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フォトグラファーが見た驚愕の光景 アメリカ議事堂襲撃事件

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
連邦議会議事堂に集まるトランプ大統領の支持者たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

1月6日早朝。陽が昇る前の暗闇の中、私はいつもより厚着をし、ワシントンのすぐ南にあるバージニア州の自宅から、最寄りの駅へ猛ダッシュした。連邦議会で大統領選の結果を確定する会議が開かれようとしていたこの日、全米各地からトランプ大統領の支持者たちが続々とワシントンへ向かっていた。「選挙の不正」を訴え続けるトランプ氏の一大イベント「セーブ・アメリカ・マーチ」(米国を救う行進)が予定されていたからだ。主役はもちろんトランプ大統領。「D Cで行われる大きな抗議運動だ。激しいものになるぞ!」と、ツイートで何度も支持者へ「集合」の号令をかけていた。

ジョージア州上院選を応援するために開かれた集会で演説するトランプ大統領=ジョージア州バルドスタ、ランハム裕子撮影、2020年12月5日

ワシントンの交通規制で地下鉄出勤することになった私が朝6時発の電車に乗ると、それはまさに「トランプ・トレイン」だった。ワシントンのホテルは高額なため、支持者の多くが郊外に宿泊し、そこから市内の会場へ向かおうとしていた。しまった……と思ったが、選択の余地はない。車内は「米国を再び偉大に」と書かれた赤い帽子やトレーナー、カラフルなトランプグッズを身にまとった人たちで溢れている。新型コロナの感染がこれだけ広がっているのに、マスク着用者はほとんどいない。大声で話したかと思えば、「あと4年!」やトランプ・コールが車内で波のように押し寄せた。トランプ支持者が新たに乗車してくる度に歓声が上がる。その歓迎ぶりや、「あなたはどこの州から来たの?」と楽しく尋ね合う様子は、アイドルのコンサートにでも行く女子高生たちのようだった。市内に到着し「トランプ・トレイン」を降りると今度は駅構内にUSAコールが響いた。外はまだ暗かった。

ホワイトハウスの南側にあるナショナルモールで、南部連合旗などを掲げるトランプ大統領の支持者たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

トランプ大統領の演説予定時間は午前11時だったにも関わらず、7時には多くの人がホワイトハウス南側の会場へ向かっていた。いつものように脚立と機材を抱え、歩き出して数分のことだった。これまで取材してきた恒例のお祭りとは違う異様な空気を感じた。極寒の中、入れ墨に覆われた上半身裸で、顔に赤、青、白のペイント、頭にはバッファローの角をかぶった陰謀論集団「Qアノン」支持者がメガフォンを構え、「大統領はトランプしかいない!」と叫んでいた。その奥には奴隷制度存続を主張した南部連合の旗が強風になびいている。迷彩服にヘルメット、ガスマスク、リュック、コンバットブーツなどを身に着けた人の姿も多く見られた。戦闘装備したその姿はまるで兵士だ。そのうちの一人が目の前でカラースモークをたき始め、周囲はみるみる真っ赤な煙で覆われた。

ホワイトハウス周辺で「大統領はトランプ氏しかいない!」と叫ぶQアノン支持者。この男性はこのあと議事堂を襲撃し逮捕された=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

気づけば夜が明け、トランプ大統領の演説時間が迫っていた。太陽が見えない薄暗い空の下、何万人もの群衆がそれぞれの旗を掲げ「あと4年!」「選挙の不正を阻止しろ」と叫んでいる。トランプ氏の登場直前、ある女性が声をあげた。「一本の光が降りてきた!トランプは神だ!」。すぐさま空を見上げたが、空はただ、どんよりとした雲に覆われているだけだった。

ホワイトハウスの南側にあるナショナルモールに集まる人たち。トランプ大統領を一目みようと木によじ登る人もいた=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

ホワイトハウスをバックにガッツポーズをしながら登場したトランプ氏は、いつものようにメディア批判から演説を始め、すぐさま話題は大統領選へ。「人々はこの現状にもう耐えられない!これ以上受け入れることはできない!」。自分は大差で選挙に勝ったのだから、「不正の結果には決して譲歩しない」と明言。「私たちは戦う。死にもの狂いで戦わなければ国がなくなってしまう」。会場に入れなかった人達は周辺に設置された大画面に向かい携帯電話をかざしていた。マスクをしない群衆の割れんばかりの歓声が町中に響いた。

トランプ大統領の演説を聞くため、ホワイトハウスの南側にあるナショナルモールに集まる支持者たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

約70分にも及ぶ演説の最後、トランプ大統領は群衆にこう呼びかけた。「弱腰の共和党員に国を取り戻すための誇りと大胆さを教えるよう、私たちはこれからキャピトル(連邦議会議事堂)へ行く。ペンシルベニア通りを共に歩こう!」
「私たち?!」。私は自分の耳を疑った。大統領が群衆と町を行進することなどあり得ないからだ。結局、トランプ氏は行進には同行しなかった。こうして、支持者たちはトランプ氏抜きでホワイトハウスと議事堂を繋ぐペンシルベニア通りを2キロほど歩き連邦議会議事堂へ向かった。

連邦議会議事堂近くでトランプ大統領の支持者に囲まれ立ち往生するパトカー。なぜかU S Aコールが巻き起こっていた=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

群衆に取り囲まれたパトカーが立ち往生したり、カラオケ大会のようなステージで爆音で歌って人々が踊っている光景を横目に、議事堂西側にたどり着く。目の前には驚愕の光景が広がっていた。新大統領の就任式のために設営された報道用カメラのやぐらが、バリケードを倒してよじ登ったトランプ支持者たちに占領されているではないか。

連邦議会議事堂に設置された大統領就任式用のバルコニーやカメラスタンドを占領するトランプ支持者たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

煙もまだただよっていた。銃の絵や「くたばれバイデン 」と書かれた旗が、南部連合旗や「トランプ2020」の青い旗とともになびいている。黒人差別の象徴ともいえるヌース(首吊り縄)が木の枠に吊るされ、議事堂の敷地に持ち込まれていた。芝生では、目をつぶった老女が頭を揺らしながら大声で呪文を唱えている。その近くには星条旗の衣服に身を包んだ中年女性が「トランプの勝利!」と偽情報の見出しが躍る新聞を手に、撮影してくれと言わんばかりに私を見つめていた。自分は一体どこにいるんだ?!……危うく「パラレル・ワールド」(並行する別世界)に引き込まれそうになった我を現実に引き戻す。

連邦議会議事堂の外で「トランプ勝利!」と書かれた新聞を持つ女性=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

その時だった。群衆の中で受信できなかった私の携帯が奇跡的に鳴った。「トランプ支持者が議事堂内に乱入――」。同僚からのメッセージだった。やぐらの上では両手を上げ興奮する人たちの姿が。まもなく、兵士のような格好をした若い男性が苦しそうな顔でこちらに向かって走ってきた。「催涙ガスでやられた。ちくしょう!」と叫んでいる。話を聞こうとすると、男性はメディアとは一切話さないと言いその場を去った。

連邦議会議事堂に集まるトランプ支持者たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月6日

笑顔で穏やかな雰囲気の白人男性、ボブ・マザースさん(56)はこの日、トランプ大統領を支持するために、団体バスに2時間揺られ、ペンシルベニア州からやってきた。不正で勝った「バイデンを正当な大統領と認めることはできない」と語るマザースさんは、ホワイトハウス周辺でトランプ氏の演説を聞いた後、議事堂を訪れた。マザースさんが芝生で他の支持者と話していると、男性が目の前に倒れ込んだ。と同時に議事堂のバルコニーにいた「メガフォンを持った男性」が扇動し始め、遠目でも事態の混乱が見て取れたという。悪化する事態にその場を離れたマザースさんはその夜、倒れた男性が心臓発作で亡くなり、この日の死者4名(後に警官の自殺で死者の合計は5名に)のうちの一人となったことを知る。

トランプ大統領の支持者たちにより割られた、連邦議会議事堂入り口の窓=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月8日

トランプ大統領の暴力を煽る言動は、6日の演説で始まったわけではけしてない。朝の演説で大統領が何を言おうが、一部の支持者はすでに「戦闘態勢」に入っていた。

トランプ氏が出馬宣言した2015年6月、「メキシコ人はレイプ犯だ」という発言が波紋を呼んだ。いま振り返れば、それはほんの始まりでしかなかった。メディアを「米国民の敵」と攻撃し続ける一方で、白人至上主義者や極右団体を非難することを頑なに拒み続けた。

大統領選の候補者討論会で、白人至上主義の民兵組織を非難するかどうかを問われたトランプ氏は、極右グループ「プラウド・ボーイズ」に向かって「待機していろ」と指示するかのような発言をした。これは米大統領が白人至上主義団体に「お墨付き」を与えたことを意味した。こうした積み重ねが「議事堂襲撃」という名の時限爆弾を生み出し、いったん起爆スイッチが押された装置はトランプ大統領自身ですら止めることができなくなっていたのかもしれない。

ワシントンで行われた「不正選挙」に反対する抗議運動に登場した極右団体プラウドボーイズ=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年11月14日

連邦議会議事堂内で上下院による合同会議を撮影していたフォトグラファーのシェリス・メイさん(48)は、侵入者がすでに議事堂内にいると聞き、近くにいた議員のオフィスへ避難した。家具をドアに押しつけバリケードを作ったが、ドアが乱暴に叩かれる音を聞くたび恐怖に怯えた。クローゼットに何時間も隠れた人もいたという。男性フォトグラファーたちが侵入者を追いかけて撮影する中、メイさんは約30名の議員や職員とともにじっと息を潜めた。「自分が出て行けばターゲットになり得る」。黒人女性のメイさんは「写真を撮ることよりも生きることを選んだ」。プレスフォトグラファーとしての過去9年間、数々の抗議運動を撮影したが、このような経験は人生で一度もなかったという。メイさんはこの日の朝、「気をつけてね」と案じる家族や友人にこう返信していた。「今日私は中にいるから大丈夫。議事堂内は安全だから」……

1月6日襲撃事件を受け、大統領就任式に備え、米議会議事堂で警備にあたる州兵たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月13日

「トランプ大統領を支持し続ける」というマザースさんは、この襲撃事件はトランプ支持者たちを陥れるために極左グループのアンティファによって企てられたものだと信じている。「トランプ氏は辞任もしないし、弾劾を受けることもない。なぜなら、今トランプ大統領は裏切り者たちに対する軍事行動を検討しているからだ。よってあと4年間、大統領でいてくれるだろう」。

トランプ大統領の支持者たちにより割られた、連邦議会議事堂入り口の窓=ワシントン、ランハム裕子撮影、2021年1月8日

事件から数日後、マザースさんからメッセージが。「襲撃事件後、トランプ大統領の支持率が上がっている!」。世論調査や各紙の調査によると、米国人の56%がトランプ氏の解任を求めている。

トランプ大統領が作り上げた幻想の世界「パラレル・ユニバース」の住民が現実の世界に戻る日は、果たして来るのだろうか。