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限界は決めなくても大丈夫 「夢」に挑戦できる世界をつくりたい

Sponsored by 独立行政法人国際協力機構(JICA)

途上国の女性たちを支援したい、母からの励ましが原点

世界銀行グループの一つ、米国に本部のある国際金融公社は発展途上国の経済成長を進めるために、民間企業への投融資や助言をおこなう国際開発機関。今年2月から途上国の女性たちの経済的な活躍を支援する部署の職員として、女性の雇用拡大や起業促進などに携わっているのが横田千映子さんだ。女性のエンパワーメントとそれを可能とする民間セクターの取り組みを後押しすることで、自ら収入を得て社会・経済活動に積極的に参加する女性から家庭やコミュニティー、社会全体へと循環し、社会・経済が豊かになる。そんな仕組み作りを担っている。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で着任後も渡米は叶(かな)わず、リモートワークが続いている。世界のどこにいても働けるのならば、いつか2人の子どもとともに、夫が住むフィリピンに滞在して働くこともできるのでは。そんなボーダレスな働き方を視野に入れる横田さんの原点は、生まれ育った「小さな岐阜の田舎町」だった。

“女の子"が海外で活躍することはおろか、大学進学のために地元を離れること自体が珍しい、保守的な環境。そんななか、いつも『自分のしたいことを思いっきりやりなさい』と言ってくれたのが母だった。母に背中を押され、いつしか専門性を持って途上国援助に携わるという夢を抱くようになった。

大学では、内戦後数年経ったボスニア・ヘルツェゴビナを訪れたのが、初めての海外経験だった。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)主催の若者向けプログラムにも参加。エチオピアのスーダン難民キャンプを訪れ、男女がともに意思決定に関われる委員会づくりにも携わった。大学を1年休学し、フィリピンの大学でコミュニティー開発を学びながら、農村でのフィールドワークやNGO活動にも取り組んだ。

現場に足を運び、そこで暮らす人々に触れて世界の課題に気づく。在学中にそんな経験を重ねたことで、途上国の政府や団体と話し合いながら国際協力を実施する独立行政法人国際協力機構(JICA)の活動に興味を引かれ、職員になった。

途上国の女性にとって成功体験の積み重ねが自信になる

JICAに入ってからは農村開発や教育分野に携わり、パキスタンやフィリピン事務所にそれぞれ数年間駐在。女性の社会・経済参加を促すプロジェクトを立ち上げてきた。

横田さんが2008年から3年間過ごしたパキスタンでは、女性の生計向上プロジェクトの一環として、農村地域の女性を対象にした小規模なビジネスの設立と実施支援を進めた。

「パキスタンは、ジェンダー規範が非常に厳しい国の一つです。男性の労働参加率約82%に比して、女性の労働参加率は約22%に留まっています。女性が好きな仕事に就くことは難しく、教育を受け続けることも難しい。男性の同伴なしに村の外にも出られないような現実が、いまも農村では続いています。ドメスティックバイオレンスなどのジェンダーに基づく暴力も蔓延(まんえん)しています。女性が経済力を身につけることは、家庭内での意思決定に関わるきっかけとなり、コミュニティーの意思決定に参加するための重要な一歩だと考えました」

家事育児を一手に担い、農業などの家内労働で息つく暇もない日々を過ごすような状況のなかで、「少しでも収入があれば、子どもを学校に行かせたい」という女性たちの切実な声を聞き、経済力を高める協力への思いが高まっていったという。

パキスタン北部の山岳地域で、コミュニティーの女性たちの意見を聴くミーティングを開き、耳を傾けているところ。ピンクのストールを巻いて真ん中に座っているのが横田さん

農村地域の女性は、伝統的な手工芸技術を受け継ぎ手先が器用だが、それを商業的な流通チャネルに乗せてお金に換えるノウハウがなく、労働対価が得られていなかった。そこで、生計向上プロジェクトでは、商品化のための統一した規格づくり、コスト計算や衛生面の考え方、金融リテラシーを高めるための研修を実施。デジタルツールを活用したマーケティング活動支援なども行うようにした。最近ではコロナ禍で市場が閉じられたことから、現地のデザイナーが立ち上げたオンラインサイトを通じた販売への切り替えもサポートした。研修の一部には家族の男性も参加し、新たな知識を得るとともに、女性と協力していくことの重要性に気づいていく姿も見られるという。

支援した女性のなかには、プロジェクトの支援を得て販路を開拓し貯(た)めたお金でミシンやスマートフォンを買ったり、子どものための教育資金を貯められたりと、具体的な成果に結びつけている人もいる。読み書き・計算方法を学んだことで、「買い物で騙(だま)されなくなった」「自分で家計簿をつけて支出管理ができるようになった」という声も届いた。

「自分たちの力に気づいて行動を起こしていく姿には、感動します。できなかったことができるようになった、自分で決められたという意思決定の成功体験が、少しずつ女性たちの自己肯定感を高めていく。現場からの報告を聞き、そう実感した経験でした」

ワンオペ育児、直面した育児とキャリア両立の壁

20代後半から30代前半の多くを海外で過ごし、現地のジェンダー課題に向き合ってきた横田さん。しかし途上国の女性の課題を、「自分ごととして十分に捉えられていなかった」と振り返る。

転機となったのは、パキスタン、フィリピン駐在を終え、帰国後に出産と育児を経験したことだ。1年間の育休を経て復職するも、キャリアアップへのさまざまな壁にぶつかり、「世界の多くの女性が向き合ってきた育児とキャリアの両立の壁の当事者になった」のだという。

「パキスタンの女性たちの現状とは比べものにならないけれど、家事・育児の負担を一身に背負って仕事を続ける大変さを、初めて思い知ったんです」。夫がフィリピンで活動するNGO団体の代表として現地に滞在しているため、ずっとワンオペ育児を続けざるを得なかったからだ。

それまで、ジェンダーにまつわる課題は社会にたくさんあるが、自分で努力して乗り越えるしかないと考えていた。だが、育児によって物理的に仕事に割ける時間は激減。頑張れば何とかなる問題だけではないことや、女性のキャリアを阻む構造的な課題があることに気づかされたという。「自分のなかでの仕事に対するコミットメントは変わらないのに、減った時間とのギャップを埋めるのはほぼ不可能。仕事の方法を効率化し生産性を上げるなど最大限頑張っていましたが、子どもが熱を出したら、誰にどうサポートをお願いするかなど、常にやりくりを考えながら綱渡りをしている感覚でした」

ジェンダー視点で考える人を増やしたい

2回の育休を取得後、17年にジェンダー平等・貧困削減推進室に異動した横田さん。ちょうどJICAの17~21年度の中期計画で、「全事業のうち(ジェンダー視点を盛り込んだ)ジェンダー案件比率を金額ベースで40%以上にする」という目標が立てられたタイミングだった。それまでの実績は22%。一気にジャンプアップした目標をいかに達成できるのか。そこでまず取り組んだのは、JICA職員に対して、ジェンダー目標自体を周知することだった。そこで、横田さんは関連部署、JICAの国内機関や在外事務所に対してセミナーを実施し、ジェンダー視点をどう取り入れるべきかを伝えていった。

例えば、鉄道事業にジェンダー視点を取り入れようとすると、女性が安全に鉄道を利用できるようにするための施策が思い浮かぶ。加えて重要なのは、女性が事業に関わる主体としてリーダーシップを発揮できる環境を作ることだ。鉄道会社であれば、女性の雇用を増やし、運転手や技術職、さらに管理職を増やすことで、さまざまな職種領域での女性参加が促されるという。ジェンダー視点を取り入れたインドの鉄道事業では、女性車掌を見かけた母が娘に、「あなたもいつか車掌さんになれるよ」と伝えた場面が見られたという。社会の固定化されたジェンダー役割を変えていくきっかけにもなるのだ。「『自分が携わる事業には、ジェンダー視点を取り入れていくんだ』という意識を持たなければ何も始まらない。周りを巻き込む人が一人でもいれば、物事は少しずつ実現に向かっていきます。その考えを広げていくことが、自分の役割なのかなと考えていました」

パキスタン北部の山岳地域で、コミュニティーの道路や小規模灌漑(かんがい)など生活に密着した小規模インフラに関する調査について、住人に説明する横田さん(左端)。村中から老若男女が集まった

ジェンダー平等の当事者意識を持つには、それぞれ「気づき」となる経験が欠かせない。意識を持ちましょう、と伝えることは簡単でも、人を動かすのは“経験"なのだ。そう実感してから、「自分の経験をシェアすることで、誰かの行動変化につながり、それが意識を変えるきっかけになるかもしれない。女性たちがより前向きにキャリアと向き合っていくことを応援したい」と考えるようになった。

そこでJICAの女性職員に向けた「キャリアセミナー」を人事部に提案し、2回のセミナーを開催。約70名の参加者と意見交換の場を持った。女性の仕事とライフイベントの関係をグラフにして説明し、自分が感じた葛藤も包み隠さず伝えたという。

「JICAでは在外事務所に行くことがキャリアを重ねるうえで重要となりますが、それが20代後半~30代前半のタイミングでやってくるので結婚や出産を考える時期と重なり、みんなどうしようと悩んでいる。それならば、いろんな人のケースを知ったほうが選択肢を柔軟に考えられるようになると思ったんです」

男性の育休取得も大事だと考えるのは、一緒に子育て経験をすることで、どちらかがもう一方に“協力する"のではなくて、“共有する"意識になるから。「育休を女性だけがとると、『妻が中心となって家事・育児を担い、夫は仕事にフルコミットする』という役割が固定化されます。それは復職後に続き、女性が仕事をセーブする関係性につながりやすいんです」

セミナーでは、日本のジェンダーギャップの現状や、国内外の研究結果に基づいた、ジェンダーにまつわるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)についても話をしている。
管理職を決める際に女性の候補が4人のうち2人いれば採用される確率は半分に近づくが、一人だけいてもほぼ0%という結果もあるという。女性が候補に入っていればフェア、というわけではないのだ。

「データに基づいてジェンダーのギャップをきちんととらえ、バイアスを加味したうえで制度設計をしていかなければ現状はなかなか変わりません。そして、『頑張れ』と言って女性の努力を前提とした、女性だけにフォーカスを当てた支援制度の充実だけではなく、パートナーと家事・育児を共有するような視点、そして男性の理解と参加がこれからの制度づくりには重要だと思います」。あらゆるバックグラウンドを持った人々が集まる多様な視点・考え方は組織を成長させる。だから自信を持ちましょう、と伝えている。

誰もが支え合う未来、次世代の「当たり前」に

 自身が海外出張や残業のとき、夫、実家や義理の両親など、周りに支えられて乗り切ることができたという。ワンオペ育児を続けるなか、パートナーとの関わり合いが大きく変わったのが、自身の10日間のベトナム出張だった。サポートのためフィリピンから戻った夫が、家事だけでなく保育園の支度まですべての育児を担ってから、「妻が担っていたことの大変さを理解する良い機会になった」と言うようになったことだ。家族の関係性が豊かになった経験から、横田さんは子育て世代の男性に対して「ワンオペ育児をしてみては?」と勧めている。横田さんの夫も周りの男性に勧めているという。

8歳と5歳になった子どもにとって、「いつもはお母さんが家事をしていて、お父さんがフィリピンから帰ってきたときはお父さんが家事をしている」ことが日常だ。あるとき、長男が『将来結婚して奥さんが海外出張するときは、僕が全部、子どもたちのことを見るんだ』と話したことがある。「彼にとっては、女性も男性も自分のやりたいことをして、サポートし合うことがごく当たり前の生き方なのでしょう。次の世代のそんな価値観を育てるのが、自分たちの担っている役割の一つなんだと気づかされました」

「女性だからこうあるべき、という社会規範を自分に根付かせてしまうことはあるもの。でも、自分自身で限界を決めずにワクワクすることを描き、実現させていってほしい。性別、生まれた国や地域によってそれが実現できないという環境を少しでも変えていき、そう考えられる人を一人ずつでも増やしていきたいです」