_筆者作成

本稿執筆段階(米国時間5月27日)では、依然として米朝首脳会談が開催されるかどうかは流動的である。とはいうものの、アメリカにとっても、朝鮮半島の非核化はこのタイミングを逃さずにぜひとも達成させておきたいし、北朝鮮にとっても、当面の間の支配体制延命は、何としてでも確保しておきたいことに疑いの余地はない。

全ての関係国に好ましい状況?

トランプ政権の米朝首脳会談の目的は、朝鮮半島の非核化、より具体的には、北朝鮮が核搭載長距離弾道ミサイルを手にすることを阻止することにある。もしトランプ政権の目論見通りに、北朝鮮が核兵器開発―少なくとも弾道ミサイルに搭載可能な小型核弾頭の開発―を断念したとしよう。

その場合には、トランプ大統領が言うように、北朝鮮は見返りとしての「体制保証」と経済的援助を手に入れることになり、韓国や日本にとっては、北朝鮮から核ミサイルが撃ち込まれる恐れが遠のくことになる。中国にとっても隣接する朝鮮半島という火薬庫が爆発する恐れがなくなることになる。もちろんアメリカにとっても、対米ICBM攻撃可能国の増加を抑え込むことができ、全ての関係諸国にとって好ましい状況が生まれることは、ある意味においては確かであると考えられなくもない。

日本を核攻撃する必要がない北朝鮮

しかしながら、北朝鮮が日本に対して核弾頭搭載弾道ミサイルを撃ち込む可能性が消滅したとしても、北朝鮮による軍事的脅威が消え去るわけではない。というよりは、現在も北朝鮮が日本に対して加えている軍事的脅威が、実質的に大きく変化することはあり得ない、と考えねばなるまい。

なぜならば、北朝鮮が躍起となって開発を推し進めている核兵器は、あくまでもアメリカ本土やハワイを攻撃するための核弾頭搭載弾道ミサイル(ICBM)であって、日本に対する核攻撃など、北朝鮮にとっては重要な課題ではないからだ。非核保有国である日本からは100%、北朝鮮に対する核攻撃が実施され得ない。それだけではなく、そもそも日本には北朝鮮領内を本格的に攻撃するだけの軍事力が存在しない。そのような軍事的に弱体な日本を軍事的に牽制するために、核兵器など必要なく、日本の領域を射程圏内に収める長射程ミサイルを多数保有していれば十分なのである。

実際に、北朝鮮軍は日本を空襲できるようなレベルの航空戦力を保持しているわけでも、日本に侵攻できるような海軍力を持っているわけでもない。北朝鮮空軍と航空自衛隊、北朝鮮海軍と海上自衛隊をそれぞれ比較するならば、いずれも北朝鮮側は、自衛隊側とは比較にならないほど超弱体な空軍戦力、海軍戦力ということになる。

北朝鮮軍はそのように極めて貧弱な航空戦力と海軍戦力しか有さないため、いくら強大(数量的には)な陸軍力を誇っていても、その陸上戦力を陸続きではない日本に送り込むことは不可能である(ただし、極めて小規模な特殊部隊程度を送り込むことはできるが、そのような部隊では日本侵攻はできない)。

しかしながら、超弱体な海軍と空軍しか保有していない北朝鮮といえども、日本の領域を射程圏に収めている弾道ミサイルを多数保有しているために、今日現在においても、日本に対して軍事的脅威を加えているのである。

北朝鮮の対日攻撃用弾道ミサイル射程圏_筆者作成

そのことは、日本が莫大な予算を投入して、北朝鮮から飛来するかもしれない弾道ミサイルに対抗する弾道ミサイル防衛システムを調達し続けていることが、如実に物語っている。また、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃の前には、手も足も出ない状態であるため、数多くの日本国民が北朝鮮によって拉致されているにもかかわらず、日本政府は自国民を奪還するために、何ら強硬な手段を用いる計画を立てることすらできないという、国家として最低限の責務を果たせない有り様が続いている.

アメリカにとっては関心が薄い対日軍事的脅威

このように北朝鮮は、対日攻撃可能な弾道ミサイルであるノドンやスカッドERを多数保有することにより、日本に対して軍事的脅威を加え続けているのであるが、このような状態はすでに10年近くも前から続いている。

しかしながら、いくら北朝鮮がノドンやスカッドERを多数配備していようとも、それらの弾道ミサイルはアメリカ本土やハワイそしてグアムなどには到達しようもない。せいぜい、在日米軍基地が射程圏に捉えられているだけである。

とはいっても、北朝鮮がアメリカ本土を攻撃できるICBMを保有していない状況下で、ノドンやスカッドERで在日米軍施設を攻撃した場合、アメリカのICBMによる報復攻撃により、北朝鮮が破滅してしまうことを北朝鮮側が十二分に認識していることを承知しているアメリカにとっては、北朝鮮が保有している対日攻撃用弾道ミサイルなど、恐るるに値しない代物なのであった。そのため、いくら北朝鮮が日本全域を攻撃することができる弾道ミサイルを取りそろえようとも、アメリカにとってはさしたる関心事ではなかったのである。

日本に対する軍事的脅威は継続する

もし米朝首脳会談によって北朝鮮によるICBMをはじめとする核弾頭搭載弾道ミサイルの開発が(当面の期間にすぎないかもしれないが)ストップすることになったとしよう。その際には、アメリカの領域に対する北朝鮮からの核攻撃の可能性はなくなる。もちろん、韓国や日本に対する核攻撃の可能性も消え去るのであるが、核弾頭ではない高性能爆薬弾頭や、化学弾頭が搭載された対日攻撃用ノドンやスカッドERは、そのまま北朝鮮の手に残るのだ。すなわち、現在日本に加えられている北朝鮮の軍事的脅威は、実質的に不変である。

したがって、トランプ大統領が宣伝しているような「朝鮮半島の非核化はアメリカにとっても、北朝鮮にとっても、韓国にとっても、日本にとっても、中国にとっても好ましい出来事である」というのは、少なくとも日本にとっては「大いなるマイナス」ではないものの、決して「諸手を挙げて大歓迎」するような事態を期待してはならない、と考えざるをえない。

(次回は6月13日に掲載する予定です)