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仕事をすぐ辞める韓国のZ世代、日本の先行く労働市場の欧米化で「新卒ブランド」崩壊

牧野愛博のThe World Inside Out 更新日: 公開日:
写真はイメージです=gettyimages

ゴールデンウィーク(GW)の終わりとともに、この春入ったばかりの会社を辞める日本の若い人々が話題になった。お隣の韓国にはGWはないものの、職場を離れる若い人が後を絶たないという。韓国の知人たちは「価値観の変化が大きい」と語るが、「若者に優しくない」社会にも原因がありそうだ。この問題は、韓国の人々が心配している「国が滅びる」危機にも影響を及ぼしかねない。(牧野愛博)

離職は「新しい挑戦」と考えるZ世代

韓国経済紙「亜洲日報」の韓(ハン)ジュノ編集局長は「新人記者の離職問題」で頭を悩ませている。「新人記者の約半数が、1年持たずに辞めていきます」と語る。

辞める理由はほぼ同じで、「大学時代に考えていた記者の生活と違いがある」というものだ。記者を辞めて、大学院に行ったり、別の職種の民間企業に就職したりする。韓局長は「Z世代と私たちの世代では、価値観が全く違います」と話す。

Z世代とは、1990年代半ばから2010年代前半に生まれた世代。「人生は長いから、いろいろな仕事を経験した方がプラスになると考えている」(韓局長)。子供がZ世代にあたる韓国政府の元当局者も「離職に対する考え方が全く違う。私たちの世代はネガティブな見方をするが、Z世代は新しい挑戦だと考えている」と語る。このため、同じ職場でもZ世代とそれ以上の世代で様々な軋轢(あつれき)が生まれている。

会社人間にはなりたくない

Z世代がよく使う言葉のひとつに「꼰대(コンデ)」がある。荒っぽく訳すと「くそおやじ」というような意味で、偉そうに振る舞う年配者を馬鹿にするときに使う隠語だ。

「(라때는 말이야(ラテは馬だ/Latte is horse)」という言葉もある。読みが似た「나때는 말이야(俺の〈若かった〉時はなあ)」を変形させたもので、日本の年配者もよくやりがちな「昔の武勇伝語り」を、ちゃかす意図で使われる。

「워라밸(ウォラベル)」も大事にする。「ワーク・ライフ・バランス」を縮めた言葉だ。彼らは小さい頃からスマホを持ち、自分だけの小さな世界を持っているため、集団で群れることを嫌う。ウォラベルを大切にするZ世代が「会社のために」と思うはずもない。

仕事終わりに飲み屋で酒を楽しむ人々
仕事終わりに飲み屋で酒を楽しむ人々=2022年4月25日、ソウル、ロイター

この傾向は民間会社だけではなく、かつて人気職種だった公務員にも広がっている。韓国行政安全省の資料によれば、韓国全体の公務員のうち、就職して5年未満の退職者は、2019年当時で約6700人だったのに対し、2022年には約1万3300人とほぼ倍増した。韓国メディアによれば、給与が安いことに加え、「民願(ミンウォン)」と呼ばれる市民からの陳情・申し入れに疲弊して辞めていくという。

転職を繰り返すと、退職金がもらえなくならないのだろうか。ソウル近郊に住む知人に聞いたところ、韓国では「1年勤めると、退職金1カ月」という暗黙のルールがあるそうで、退職金とはそんな程度という認識があるため、離職に対するハードルにはならないという。

崩れる「新卒ブランド」

韓国では就業構造も欧米社会型に変わりつつある。

かつての韓国は日本と同じように、「終身雇用」「年功序列型賃金」が主流だった。最近では労働市場の変化や韓国を取り巻く経済環境の悪化から、こうしたスタイルを維持しているのは財閥など大手企業に限られている。企業側も、社員が短期間で辞めていくことを織り込み、社員を育てることはせず、即戦力を中途採用で獲得しようとする。

このため、韓国では20~30代の雇用環境が安定しない弊害も生まれている。日本のような「新卒ブランド」が意味を持たないため、スキルを身に着ける前の20代は就職で苦労することになるからだ。

韓国統計庁によれば、15歳から29歳までの青年失業率は今年3月時点で6.5%、同時期の全体失業率2.6%を大幅に上回っている。韓国政府関係者は「韓国の若い世代は非婚がトレンド。結婚できない状況が、少子高齢化を更に進める結果を招いている」と語る。

日本が「失われた30年」を招いた原因は、「デジタル化の失敗」とともに「労働市場の硬直化」からグローバル化に失敗して、世界経済の発展に乗り遅れたことが原因だと言われる。逆に、日本が韓国よりも少子高齢化で、今少しマシな状態にあるのは、韓国ほどにドラスティックな変化を追求していない結果だとも言える。

GW明けに退職を申し出る若い人々を見て、「日本の労働市場も変わらなければならない」と考えるべきか、「終身雇用と年功序列型賃金は、雇用環境を守るための大切な要素だ」と思うべきなのか。日本よりも少し前を走る韓国の姿を見ながら、今一度考える必要がありそうだ。