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「ポピュリズムとは何か」の著者が見る「トランプ大統領誕生」の本質

World Now
ヤン=ヴェルナー・ミュラー氏=2018年9月26日、東京、本間沙織撮影

この大統領選の結果を、「グローバル化への反乱」や「労働者階級の怒りの叫び」と片付けてしまうのは単純過ぎるだろう。白人にとって、トランプを支持することが人種的な「巻き返し運動」に参加する感覚をもたらしたという側面を見逃せない。

多くの点で異常な選挙だった半面、極めて平凡な一面もあった。米NBCの出口調査では、共和党員と答えた人の90%がトランプに投票し、民主党員では89%がクリントンを選んだのだ。トランプは共和党内の協力者なしにホワイトハウスへの道は開けなかっただろうし、第三の政党の候補者でも成功できなかっただろう。元下院議長ギングリッチやニュージャージー州知事クリスティーら、信頼が置けそうな共和党有力者によるお墨付きが、共和党員や右寄りの無党派層を安心させるのに決定的な役割を果たした。

トランプはまさに典型だが、ポピュリストは、自分たちだけが「真の国民」や「声なき多数派」の代弁者だと主張する。こうした訴えはそれほど害がなさそうに聞こえるが、民主主義にとって二つの点で打撃となった。まず、競合相手を「インチキで腐敗している」と個人攻撃してしまう。そして、多元主義や共存をかたくなに拒絶してしまうことだ。

英国独立党(UKIP)党首のファラージが、国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝った日、「真の国民の勝利だ」と主張したことを思い出して欲しい。残留を望んだ48%は「真の国民」ではないのだ。トランプも5月の集会で、「ただ一つ大事なことは人々が結束することだ」と宣言した。そして、それに続けて「そのほかの人々には何の意味もない」と述べた。つまり、彼の「人々」の定義に当てはまらなければ、米市民であっても数に入れないということだ。

欧州のポピュリストたちは、トランプ勝利を追い風と受け止めている。問題は主流派の政治家が協力するかどうかだが、いまのところその兆候はそれほど多くは見られない。ただ、これまで主流派と考えられてきた政党が気づかないうちに、事実上のポピュリスト政党に変身する可能性もある。ハンガリーでは、かつては比較的真っ当だった首相オルバン率いる政党が、実質的に極右の民族主義的なポピュリスト政党になった。英首相メイの最近の民族主義的な言動は、保守党をUKIP的なものにしようと試みているように映る。

考えが違う人たちが共存することを否定するポピュリストに対して、多元的な共存が疑問の余地のない価値だと訴えるだけでは不十分だ。人々がどうすれば、民主主義的な統治と公正さの感覚を失うことなく、互いに密接につながって頼り合う世界の一員になれるのか。そのためのよりよい政策と物語を示す必要があると私は考えている。(聞き手・村山祐介)


Jan-Werner Muller

1970年、ドイツ生まれ。米プリンストン大政治学部教授で、専門は政治理論や現代政治思想史、欧州政治と社会。近著『ポピュリズムとは何か』の邦訳を来年4月、岩波書店から刊行予定。