明日の日本への警鐘も 中国の人気動画投稿者が読み解く「生き残りガイド」
本書『日本を鑑(かがみ)として』のサブタイトルは「下り坂時代の生き残りガイド」である。表紙には「日本はどこで誤ったのか?」「改革のチャンスをなぜつかみ損ねたのか?」「われわれはどうすべきか?」などと惹句(じゃっく)が連なる。嫌中本みたいな嫌日本が向こうでも売れているんだな、などと早合点してはいけない。
タイトルには日本の「失われた30年」に、明日の中国を投影する意図が込められている。全5編15章のうち最後の1章を除き、全文が日本の事象に費やされている。
著者の分析師Bodenは若者に人気の中国最大級の動画アプリ・ビリビリの投稿者だ。累計100万人のフォロワーと2500万回超えの再生回数を誇り、中国社会のホットイシューと日本の歴史や経験をつなぐショートビデオで知られている。依拠する日本発のデータ・統計・文献の信憑(しんぴょう)性は高い。本書には中国にとっていかなる反面教師像が造形されているのだろうか―。
日本は戦後40年にわたる復興・成長期を経てバブル経済を経験。ところがバブルが崩壊すると金融危機や地価の暴落が続き、1990年代以降は少子高齢化を伴う長期不況に突入した。国内不況の最大の犠牲者は、敗戦直後に生まれた団塊世代の子どもたちの世代だと著者は指摘する。
彼らは1970年代前半生まれで、団塊ジュニアと呼ばれる。第2次ベビーブーマーで人数が多い分、大学受験は過当な競争になった。しかしそれを勝ち抜いて獲得した高学歴証書の価値もバブル崩壊で暴落した。就職氷河期世代でもあるこの一群はその後、「ひきこもり」「プレカリアート」「無縁社会」「高学歴貧困」などの社会問題の要因の一つとなり、「負け組」「ロスジェネ世代」と自認するようになったのだった。
本書の「ロスジェネ」像にはおそらく、高成長の峠を過ぎて就職難に遭遇している中国の新卒学生たちが二重写しになっている。
同じ領域の限られた資源をめぐって人びとが殺到する状況を中国では「内巻(involution)式競争」と称する。かつてはエリート大学の学生たちの間で流行していた言葉だったが、今や職場やコミュニティーを問わずあらゆる場面で使われる。
多くの新卒学生の就職希望先も、日本のロスジェネ世代と同じく、高給取りではないけれども景気に左右されず安定した公務員職で、内巻式競争は激しさを増している。
一方、バブル崩壊後の長期不況にあえぐ日本企業は必死に再起を図った。唯一のチャンスは海外進出(「出海(チューハイ)」)という「ノアの方舟(はこぶね)」に乗り込むことだった。中国企業も2010年代後半以降、「出海ブーム」のさなかだ。インターネットや電子関連などの高付加価値で先端的な製造業によるブランド商品の輸出と生産の現地化が熱を帯びている。
企業だけでなく、高度人材の「中国移民」も日本で増加している。しかし彼らは首都圏マンション高騰の元凶とされ、移住規制や経済安保強化の必要性でしか捉えられていない。日本は「失われた30年」を経て脱成長型成熟社会へと脱皮しつつある。中国移民と力を合わせれば、中国の成熟社会建設のためビジネスモデルを共同で構築するチャンスになるかもしれないというのに。
中国企業の「出海」先は、従来の欧米先進国から、東南アジア・中東・南米など労働力が安く、消費が増える可能性の高い新興市場へとシフトしつつある。バブル崩壊時期に味わった「日本素通り(ジャパン・パッシング)」の移民版が、移民を規制せずとも再来するかもしれない。本書が描く日本像、それは中国の自画像でもあり、明日の日本への警鐘でもある。
2025年11月の微信読書ランキングより
『 』内の書名は邦題(出版社)
絶叫 葉真中顕
『絶叫』(光文社)
2019年のテレビドラマの原作。孤独死した女性の壮絶な人生を追う中で明らかになっていく社会の病巣。
以日為鑑 分析師Boden
日本を鑑として
「失われた30年」で日本社会が経験した教育・医療・経済などの諸問題を通して、これからの中国にとっての教訓を引き出す。
大地上我們転瞬即逝的絢爛 王鴎行/オーシャン・ヴオン
『地上で僕らはつかの間きらめく』(新潮社)
ベトナム系アメリカ人が渡米後の幼少期に経験した光景を描く自伝的小説。
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2時間と8キロ以外のことは思い煩うな
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