7月29日未明、北朝鮮が2回目のICBM試射に成功した。今回試射した弾道ミサイルが通常射角で発射されると、アメリカ東海岸地域にまで到達しかねないこととなった。北朝鮮が1回目のICBM試射に成功(7月4日)して以来、これまで20年近くにわたって、対北朝鮮強硬派や対中強硬派の人々の警告をないがしろにして、北朝鮮(そしてその背後の中国)を甘く見てきたワシントンDCの政治家や米軍首脳たちの多くも、ようやく本気で脅威を感じるようになり、トランプ政権は「新しいレベルの軍事的脅威が出現した」と警戒を強めている。
直接アメリカを攻撃する手段を手にした北朝鮮
アメリカにとって「新しいレベル」の軍事的脅威とは、北朝鮮が直接アメリカの領域を攻撃することができる段階に到達してしまった(あるいは、到達することが確実になってしまった)ことを意味する。つまり、軍の作戦計画概念だった北朝鮮攻撃が、米政府・連邦議会レベルでのオプションに移行したことになる。
トランプ政権が北朝鮮への軍事攻撃を選択する可能性は全否定できない状況のなか、米軍関係者の最大の関心事の一つが「米軍の攻撃により引き起こされる北朝鮮の反撃により韓国や日本がかぶるであろう甚大な損害」だ。したがって、「日本政府による攻撃の容認」は米政府が北朝鮮攻撃を決定するに当たっての決定的な要素の一つであることは言うまでもない。
日本政府が、アメリカによる北朝鮮攻撃に賛同するかそれとも断固反対するかは、極めて多数の日本国民の生命財産に直接かかわる問題である。ところが、過去数カ月にわたって稲田防衛相、加計学園、森友学園の問題に振り回されていた日本の状況を知る米軍関係者たちは「日本政府は北朝鮮核ミサイル問題の重大性を認識しているのか?」「日本はアメリカよりもはるかに大きな軍事的脅威に直面しているという事実を忘れてしまっているのではないか?」といった疑問を口にしている。
そして「結局、アメリカ頼みで真剣に日本の防衛を考えていない日本政府は、北朝鮮の弾道ミサイルが東京に降り注がれるまでは、目を覚ますことがないのではなかろうか」という声まで上がっているのだ。
日本政府もアメリカ当局と同じく「北朝鮮がICBMを手にしたことは、日本にとっても新しいレベルの軍事的脅威が出現した」と位置づけているが、日米では全く状況が異なっている。
アメリカにとっては、これまでアメリカ(の領域)に対して直接軍事攻撃を加えることが不可能であった北朝鮮が、性能はいまだ未知数とはいえ、アメリカを直接軍事攻撃する手段を手にしたことを意味する。まさにアメリカにとっては「新しいレベルの軍事的脅威」が出現したと言っても過言ではない。
しかし、北朝鮮がアメリカ攻撃用のICBMを手に入れたからといって、日本にとっての軍事的脅威が「新しいレベル」に到達したという日本政府の表明は単にアメリカ政府の言動を受け売りしただけの表現である。なぜならば、以前から北朝鮮は日本を灰燼(かいじん)に帰すことができる弾道ミサイルを多数保有しているからである。
北朝鮮の日本攻撃用弾道ミサイル
北朝鮮軍は韓国や日本を射程圏に収める数種類の弾道ミサイルを10年以上も前から多数保有している。それらのうち「スカッドER」ならびに「ノドン」は日本攻撃に使用することができる。ちなみに、それらのミサイルには非核弾頭が搭載されているが、非核保有国である日本を攻撃するに際しては非核弾頭のほうが実際に発射するに当たってのハードルは格段に低いことになる。
スカッドERの最大射程はおよそ800キロメートル強と言われているため、北朝鮮南部から発射すると西日本の広い地域を射程内に収めている。一方ノドンは、まさに対日攻撃用弾道ミサイルと考えられている。最大射程はおよそ1300キロメートルと見られており、先島諸島と小笠原諸島を除く日本のほぼ全域を攻撃することが可能である。北朝鮮は少なくとも50基以上のスカッドERと50基以上のノドンを配備していると見なされており、地上移動式発射装置(TEL)から発射されるため、どこからでも発射可能であり発射準備に要する時間も極めて短い。
いずれのミサイルの詳細も確認されていないため正確な性能は不明であるが、命中精度はかなり低く、弾道ミサイルの命中精度を表わす「CEP」は2000~3000メートルと言われている。そのため、とても特定の目標を狙って攻撃するピンポイント兵器とは見なせず、無差別攻撃あるいは「恐怖を引き起こす」兵器と見なされている。たとえば、「CEPが3キロメートル」ということは、攻撃目標を中心として半径3キロメートルの円内に発射したミサイルの半数の着弾が見込めるということである。したがって「どこに着弾するか分からない」といった状態といっても過言ではなく、攻撃目標以外の幅広い地域にも被害が生じる結果となる。
以上のように、北朝鮮は日本全土を攻撃することができる弾道ミサイルを、少なくとも100基以上は保有している。したがって、日本政府やメディアは、ICBMの模擬弾頭や破片の落下地点があたかも日本領域に接近しつつあるような情報を発信していたずらに国民の恐怖心をあおるよりは、北朝鮮が既に10年近くも前から日本攻撃用の弾道ミサイルを多数配備している現実を国民に伝え、日本に突きつけられている軍事的脅威にどのように対処する方針なのかを説明する義務がある。
次回コラムでは北朝鮮よりもさらに深刻な、中国の対日攻撃ミサイルについてお伝えする。