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バイデン政権下で初の「思いやり予算」の日米交渉 米国にある二つの思惑

ミリタリーリポート@アメリカ
米軍の普天間飛行場=2019年2月、沖縄県宜野湾市

在日アメリカ軍駐留関連経費のうち日本側が負担し、日本の政治家やメディアなどが「思いやり予算」と呼称している部分は通常、5年ごとの交渉によって決められる。しかし、2021年度分については今年2月、従来の水準と同じ、およそ2000億円に据え置くことで日米双方が合意した。その際、22年度以降の日本側の支出額に関しては、再度交渉によって決定されることとなった。

その22年度以降の分担金に関する日米交渉が開始される。原則5年おきに行われてきた交渉が昨年、1年間延期されたのは、米国でトランプ前政権からバイデン政権への移行期にあたったためだ。したがって今回の交渉は、駐留関連経費に関してバイデン政権が日本側と初めて行う交渉ということになる。

在日米軍駐留経費負担をめぐる日米交渉で、現行水準に沿って1年延長することで合意に至ったと発表する茂木敏充外相=2021年2月17日、東京・霞が関の外務省、北見英城撮影

トランプ前政権は、在外米軍駐留関連経費を大幅に削減しようとした。背景には、トランプ前大統領自身が、同盟諸国に駐留する米軍の軍事的な価値を理解せず、評価していなかったことがあると指摘されている。そのため同盟国に対しては、米軍駐留関連経費の負担を大幅に増額要求する方針を打ち出した。

実際、日本に対しても、従来を大きく上回る増額圧力をかけようとした。ただ、日本側もそのような増額要求を受け入れるわけにはいかず、日米交渉は進まなかった。そして結局、5年間の更新は合意に至らず、21年度に関しては前年度と同様の水準を保つという妥協案で乗り切った。

バイデン政権は、トランプ前政権によってギクシャクしてしまった同盟国との関係修復を図ろうとしている。そのため、バイデン政権がトランプ大統領のように日本政府に対して在日米軍駐留関連経費を大幅に増額するようにふっかけてくることは考えづらい。

とはいっても、バイデン政権はCOVID-19関係の予算や復興のための経済対策費などに莫大な支出が必要となっている。このため、少しでも在日米軍駐留関連経費の日本側の分担金を増額させようとしてくることは、理の当然と考えねばならない。

一方、日本も、いくら国防の多くをアメリカの軍事力に頼っているからといって、国防関連予算を大幅に増額することを受け入れることはできず、「思いやり予算」を含む在日米軍駐留関連経費の分担金は極力、抑え込もうとすることになる。したがって、再び日米交渉はもめることになると見られる。

このように少なくとも5年ごとに繰り返される日米間の在日米軍関連経費を巡る“心地よくない”交渉の繰り返しに対して、日本周辺事情に関心の高い米軍関係者の間では、両極端の考え方が生じている。

一つの立場は、日本は常日頃「日米同盟の強化」と繰り返し口にして、アメリカの軍事力に頼り切ろうとしている以上、在日米軍駐留関連経費を倍増することくらい「本気で同盟を強化する意思があるかどうか」の問題に過ぎない、と考えるものだ。日本政府は国民の過半数が反対していたにもかかわらず五輪を強行するために莫大な予算を投入しているのであるから、今回は日本政府に増額圧力をかけるチャンスである、との意見がある。

五輪マークのモニュメント=東京都新宿区、伊藤進之介撮影

たしかに、五輪の予算総額は1兆6千億円を超え、様々な関連経費を含めると実質的に日本側の支出は3兆円を超えるともいわれる。そのうち相当程度を国費で賄うのであるから、“わずか”数千億円程度の在日米軍駐留関連経費の増額をためらうのは、米国軍事力にドップリ頼り切っている日本政府としてははなはだ不誠実に過ぎる、という考えがこの意見の根底にはある。

他方、「日本政府は五輪に対してはなりふり構わず大金を投じるのであるから、日本を防衛するための日米同盟強化のために国防費を増額することは当然である」との論理は共通であるが、増額した国防費は在日米軍駐留関連経費にではなく、自衛隊の戦力強化に投入すべきである、という意見もある。このようにすれば、毎回気まずくなる在日米軍駐留関連経費を巡る交渉をせずに済むことになるだけでなく、以下の理由によって、日米同盟がより実質的に強化されるというのだ。

すなわち、中国との不慮の軍事衝突を前提にして準備を整えなければならない段階に直面している米軍としては、万が一の事態に際しては最前線で中国軍の矢面に立つことになる可能性が極めて高い同盟国軍、すなわち自衛隊や韓国軍が弱体であっては、「足を引っ張られて」しまいかねない。弱い同盟軍は敵より厄介なのだ。

したがって、どのように考えても対中戦闘能力が十分な状態からはほど遠い自衛隊の組織構造や装備体系などを可及的速やかに戦闘部隊といえる状態にまで強化するために、在日米軍駐留関連経費よりも、日本自身の戦闘能力強化に投入すべきである、というのがこの意見の根底にある。

いずれにせよ、それらの意見はあくまでも自らの都合に基づくアメリカ側の立場にすぎない。日本側としては、いつまでも軍事的にアメリカの属国の状態に甘んじ、アメリカが中国を仮想敵国の筆頭に指定すれば、日本も中国を敵視し、アメリカが「自由で開かれたインド太平洋」といえば日本も「自由で開かれたインド太平洋」と追従するような状態を続けていくのか? といった根本的な考察をなしたうえで、在日米軍駐留関連経費の日米交渉に臨む必要がある。