同徳女子大は1908年に創立されたソウルの中堅女子大。人文、社会科学、芸術、薬など10学部を擁する総合大学だ。同大はホームページを通じて2023年1月、「就職率がソウルの4年制女子大で最高の67.9%を達成した」と説明した。
韓国メディアによれば、今月8日ごろ、男女共学化を進めている同大の動きが表面化したことに、学生側が反発して騒ぎが始まった。
当初は、一部の教室で教授の入室を拒んだり、構内にある大学の功労者の胸像にケチャップや小麦粉、卵をかけたりしていたが、徐々に騒ぎがエスカレート。大学施設の前に、大量の弔花が飾られ、「共学化転換、決死反対」などの立て看板や落書きがあちこちに出現した。ロックアウトで対抗する大学側に、学生側は「武力鎮圧、恥ずかしくないですか」などとSNSに投稿して拡散させている。
これに対し、極右傾向の団体が「フェミニズム反対」などとした集会を大学前で開いたり、女子学生のデモの様子をユーチューブで中継したりした。女子学生を非難したり、揶揄したりするコメントが多数ついた。全く無関係の男性が大学構内に入り込んで、警察に逮捕される事件も起きた。同じ時期、ソウル市の誠信(ソンシン)女子大の国際学部でも、男性の志願者を受け入れる動きが表面化。学生たちが15日に反対集会を開くなど、同徳女子大と同じような騒ぎになっている。
韓国は世界でも稀有な少子高齢化の状況に直面しており、地方を中心に定員割れする大学が相次いでいる。韓国教育省は2022年、地方大学を中心に全国96大学の定員を、2025年までの4年間に計約1万6000人削減する案を発表するなど、対策に追われている。女子大の共学化も、こうした定員割れを防ぐ狙いがあった。ソウルに住む50代の公務員男性も「女子大も男子学生を受け入れざるを得ないのが、時代の要請」と語る。
韓国大手マスコミの40代幹部によれば、同大の女子学生が激しく反発したのは、フェミニズムが大きく作用しているのではなく、学生たちに一切の説明がなく男女共学化が進められたことにあったという。この幹部は「以前から、大学側が独断で大学を運営することが多く、学生側に不満がたまっていたのが原因だ。ジェンダー葛藤とはそれほど関係がないのに、周囲が格好の話題だと考えて飛びついた」と語る。
社会が「ジェンダー葛藤だ」と飛びつくほど、近年の韓国で若い男性と女性はしばしば反目し合ってきた。
2016年5月、ソウル市の地下鉄江南駅近くで、30代の男性が一面識もない20代女性を殺害。「女性嫌悪犯罪の始まり」とされた。その後も、韓国でしばしば、無関係な女性を標的にした男性による暴行事件が起きている。2019年には、フェミニズムに反感を抱く「マイノリティー男子」の悲哀を訴える書籍「20代男子」が出版されて、大きな話題を呼んだ。2021年6月、韓国の保守系最大野党「国民の力」の新しい代表に選ばれた当時36歳の李俊錫(イ・ジュンソク)氏は「虐げられた男性に手を差し伸べる」とアピールしたため、SNSを中心に女性から「ケ(犬)・ジュンソク」などと猛烈な反発を浴びた。
韓国で15~29歳を対象にした「青年失業率」は2024年10月現在で5.5%。約21万5000人の青年失業者がいるとされる。同時期の全体失業率2.3%の倍以上の数値だ。
背景には、激烈な受験競争を経て高学歴を身に付けた人々が、「自分に合った職業がない」と考えるケースが多い事情があるとされる。日本のような「新卒ブランド」を求めず、即戦力を見極めて採用する「インターン制度」を導入している企業も多いため、特別な経験や技能を持ちにくい若い人々が就職に苦戦しているとみられる。
こうした状況で、男性の怒りや不満の矛先が、しばしば女性に向けられている。上述の公務員男性は「男性には、女性は軍隊に行かずに勉強し、良い成績で有名企業に就職するという不満がある。少子高齢化で、若い女性を優遇する政策はあるのに、若い男性は優遇されていないという被害者意識もある」と語る。
韓国では依然、「旧正月や旧盆では、男性がくつろいで飲食する間、女性たちが台所で立ち働く」といった男性優位の儒教文化の影響が残る面もあり、男性のこうした主張に反発する女性が大勢いる。「少子高齢化で国が滅ぶ」という声も出るなか、男性と女性の間に生まれる「ジェンダー葛藤」は、韓国社会が頭を悩ませる難問の一つになっている。