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「台湾の安定、日本に直結」続いた政治家の発言 日本に十分な備えはあるか

ミリタリーリポート@アメリカ
中国本土からの攻撃に備えた軍事演習を行う台湾軍兵士=2021年1月、ロイター

アメリカの国防戦略を抜本的に転換したトランプ前政権は中国を仮想敵国の筆頭に位置づけ、中国にとって最大の外交的懸案(中国政府は内政問題と位置づけているが)である台湾に対して露骨に支援を表明した。一方、中国はアメリカによる台湾支援の姿勢が強化されると、それに対抗して台湾への軍事的威嚇を強化した。

バイデン政権に替わっても、現在までのところトランプ前政権が策定した米国国防戦略は改定されておらず、現政権も台湾支援の方針を維持している。また、米海軍は時折、台湾海峡に駆逐艦を派遣して中国への牽制(けんせい)行動を実施している。そのため、中国による台湾への軍事的威圧は、ますます強化されている。

このような台湾をめぐる中国とアメリカの動きに呼応して、日本の岸信夫防衛相は6月、ブルームバーグのインタビューで「台湾における平和と安定というものが日本に直結をしていると考えている」と答えたと報じられた。さらに麻生太郎副総理兼財務相は7月、台湾をめぐり、「大きな問題が起き、日本にとって『次は』となれば、存立危機事態に関係してくるといってもおかしくない。日米で一緒に台湾の防衛をやらないといけない」と述べたと報じられた。7月に公表された日本の2021年版の防衛白書は「台湾をめぐる情勢の安定は、わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要」と初めて明記した。

麻生太郎副総理兼財務相=2021年4月、首相官邸、上田幸一撮影

このような日本政府の言動に対して中国側は反発している。麻生副総理の発言に対しては、中国外務省は「強烈な不満と断固とした反対」を表明して、日本側に抗議したと公表。中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語版)は、「日本が中国にとってのレッドラインを踏み越えたならば、中国人民解放軍は反撃をなすしか選択の余地はない」との“警告”を伴う日本に対する批判記事を掲載した。

たしかに中国が台湾を軍事攻撃した際に、「台湾の防衛は日本の防衛」であるかのように、日本政府が自衛隊支援部隊(軍艦、航空機、あるいは陸上戦闘部隊)を台湾防衛戦に派遣したならば、中国にとって日本は交戦国となるだろう。

同様に、台湾支援のために派兵されることになった米軍部隊(艦隊、航空隊、あるいは陸上戦闘部隊)に対する補給活動を自衛隊が担当する場合や、そのような米軍部隊の発進補給基地として日本国内の米軍施設や自衛隊施設などの使用を日本政府が認めた場合にも、日本は中国にとって交戦国とみなされかねない。

こうした場合、日本各地の軍事施設はもとより戦略要地(原発を含む発電所、石油備蓄施設、工業地帯など)に中国軍(ロケット軍、空軍、海軍)が各種長射程ミサイル(弾道ミサイル、長距離巡航ミサイル)を使って攻撃してくる事態が現実のものとなりかねない。

中国建国70周年軍事パレードに登場した新型長距離弾道ミサイル=2019年10月1日、北京、仙波理撮影

もっとも日本では、もし中国が日本に本格的な軍事攻撃を仕掛けた場合には、アメリカによる反撃がなされるため、中国は実際には日本に対して軍事攻撃などはできず、脅しに過ぎないと考えられがちであるように見える。

しかし、米海軍などの対中国専門家たちの見方は、全く異なる。中国軍が日本や台湾を攻撃する場合は、いずれも「短期激烈戦争」と米海軍関係者たちが呼称するような、猛烈な長射程ミサイル連射攻撃となる可能性が高いと考えているのだ。このため専門家たちは、アメリカが軍事介入するよりはるか以前に決着がつくとみている。中国が一気に日本や台湾の継戦能力を破壊してしまう奇襲攻撃能力を保持している以上、アメリカによる反撃は難しいと考えられている。

ただ、米軍としても日本の軍事的支援を得ることができない限り、台湾を巡って中国に対して優位を占めることははなはだ困難である。日本政府や国防当局が、台湾をめぐる情勢が「日本の安全保障にとっても重要」だという立場を強調するのは、アメリカの(現時点における)極東軍事戦略と符合している。

しかし、中国の攻撃戦力、アメリカが極東に集中できる戦力、自衛隊の戦闘能力などを比較衡量した場合、現時点でもアメリカ軍や自衛隊が中国の「短期激烈戦争」を制圧するのは非常に難しい状況と言える。そのため、とりわけ日本の軍事能力に精通している米軍関係者は、「日本は軍事的に中国と対決する場合を現実的に想定して、それに対する準備をなしているのか?」と危惧している。日本の国防予算の増額幅や自衛隊の組織編成、とりわけ中国軍と自衛隊が対峙(たいじ)する場合に最も重要となる海洋戦力の質的強化と量的増強といった諸点だけを考察しても、日本の備えが不十分だと見ている。

口先だけで「台湾の防衛は日本の防衛」かのように言うことは簡単である。しかし軍事分野において、現実的な想定も備えもないまま、口先だけの標語が独り歩きしてしまった場合、取り返しのつかないことになりかねないと危惧せざるを得ない。