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スマホがZ世代のメンタルに与える影響 社会心理学者が解説 示された四つの解決策

Bestsellers 世界の書店から 更新日: 公開日:
ジョナサン・ハイトの『不安な世代』=関口聡撮影
ジョナサン・ハイトの『不安な世代』=関口聡撮影

2010年以降、10代のうつ病、不安症、自傷行為、自殺の割合が大幅に増加しているという。それはなぜか。ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスで教授を務める社会心理学者のジョナサン・ハイトは、本書『不安な世代』の中で、1996年から2012年前後の間に生まれたZ世代に属する子どもたちの心の問題に焦点を当てている。

著者は、多くのデータを示しながら、スマホとソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が広範に普及した2010年から2015年にかけての間に、Z世代の子どもたちが「遊び中心の子ども時代」から「スマホ中心の子ども時代」へ移行し、同時に不安症やうつ病が増加したと説明。24時間365日、悪いニュースやエンターテインメント、SNSを提供するスマホの使用がその主な原因だと結論づけている。

Z世代は、ベビーブーマー世代やジェネレーションXとは異なり、オフラインの世界では、過保護な両親のもとで、ほとんど常に大人の監視下で育てられた。一方で、彼らはオンラインの世界ではまったく守られてこなかった。

大人は子どもたちがインターネット上を自由に歩き回ることを許し過ぎており、そこではいじめや嫌がらせ、有害なコンテンツに遭遇する危険性が高い。特に女の子は、SNSで身体的イメージが比較されることで自尊心が傷つけられ、一方、男の子はゲームやアダルトコンテンツに夢中になり、現実世界で生き延びるための術(すべ)を学ばなくなる可能性が高いと著者は指摘。Z世代はSNSというほとんど規制のない、あまり理解されていない世界の中でアイデンティティーを形成する、史上初のティーンエージャーの集団となったと著者は説明する。

本書は3月下旬の発刊以降、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストの上位にランクインしている。Z世代の保護者たちからの反響は大きく、オプラ・ウィンフリーなどのセレブや政治家からも絶賛されている。一方で、誰もが著者を支持しているわけではない。現在の青少年のメンタルヘルスの危機の原因がスマホとSNSにあるとする提案は、特に学者たちの間で論争を巻き起こしている。

例えば、『ネイチャー』誌の論評は、著者の主張を説明する決定的な研究は存在しないと反論する。心の健康の問題は、家庭内の問題や経済的問題、校内暴力への恐怖などを含めた環境的要因や遺伝的要因が複雑に絡み合って生じるものであり、著者の主張は本当の原因への対応から目をそらしかねない、いたずらに恐怖をあおるものだと非難している。

より健康的な子ども時代のために著者は次の四つの解決策を提言する。それは「高校生になるまでスマホを持たせないこと」「16歳まではSNSを禁止すること」「学校内ではスマホを使用しないこと」だ。そして四つ目として「監視のない遊び」を奨励している。

これは特に低年齢の子どもたちに当てはまることで、彼らに自信を持たせ、子どもたちだけで公園で自由に遊ばせることで、スクリーンの中にいるだけでは得られない、友だちと意見が食い違ったときに物事を解決する力や、冒険心や自立心を養うことができるという。そしてこの四つを、保護者、学校、政府、大企業が足並みをそろえ、今すぐに実行しなくてはならないと、著者は強く訴える。

スマホが子どもに与える悪影響については、皆が薄々気づいていたことであり、現代の若者たちが、その範囲と深刻さにおいて前例のない心の健康の危機に瀕(ひん)していることは間違いないだろう。子どもたちのSNSの利用を遅らせれば遅らせるほど、子どもたちはより健全になる。彼らがもう少し大人になるまで待っても害はないとする著者の主張には説得力がある。(敬称略)

米国のベストセラー

(eブックを含むノンフィクション部門)

8月25日付The New York Times紙より

『 』内の書名は邦題(出版社)

  1. Hillbilly Elegy

    『ヒルビリー・エレジー  アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(光文社)

    J.D. Vance  J・D・ヴァンス

    共和党副大統領候補となった著者が語る白人労働者階級の苦闘。

  2. The Art of Power

    Nancy Pelosi ナンシー・ペロシ

    女性として初めて下院議長を務めた著者が政治家人生を回想する。

  3. Over Ruled

    Neil Gorsuch and Janie Nitze ニール・ゴーサッチ&ジェニー・ニッツェ

    米連邦最高裁判事らが、米国の法律の膨大さと複雑さに疑問を呈する。

  4. The Anxious Generation

    Jonathan Haidt ジョナサン・ハイト

    スマホ中心の生活が子どもたちの精神衛生に与える影響。

  5. The Body Keeps the Score

    『身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法』(紀伊國屋書店)

    Bessel van der Kolk ベッセル・ヴァン・デア・コーク

    トラウマが心身に与える影響を説明し、革新的な治療法を提示。

  6. The Demon of Unrest 

    Erik Larson エリック・ラーソン

    リンカーンの大統領当選から南北戦争が始まるまでの数カ月間を描く。

  7. Ask Not

    Maureen Callahan モーリーン・キャラハン

    ケネディ一族の歴史の周辺で起きていた女性虐待とスキャンダル。

  8. All in the Family

    Fred C. Trump III フレッド・C・トランプ3世

    トランプ前大統領の甥が堅実な人生を歩むまでの道のりを語る。

  9. Outlive

    Peter Attia with Bill Gifford ピーター・アティア&ビル・ギフォード

    肉体的、認知的、感情的な健康を改善し寿命を延ばす実践的な方法。

  10. The Backyard Bird Chronicles

    Amy Tan エィミー・タン

    作家で野鳥愛好家のエィミー・タンによるエッセーと絵画。