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サッカー選手を女の子の「憧れの職業」に。今秋開幕「WEリーグ」岡島喜久子さん

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WEリーグは今年9月に開幕予定。初年度は11クラブの参入が決まっている。「WEリーグ」の名称は、「Women Empowerment League」から©︎WE LEAGUE

■女子サッカーが男の子の憧れである国

――岡島さんがサッカーを始められたのは1970年代。どのようなきっかけでサッカーに興味を持たれたのですか。

岡島喜久子(以下、敬称略) 小学校の頃に一緒にドッチボールをして遊んでいた男の子たちが休み時間にサッカーをしているのを見て、「あれ、すごく面白そうなのだけれど、私にもできるよね」と思ったんです。中学生になると、サッカー部に入れてもらい一緒に練習をさせてもらいました。練習をさせてもらったことで、「サッカーって楽しいな」という思いがどんどん募っていきました。でも、試合に出ることはできなかったので、そこから女子のチームを探すようになって。知り合いのサッカー経験者に声を掛けてコーチをお願いするなど、「ないものは作る」ということはその頃から行っていた気がします。

1983年に開催された「第4回全日本女子サッカー選手権大会」。手前の白いユニフォームを着ているのがFCジンナンに所属していた岡島チェア (本人提供)

――日本初の女性クラブチームに選手として所属した後、長くアメリカで過ごされました。アメリカでは、女子サッカーはどのような存在でしたか。

岡島 アメリカでは、サッカーは男子と女子の間に差がないスポーツとして認識されています。アメリカの女子サッカーの登録人数は100万人以上で、男子と女子の割合もほぼ半々。ちなみに、日本では女子の登録者数は5万2000人ほどです。

なかには、社会的な影響力を持つ女子サッカー選手も出てきて、最近で言えばミーガン・ラピノー選手が(黒人差別に抗議する)「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動をリーグ全体に広めていくなど、社会的なメッセージを発信していました。

ファッション誌でモデルを務めたことのあるアレックス・モーガン選手はバービー人形にもなっています。それぐらい、憧れの存在なんです。人数が多いからこそ、さまざまなタイプの選手が出てくる、ということだと思います。

また、女子サッカー選手は女の子たちだけでなく男の子にも人気があり、アメリカ代表の試合になると男女ともにサッカー選手の名前の入ったユニフォームを着てスタジアムにやってきます。女子サッカーは、男の子の憧れでもあるんです。これはちょっと今の日本では考えられないことですね。

米国で暮らす家族とともに(本人提供)

――男女の差がないスポーツになった背景には何があったのですか。

岡島 1972年に「Title IX(タイトルナイン)」という法律ができたことが大きかったです。簡単に言うと、政府から補助金をもらっている公立学校は、男子と女子に対して平等にお金を使わなければいけない、というもので、最も恩恵を受けたのは「女子サッカー」と「女子ラクロス」だと言われています。

米国では、男子のサッカーとバスケットボールはとても人気のあるスポーツで放映権やチケットなどから得る収益が大きい。そうして得た収益は女子にも等しく分配していかなければならなくなったのですが、テニスや水泳といった個人競技では使いきれないほどの額になっていたんですね。

スポーツに長けた選手には奨学金が出るようになり、親たちも目の色を変えて女子にスポーツを、と考えるようになった。これはアメリカの女子サッカーの発展にとても大きな意味がありました。

――アメリカ以外の国々ではどうですか。

岡島 FIFA(国際サッカー連盟)にも、「世界中のサッカー人口を増やしたい」という考えがあり、そうすると伸びしろが大きいのはやはり女子サッカーになる。女子サッカーに力を入れている国には積極的にお金を出すようになっています。

今までそれほど力を入れてこなかった国も、「お金をもらえるのなら女子サッカーを発展させよう」という機運が高まってきた。選手を集め、環境を整えていくことで、女子サッカーのレベルはどんどん上がっていく。たとえばスペインでは、男子サッカーに比べ、女子サッカーはそれほど盛んではなかったのですが、ここ5年ほどで登録人数は以前の倍の約7万人となりました。いまでは女の子のなりたい職業の5番目に「サッカー選手」があるほどです。日本もそこまでいかないと、と。

■指導者に女性を入れる意味

参入クラブ発表会見にて©︎WE LEAGUE

――女性のスポーツ選手はライフステージに伴い、キャリアが継続しにくいと言われてきました。そうした壁を乗り越える術はあるのでしょうか。

岡島 女子プロサッカー選手は、妊娠中も給料が保証されます。また、(日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属の)岩清水梓選手が近く選手として復帰予定なのですが、彼女はスタジアムに託児所をつくってほしい、と言っていて。WE リーグへの参入基準には託児所の確保という項目も入れています。地域の保育所と契約をして、試合会場に保育所をつくることができれば、選手のためだけでなく、そこで働く母親たちにとっても働きやすい環境になる。女子サッカーのリーグとしては、妊娠と出産、そして子育てに配慮する姿勢は大切にしていきたいと思っています。

――WEリーグでは、コーチや監督のなかに必ず女性の指導者を一人以上入れるということも発表されています。

岡島 日本サッカー協会の指導者のライセンスは5段階からなり、D級、C級、B級、A級、その上にS級があるのですが、いまS級のライセンスを保有している女性は8人です。やはりそこは増やしていかないと。

選手のセカンドキャリアを考えても、選手のうちにC級までは取得して欲しいと考えています。そうすることで、選手を引退してからB級、A級とさらに上を目指すことができるようになる。

アジアの発展途上国でも女子サッカーは広まっていますが、文化的、宗教的観点から女性の指導者のニーズは高い。たとえばイスラム圏では、女性の指導者でないと親が娘をサッカーに通わせるのを躊躇してしまう。インドなどの国でも、男性の指導者に娘を預けたくない、という声は多く聞かれます。日本はアジアの女子サッカーのなかでは先進国として見られているので、日本から女性の指導者を積極的に出してほしい、という声は年々高まっています。

■もう、茶色い食べ物だけではダメ

大宮アルディージャのWEリーグ参入決定に伴い、クラブを訪問©︎WE LEAGUE

――日本で女子サッカー選手を増やしていくためには具体的に何が必要でしょうか。

岡島 まず、女子サッカー自体に興味を持ってもらうことが大切です。母親に幼い娘を連れてサッカー観戦に来てもらうためには、「スタジアムに行きたい」と思えるような仕掛けが必要だと思っています。観客を増やすためには、いかに「今までサッカーを観てこなかった人たちに来てもらうか」が鍵になる。女性に来てもらうことを考えると、「食べ物」と「ショッピング」は意識しないと。

「もう、茶色い食べ物を売るだけではダメですよ」ということはよく言っています(笑)。スタジアムでの食事といえば、焼きそばや唐揚げといったものが圧倒的に多いですが、ベトナムの生春巻きやタイのグリーンカレー、それにデザート系のフードトラックがあってもいいですよね。化粧品のセットを販売したり、家電を紹介するブースを設けたりといったことも考えています。

「楽しそうだから行ってみよう」「ついでにサッカーを観て帰ろう」という感覚でもいい。ワクワクするような、新しい施策を考えていく必要があります。

――長くサッカーに携わってきた岡島さんにとって、「スポーツ」は人に何をもたらしてくれるものだと考えますか。

岡島 2011年7月に開催されたFIFA女子ワールドカップで、日本代表チームである「なでしこジャパン」が優勝しましたよね。東日本大震災が起こった年で、多くの人が心に傷を抱えていた時期でした。でも、あの優勝シーンを見て、みな感動して、その時だけでも元気になることができた。スポーツは、人を感動させたり、勇気づけたりするポジティブなパワーを持っている。だからこそ、女子サッカー選手たちには、これからの女の子たちのお手本になれるような存在になって欲しいと思います。

大きな力を持っている、ということを自覚してもらい、スポーツに取り組むことの社会的な意義まで考えられるよう、選手たちにも成長していって欲しいと思っています。

©︎WE LEAGUE

おかじま・きくこ 1972年に日本初の女子サッカークラブ「FCジンナン」でプレーし、日本代表に選ばれる。高校1年の時、東京都サッカー協会主催のリーダースクールを女性として初めて受講。89年に海外転勤を機に選手を引退し、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券やメリルリンチなど日米の金融業界で活躍する。2020年、WEリーグ初代チェアに就任。

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