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女性の体の悩みは、社会の問題。フェムテックが作る「自分を大切にできる未来」とは

People 更新日: 公開日:
「fermata(フェルマータ)」のグローバル・ビジネス・マネージャー、リア・カマーゴさんは大学でジェンダー学を専攻した。「歴史学、哲学、社会学、そうしたすべてを包括して初めて『ジェンダー』という視点が生まれる。ジェンダーを学んだことで、私の人生観は180度変わりました」

女性の体にまつわる悩みをオープンに話すことは、長くタブー視されてきた。その悩みゆえに活動が制約されたり、不自由を強いられたりしている女性は多い。その課題に正面から向き合い、女性の健康課題をテクノロジーで解決するのが「フェムテック」だ。「体の悩みから解放されたとき、もっと自分らしさを大切にできるようになる。それは女性も男性も同じ」と、この分野で市場を牽引する「fermata(フェルマータ)」のリア・カマーゴさんは言う。フェムテックの現在地、ジェンダーの課題にビジネスから関わる意味などについて、話を聞いた。(画像はfermata提供)

――近年、「フェムテック」という言葉を耳にすることが多くなりました。世界的に注目されているのはなぜですか。

リア・カマーゴさん(以下敬称略):「フェムテック」は、「female」(女性)と「technology」(技術)からなる造語です。2012年、ドイツで月経管理アプリを開発した方が投資を集めるために使用し始めたのがきっかけで、フェムテックという概念が広がっていきました。

その頃は「フィンテック」(financeとの造語)、「エドテック」(educationとの造語)といったように、さまざまな分野で「新しいテクノロジーをどう活かすか」という流れが生まれていた。そんななか、医者や専門家たちから、「そういえば、女性の健康は今まで注目されてこなかったよね」という声が上がるようになりました。

テクノロジーの発展と、そういう新しいフェミニズムの流れがタイミングよく重なり、一つの潮流が生まれたのだと思います。

fermataでは、国内外からセレクトしたフェムテックアイテムを多く取り扱っている

――生理や性に関する話題は人前ではしにくいという意識が働きますが、これは日本ならではの感覚ですか。

リア:月経や経血といったものに対して、「恥ずかしいこと」「汚いこと」という意識が付きまとうのは、決して日本だけではないと思います。

一方で、国や地域、宗教、そして時代背景により、体に対する悩みやモヤモヤの対象は異なります。日本には皆が裸になり、身体を流し合う銭湯の文化があるので、そうした場であれば体の悩みをオープンに話せるという人もいるかもしれない。ですがアメリカにはこうした場がないからこそ、「もっと体に対する悩みをみんなで話してみよう」という流れが生まれた、と考えることもできます。

フェムテックを身近に感じられる「吸水ショーツ」

――fermataでは、フェムテックのプロダクトとして、履くだけで生理期間を過ごせる「吸水ショーツ」や、折りたたんだ膣内にセットできる「月経カップ」などの商品を扱っています。

リア:初対面でいきなり、「私、生理痛が酷くて」なんて、なかなか口にできないですよね。でも、実際にそうしたモノがあると、話しやすいんです。fermataは東京・乃木坂にある“未来の日用品店”「New Stand Tokyo」内に実店舗を設けているのですが、カップルで訪れてくださる方もいれば、「今度、姉と来ます!」と声を掛けてくださる方もいます。たとえば月経カップの存在を知り、実際に触って頂くことでそこから会話が生まれる。「生理も痛みも仕方がないもの」とどこかで割り切っていても、「解決策がある」「新しい選択肢がある」と知ればワクワクした気持ちが芽生える。そして、「使ってみたら人生が変わるかもしれない」と思えるようになる。“モノが可能にする意識変容”と言えると思います。

東京・港区にある「fermata store in New Stand Tokyo」。商品はオンラインでも購入できる

―fermataは国内外のスタートアップの支援もしていますね。

リア:fermataがローンチしたのは2019年ですが、その当時からeコマース(通販)をするだけでなく「フェムテック市場を包括的に盛り上げる」という目標を掲げていました。具体的には継続的にイベントを行い、そこで多様なテーマを取り上げています。フェムテックの市場やプロダクトに関する情報発信だけでなく、各業界の専門家の方をお招きして深く知識を得たり学んだりできる場を提供しています。世界のフェムテック企業が日本でビジネスを展開できるよう、その申請を手伝う各種申請やマーケティング支援といったことも行っています。

若い会社が多い市場だからこその課題もあります。たとえば、fermataのメンバーは誰も「更年期」を経験していません。これは世界のフェムテック市場全体に言えることですが、その結果、更年期に対するソリューションが生まれにくくなっています。ソリューションを提供する会社の開発者や会社に投資する投資会社の社員のなかに更年期を経験している女性が少ないため、なかなかマーケットにたどり着かない。日本は今後も少子高齢化が進んでいくと考えられるので、この分野ではリードしていけるのではないかと思います。

実際にモノを手にできるからこそ、会話が生まれる

――ジェンダーの課題にビジネスから関わることに、どのような可能性がありますか?

リア:ジェンダー課題って、本当に幅が広いので、具体的に「この課題を解決しよう」と何か決めて進めないと、問題の大きさに圧倒されてしまいます。またジェンダーというと思想の話に寄ってしまいがちになりますが、ビジネスから入ることで、「月経」「妊娠・産後ケア」など具体的な課題、ゴールを設定できて動ける面はあると思います。

――それぞれが体の悩みや不自由さから解放された先には、どんな社会が待っていると思いますか。

リア:生きていれば誰だって悩みはあるものですが、自分の生きたい人生の妨げになるものをできるだけ軽減できるようになれば、もっと「自分らしさ」を中心に目標を立てられるようになると思います。「女性らしさ」「男性らしさ」に縛られてしまう傾向はどこの国にもありますが、そこに縛られていると苦しくなりますよね。「○○らしさ」ではなく、「自分らしさ」を大切に生きていけるようになるのが少し先の未来の形ではないかと思います。

持っている力を最大限発揮できるようになれば、“幸せの状態”が保たれるようになる。余裕が生まれるからこそ、他者にも目を向けることができるようになり、優しさが循環していく。そんな気がしています。

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――「フェムテック」というと女性の課題を解決する話、として関心を集めることの多い分野ですが、男性がもっと関わっていくにはどうすればいいでしょうか。

リア:「ジェンダー」とは、女性だけじゃない、みんなの話ですよね。みな少なからず「男性らしさ」「女性らしさ」やそこからくるステレオタイプに縛られている、まずはすべての人をそこから解放していく必要があると思っています。

力のある立場にいる方々に男性が多いというのは多くの分野で言えることなので、自分がそうした立場にいるのなら、「ではどうしたらマイノリティの声を拾い上げることができるか」ということから考えてみてもいいかもしれません。新規事業を立ち上げる際に、社内にいる男性だけで決めていたら考えが偏ってしまうので、調査の枠を広げてみるなど、できることは色々あるはずです。

フェムテックは、女性の体にまつわる悩みへのアプローチが中心にはなるけれど、そうした悩みを持ち続けることは社会的な問題でもあります。社会の問題は、一人一人がお互いのために変えていこうとしなければ変わらない。「自分にできることはなんだろう」。自分自身にそんな問いを投げかけることから始めてはどうでしょうか。(聞き手・古谷ゆう子)

Lia Camargo 日本、米国、韓国、コロンビアにルーツを持つ。米マサチューセッツ州の女子大学、ウェルズリー大学で「女性とジェンダー学」を専攻した。

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