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「100億稼ぎたい」にどよめいた 東京の起業家シェアハウスに集まるZ世代の素顔

World Now 更新日: 公開日:
日高隆之介さんらZ世代の若者たち
シェアハウスと同じビルにあるカフェバーで、事業について話し合う日高隆之介さん(中央奥)らZ世代の若者たち=中川竜児撮影

起業を目指す若者たちが切磋琢磨するシェアハウスが東京にある。共同生活を送りながら、SNSを駆使してビジネスを立ち上げようとする彼らの視線にあるものは、何だろう。(中川竜児)

「社長になりたい」「世の中の幸せを最大化したい」「会社員はやりたくない。給料を含めて、先が見えている」

1月3日夜、東京・新宿のカフェバーで起業を志すZ世代のミーティングが開かれていた。参加者たちのあいさつで神笠真樹さん(23)は宣言した。「100億円稼ぎたい」。軽いどよめきがおきた。

広島県出身の神笠さんは昨春に地元の大学を卒業。不動産会社に就職したが、11月末で退職した。起業のため、最初から200万円ためたら辞めるつもりだった。

神笠さんがつくった株式会社offerが取り組むのは、飲食店と利用者がともに「お得」になるアプリだ。ヒントは学生時代にバイトしていた飲食店の店長の「暇な時間にお客が呼べたらいいのに」というぼやきだ。コロナ禍では、予約のキャンセルや、食品ロスに悩む飲食店を救うことにもなると考えた。

参加店はその時々の事情に応じて、最大5割引きのクーポンや、ロスになりそうな食材を使った料理の割引クーポンを発行できる仕組みだ。「航空券やホテルは需給で価格が変わる。飲食店でも」

アプリは足がかりで、将来的には、店にカメラを置いて客が少ない時はAIが判断してクーポンを発行、従業員の働きぶりもデータにして効率化を図る、といった飲食店経営の改革を支援するビジネスを展開して、「100億円」の構想を描く。100億は神笠さんにとって「成功の象徴」で、深い意味はないらしい。

シェアハウスで、自身の起業について語る神笠真樹さん
シェアハウスで、自身の起業について語る神笠真樹さん。寝るのはドミトリーのベッドだ=中川竜児撮影

課題は知名度だ。宣伝にかけるお金はない。3月中のアプリリリースを目指し、店への地道な営業に加え、TikTokでカウントダウン動画を発信している。「新卒で入った会社を半年で辞めて無職」の若者が、リリースにこぎ着けるストーリーを見せる趣向でファンを増やす狙いだ。2月下旬時点のダウンロード予約は約200人、参加店は十数軒だが、「(社名は)覚えなくても大丈夫です。ニュースで取り上げられるようになりますから」とたくましい。

神笠さんが退職後、住まいにしたのが「U25起業家シェアハウス」だ。新宿のホステルの一部を借り上げ、起業を目指すZ世代の若者約20人が一緒に暮らす。冒頭のカフェバーも同じ建物にある。

シャワーや台所は共同で、個人スペースはドミトリーの小さなベッドくらい。汗とインスタントラーメンのにおいが少し残る共有スペースで、入居者らがパソコンに向かい、議論を続けている。「複雑な新宿駅構内で迷わないマップができないか」「いじめに対する法的措置を助けるサービスをつくりたい」。それぞれが、事業を通じて日常生活や人生で経験した「課題」の解決を目指す。

シェアハウスを運営するのもZ世代の起業家、日高隆之介さん(21)だ。

この月は5万円で、住む場所のほか、先輩起業家や弁護士らがメンターとなり、資金調達にもつながるビジネス企画のコンテストなどのプログラムを提供した。「就職のノウハウは教えてくれるけど、起業は教えてくれない」と日高さん。2020年12月のスタートから1年で400人以上が参加し、約30人が実際に起業した。

事業について話し合うZ世代の若者たち
事業について話し合うZ世代の若者たち。奥左が日高隆之介さん、その隣が神笠真樹さん=中川竜児撮影

日高さんは大学入学後、先輩起業家の発案で、数カ月の予定だった起業家シェアハウスに立ち上げから関わった。「起業したい同世代がこんなにいるんだと驚きましたし、なくすのはもったいないと」。運営を引き継ぐと決めると大学をやめ、退路を断った。

日本の18年の会社開業率(前年の会社数に占める設立登記数の割合)は4.4%で、欧米の半分ほどにとどまる。そんなビジネス社会の閉塞感に一石を投じる試みでもある。3月には拠点を新宿から恵比寿と大森に移した。いずれはアジアの人材を集めるシェアハウスをつくりたいという。

日高さんは「誰とも違う生き方をしたいと思うのは、いつの時代の若者も同じでは」。ただ、Z世代は、先行世代の「成功者」が発信するライフスタイルや考えをSNSで知りやすい分、お金や地位、名誉がもたらす意味を考えるという。「『何でも見える化』が進むほど、『本当の幸せ』って何だろうと自分と向き合い、考える傾向はあるのかな。自分のアイデアや違和感を形にし、課題を解決したり、社会に欠けているものを埋めたりできれば言うことない」