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【田中俊之】男らしさ女らしさ、いつの間にか身につける子どもたち 親にできることは

World Now

――誰が教えたわけでもないのに私たちには、「これは男らしい」「これは女らしい」というイメージの共有があります。こうしたことが起こるのはなぜですか。

田中俊之(以下敬称略) 基本的に、いまの日本では「男は男に生まれたら男らしく」「女は女に生まれたら女らしく」というのが社会の“常識”として共有されているから、ということに尽きると思います。ある程度、他人に好意を抱く年齢になるとそこに「男は女が好き」「女は男が好き」という“当たり前”が加わっていく。

うちは5歳と1歳の息子がいるのですが、例えばアニメ「サザエさん」を一緒に見ていて驚くことがあります。いまだに、波平が「母さん、新聞」と言ったらフネが「はい、はい」と言って新聞を持ってくるんですね。それから、先日見た放送で言えば、フネが自宅にいないとカツオも波平も何も用事がないのに、「母さんいないの?」となる。「主婦は常に家族のために体を空けて待機しているものだ」ということを描くわけです。

「サザエさん」は昔からある原作を使っているので致し方がないと思う面もありますが、「サザエさん」ほど強烈に昭和的な描き方をしていなくても、子どもが見る番組を通して「男はこう」「女はこう」というメッセージを受け取ってしまっている、ということはあると思います。

男性は一般的に悩みを打ち明けにくい、と大正大学心理社会学部の田中俊之准教授は言う。「何かモヤモヤを抱えた時に『このモヤモヤは自分が男性だから抱くものなのだろうか』と一度立ち止まって考えることが大切です」(写真は本人提供)

――ジェンダーの描き方について、「意識的に変えていこう」という姿勢は近年見られるようになっているのでしょうか。

田中 NHK教育テレビ(Eテレ)は、多様性を意識した番組づくりを行なっていると感じます。「天才てれびくん」という番組でも、「男らしさ」「女らしさ」をテーマに扱っていましたし、小学生向けの「u & i」という番組では多様性がテーマになっていて、ジェンダーはもちろんのこと、「外国人の転校生がやってきたら」「特別支援学校ってなんだろう」ということをテーマとして扱っています。

それから、「きかんしゃトーマス」でも女の子機関車が新キャラとして登場していますよね。なんとなく視聴しているだけでも「“働く機関車”に女の子だっているよね」というメッセージを感じることができるようになりました。

民放のアニメでも、一人親の家庭が描かれていることも多いですし、ここ10年で家族に関する描写は変わってきていると感じます。「多様性」という概念を意識的に取り入れているなと感じることは増えています。

田中俊之さんの著書「男子が10代のうちに考えておきたいこと」(岩波ジュニア新書)。性別役割分業の歴史から「なぜ男性は人前で泣けないのか」まで、ジェンダーを多角的に考察している

――日常生活のなかでも、「男の子なんだから」という声はいまだに聞こえてくることがあります。

田中 例えば子どもが転んだ時に「男の子だから泣かない」と言う親はいるでしょうし、娘がスカートのまま鉄棒でくるくる回っていたら「女の子なのにはしたない」とつい言ってしまうことで、「男の子のように活動的であってはならない」というメッセージを発してしまっていることもある。それは親に限った話ではなく、保育園や幼稚園、小学校などでも多かれ少なかれ言われていることかもしれません。子どもたちは親や学校、友達など周囲を通して男らしさ、女らしさの観念を“常識”として「学んでいっている」のだと思います。

――「男らしさ」や「女らしさ」という感覚は、男性、女性その両方を縛り、苦しめることになります。そもそも田中さんが「男性学」に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか。

田中 僕はいま45歳なので、1990年代後半を大学生として過ごしたのですが、「ジェンダー研究」が90年代後半には社会学の一領域として発展したこともあり、社会学を専攻していればジェンダーについて触れられるような環境が整いつつある時期でした。「メンズリブ運動」が一定の盛り上がりを見せたのも90年代です。なので、いまの40代は「多少はジェンダーについて学んだ」という人が一定数いる世代だと思います。

もっと個人的な話で言えば、大きな疑問を持つきっかけになったのは就職活動でした。大学には真面目な子もいれば、不真面目な子も、髪の毛の色だって、黒の子もいれば、茶髪の子もいる。でも、就職活動が始まるとみんな逆らうことなく「就職する」と言い出し、リクルートスーツを身に纏って同じような外見になっていった。それは僕からすると理解しがたくて。働くのが嫌でしたし、「40年間同じ場所で働かなければいけない」なんて意味がわからないな、と(笑)。

日本はもともと第一次産業で成り立っていた国なので、「仕事=会社で雇われて働く」ということが一般化したのは戦後のことです。それが非常に短期間で“常識”とされていった。

そして男性だけがそれを信じたのではなく、女性もまた働かない男性に不信感を抱いたわけです。僕はすごく違和感があったので、その仕組みを知りたい、と思った。その思いは今も変わらないですね。

――いま、大学で教えていらっしゃいますが、学生たちの意識が変わってきたと感じることはありますか。

田中 ゼミにいる女子学生のなかには、大学でジェンダーについて勉強したことで「高校時代に男女一緒の部活にもかかわらず女性ばかりが後片付けをしていたのを、当時は当たり前と思っていたけれど、あれはおかしかった」と気づく学生もいます。過去を振り返りながら、「なぜ女性ばかりが?」と改めて考える。「もう少し早い段階でジェンダーについての話を知りたかった」という声を聞くこともあります。

男子学生で言えば、「女性と比べて何でも自分が上でないと嫌」という感覚は薄れているように感じます。「身長が自分の方が高くないと嫌だ」「学歴が自分の方が上でないと嫌」と言ったこだわりは、どんどんなくなっていますね。将来についても、「妻の方が年収が高かったら」という話をすると、基本的には「ラッキーだな」と思う。「世帯収入が上がる方がいい」と答える学生は多い、というのは印象としてあります。僕の世代とは雲泥の差ですね。

――これからの子どもたちが「男らしさ」「女らしさ」にとらわれずに生きていくために、個人として、社会全体として何ができるでしょうか。

田中 小学校、中学校、高校のなかに、もっと「ジェンダー」に関する教育があってもいいとは思います。中学、高校の科目で言えば、「家庭総合」のなかに多少はジェンダーの話が出てくると思いますが、もう少し踏み込んだものがあってもいいのではないか、と。そうすることで、ジェンダーの視点をふまえて、「将来どう生きるか」というところにも意識が働くようにもなる。

職場でも、これまで以上に男女が同じように働くようになります。そのなかには介護をしている人もいれば、子育てをしている人も、独身の人もいる。少子化が進むことで外国人労働者と働く機会も増え、障害を持つ人の雇用も増えていくはずです。その中で「男らしく」「女らしく」「男は女が好き」「女は男が好き」というこれまでの“常識”も大きく変わっていく。これからの社会を生きるうえで、ダイバーシティの意識は欠かせないと思います。多様性を十分に理解できない人は、うまくやっていけないばかりか問題を抱えたり、人を傷つけてしまったりすることもあるかもしれない。親は、「自分の世代はこうだった」と押し付けるのではなく、多様性が認められることの価値を、子どもたち世代に伝えていかなければいけない、と思っています。


たなか・としゆき 1975年、東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授 男性学を主な研究分野とする。
内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員、厚生労働省イクメンプロジェクト推進委員会委員、渋谷区男女平等推進会議委員
おもな著書に「男が働かない、いいじゃないか!」(講談社プラスα新書)、田中俊之×山田ルイ53世「中年男ルネッサンス」(イースト新書)、「男子が10代のうちに考えておきたいこと」(岩波ジュニア新書)など。

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