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「若者はマスメディア情報を見ない」という誤解 虚実が同居するネットとの付き合い方

研究室から見える世界 更新日: 公開日:
ペロシ米下院議長のろれつが回らないかのように改変されたネット上の動画について報じる米CNN=2019年

■リーダー層が知らない、若者の「迷い」

菅義偉首相は72歳、自民党の最高実力者である二階俊博幹事長は82歳、直近の国政選挙である2019年7月の参院選の当選者124人の平均年齢は54.4歳(当選確定時点)、帝国データバンクが全国94万社の社長の年齢を調べたところ、平均年齢は60.1歳(2021年1月時点)――。政策立案やビジネスを牽引する日本の各界のリーダー層は、50~70代の、しかも多くは男性によって占められている。

そうした社会のリーダー層を占める中高年世代に、いま一度再認識して欲しいことがある。今の若い世代の情報との接触の仕方は、中高年世代のそれとは全く異なっているということ。その結果、今の若い世代は、リーダー層世代が若い頃には経験したことのない情報の真偽をめぐる「迷い」に直面しているということ。そして、その「迷い」の根源にある情報を巡る混乱の問題に真剣に向き合い、中長期的な政策や措置を講じていかなければ、民主主義社会が崩壊しかねない危機の時代に我々は生きている――ということだ。

■10年前とは情報源が一変した

中高年世代と若い世代の情報入手方法がどれほど違うかを再確認するために、最近発表された一つの調査結果を見たい。博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所が2006年から毎年1回実施しているメディア定点調査である。

5月24日に公表された2021年版の最新の調査結果によると、東京都民1人当たりの1日のメディアへの総接触時間は450.9分。このうち、いわゆるオールド・マスメディア(テレビ、新聞、ラジオ、雑誌)への接触時間が総接触時間に占める割合は、4つ合わせて45%(テレビ33.3%、ラジオ6.4%、新聞3.2%、雑誌2.1%)であった。

一方、携帯電話・スマートフォン(以下スマホ)への接触時間が総接触時間に占める割合は30.9%。これにパソコン16.3%、タブレット端末8.0%を加えると、インターネット電子端末3つへの接触時間の合計は総接触時間の55%を占めた。

10年前の2011年調査では、オールド・マスメディアへの接触時間が総接触時間に占める割合は67.5%、インターネット電子端末3つへの接触時間が占める割合は32.5%であった。日本人の「情報源」が、この10年間でオールド・マスメディアからインターネット電子端末にすっかり変わったことを示唆する調査結果と言えるだろう。

今年の調査結果で注目すべきは、世代による著しい違いである。企業の社長世代である60代男性のメディアへの接触の仕方を見ると、インターネット電子端末への接触時間が総接触時間に占める割合が42.3%であったのに対し、オールド・マスメディアへの接触時間が占める割合は57.7%だった。

60代女性の場合、インターネット電子端末への接触は総接触時間の23.3%に過ぎず、オールド・マスメディアへの接触が76.7%を占めていた。詳細は元データを参照していただきたいが、50代でも、男女ともにオールド・マスメディアに接触している時間の方が長いという結果が出ている。

ところが若い世代では、この傾向が完全に逆転する。15~19歳男性のメディアへの接触の仕方を見ると、スマホへの接触時間が総接触時間に占める割合は46.7%、パソコン16.8%、タブレット端末9.9%。これら3つを合わせると、総接触時間の73.4%に達した。一方、4つのオールド・マスメディアへの接触時間が占める割合は26.6%に過ぎない。

20代男性では、3つのインターネット電子端末への接触が75.9%を占め、オールドメディアへの接触は4つ合わせて24.1%に過ぎなかった。女性についても、15~19歳、20代ともに同様の傾向が見られた。

■SNS一辺倒になる若者たち

写真はイメージ

ここで、6月18日に公表された総務省の令和2年(2020年)通信利用動向調査を見てみよう。

それによると、2020年8月末時点で、日本国内でSNSを利用している人の割合は73.8%で、前年同期の69.0%から4.8ポイント増加した。
年代別の利用状況をみていくと、60代60.6%、50代75.8%、40代81.5%と世代が若くなるごとに利用している人の割合が増え、20代では90.4%に達している。

ここまで紹介してきた2つの調査結果は、若い世代に属する人自身、さらには若い子どもや孫と同居している人にとって、強い実感を伴うものであるに違いない。私事ながら、私には大学生、高校生、中学生と3人の子供がいるが、彼らが紙の新聞を読んでいる姿を見たことがない。また、過去3、4年の間に彼らのテレビ視聴時間は激減し、夕食後は3人がそれぞれスマホの画面で好きなYouTube動画を視聴しているため、テレビの前に座っているのは私と妻だけという光景も珍しくなくなった。

親と同居する学生たちに家での様子を聞いてみても、我が家の光景とだいたい同じだ。今の若い世代は日常の情報の多くを、スマホを通じてYouTube、インスタグラム、ツイッター、LINEニュースなどのSNSにアクセスすることで得ているのである。

しかし、それは、「若い人たちはオールド・マスメディアの発する時事ニュースに触れていない」ということを意味するのではない。

スマホの画面に次々と現れては消える情報の中には、新聞社とテレビ局という2大オールド・マスメディアによって配信されたニュースが膨大に含まれている。政治経済の動き、大きな事件や事故、国際情勢、芸能、スポーツ、自然災害といった様々な事象の第一報を取材して伝える機能を有しているのは、多くの場合、今でもオールド・マスメディアだからである。若い人たちは紙の新聞こそ読まず、テレビの前に座る時間も短くなったが、SNSを通じてオールド・マスメディア発の膨大な時事ニュースに触れ続けている。

■正反対の見解が流通する時代に

2018年の沖縄知事選では、玉城デニー知事らを中傷するニセ情報がちりばめられた発信元不明のサイトが現れた

その結果、若い世代の人々はスマホの画面上で、一つの事象に関する正反対の見解を同時に目にするという状況に直面している。

例えば新型コロナについて、オールド・マスメディアの多くが重症化や後遺症の恐ろしさに言及し、感染対策やワクチン接種の重要性を呼びかける医学部教授など専門家の声を伝え続けている。若い世代はこうした情報をテレビで視聴するだけではなく、テレビ局が制作したYouTube動画や、LINEニュースなどSNSでも見ている。

その一方で、新型コロナは普通の風邪と大差なく、マスクをする必要はなく、ワクチン接種こそが危険であり、一連の「新型コロナ騒ぎ」は、政府やオールド・マスメディアといった既得権益層による捏造の類であるとの主張がSNS空間を中心に拡散し続けている。これらの主張の中には、しばしば医師や「〇〇大学教授」を名乗る人の発言や執筆によって「権威付け」がなされているものもある。

こうした百八十度正反対の見解が、若者の最大の情報源であるスマホの画面上で、あたかも「等価」であるように流通している。テレビと紙の新聞によって市民に情報が一方的に伝えられていた時代には、想像もできなかった事態である。

正確な事実に基づく情報と陰謀論・フェイクが「等価」であるかのように流通するような情報環境は、SNSの普及によって誰もが容易に情報発信できるようになったこの10年ほどの間に生まれたものだ。

この10年という時間が持つ意味は、中高年世代と若い世代では全く違う。50代、60代にとっての10年は人生の一時期に過ぎないが、20歳の学生にとっては人生の半分に相当する。今の乳幼児やこれから生まれてくる子供たちは、正確な事実と陰謀論が等価であるかに見える情報環境の中で生きていくことになる。

情報との適切な付き合い方について一貫して学び続けるシステムの構築を急がなければ、嘘だらけの政治家が支持され、嘘ばかりの「専門家」や「有識者」が尊敬され、デタラメだらけの作家や評論家が人気を博す時代が来てしまう。いや、もう来ているのではないか。