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アメリカでZ世代の共感を集める生理用品メーカー 女性CEOが見せる「生理のリアル」

国際女性デー2024 更新日: 公開日:
写真はイメージです=gettyimages
写真はイメージです=gettyimages

女性CEOの生理用品メーカーが人気

アメリカの生理用品に変化が起きている。ポップなパッケージ、オーガニックな素材、ユーモラスな公式SNS。そこに自ら登場するCEOは人種マイノリティーの女性たちだ。

今、そうしたブランドの先駆けである「ザ・ハニー・ポット・カンパニー」のナプキンやタンポンは全米3万店以上に流通し、年商1億2000万ドル(約180億円)となっている。

アメリカ大手量販店のターゲットやウォルマートに行くと、生理用品のコーナーにザ・ハニー・ポット・カンパニーのナプキン、タンポン、プライベートソーンを洗うためのウォッシュ(ポンプ型のフォーム液)やワイプ(ウォッシュ液を染み込ませた使い捨ての不織布)が並んでいる。もちろん、アマゾンでも買える。

ナプキンのパッケージには、血液のしずくを表すマークの数によって対応する経血量が示されている。マーク一つなら生理のごく軽い日に。平均的な量であればマーク三つ。経血量が特に多くて大変な女性ならマーク六つ、その夜用(就寝中はナプキンの交換ができないことから、さらなる吸収力が必要)としてマーク七つの製品もある。

ザ・ハニー・ポット・カンパニーの生理用ナプキン。パッケージの左下に対応する経血量を表す「しずく」マークがあり、これは最も「軽い日」用
ザ・ハニー・ポット・カンパニーの生理用ナプキン。パッケージの左下に対応する経血量を表す「しずく」マークがあり、これは最も「軽い日」用=筆者撮影

同社のウェブサイトにはマーク6/7のナプキンについて、以下の語りかけがある。

「私たちはあなたを見ている。聞いている。そして理解している。経血量が多いのは楽しいことではありません。実際、生理が怖くなることも、深刻な医学的問題の副作用のこともあります。だから私たちはコミュニティーのために、(当ブランドの)人気のハーブ・オーガニック・ナプキンを、生理中ずっと安心して使ってもらえるよう、最高の吸収力を備え、経血量が多い人に向けて開発しました」

女性のニーズを知るブランドだ。

「膣」「ヴァギナ」と口に出して言おう

ザ・ハニー・ポット・カンパニー創設者兼CEOのベアトリス・ディクソン氏は、創設のきっかけを「夢に現れたおばあちゃん」と語っている。

細菌性の膣の炎症に何カ月も悩まされ、抗生物質も効かずに途方にくれていたベアトリスさんの夢枕に、ある夜、亡くなった祖母が現れ、有効なオーガニック素材のリストを手渡してくれたと言う。その材料で作ったウォッシュがハニー・ポットの始まりだった。

ベアトリスさんは自身が黒人女性であることから、同社のウェブサイトのモデルには人種マイノリティ-の女性を起用している。ただし同社の製品は人種を問わず、すべての女性に向けて販売されている。

同社のリーダーシップ・チームも女性で構成されており、これについて聞かれた際、ベアトリスさんは「(女性が率いることは)重要だと思います。なぜなら、私たちは『膣』を持つヒューマンですから」と答えている。

ベアトリスさんは、メディアのインタビューやSNS上で「膣 vagina」(ヴァギナ、英語では「ヴァジャイナ」と発音)という言葉を躊躇なく使う。

膣は身体の一部であり、ベアトリスさんのように炎症に悩まされる人も少なからずいる。また、女性が生涯のうち約40年間(12〜52歳くらいまで)にわたり、毎月1週間ほど(人により3〜9日程度)経血が出てくるのも、そのためにナプキンをあてがったり、タンポンを挿入したりするのも膣だ。

つまり、身体の他の器官と同じであり、かつ最も頻繁な「ケア」が必要な部位であることから、その名称「膣(ヴァジャイナ)」を伏せて会話することは不自然なのだ。

Z世代の心をつかんだ「スースーヒリヒリ論争」

同社が主な購買ターゲットをZ世代(1997〜2012年生まれ)としているのは、同社のユーモア溢れるSNSで一目瞭然。ベアトリスさんと「膣(ヴァジャイナ)」の着ぐるみがダンスをしていたり、イラストの「膣(ヴァジャイナ)」が性教育を行なっていたりする。

「膣」の着ぐるみと様々なアクティビティーをするハニー・ポット・カンパニーのディクソンCEO=同社YouTube公式サイトより

また、「スースー論争」もZ世代を意図的に煽っている気配がある。

同社のナプキンには「ミント/ラヴェンダー/アロエ」のエッセンス・オイルが染み込ませたものがあり、装着すると「スースー」する。これを「楽しい!」「夏には涼しい!」と愛用する派と、「スースーじゃなくてヒリヒリ!」「返品する!」派に別れている。

SNSには購入者が「スースー」感に驚き、「なんで誰も言ってくれなかったのよ!」と憤る動画が多数上げられているが、これは逆に若い世代の好奇心と購買意欲をそそる効果があるように思える。

ハニー・ポット・カンパニーのミント配合の「ハーブ」ナプキンを装着して「びっくり」「スースーして爽やか」などと感想を語るアメリカのインフルエンサー=Tabitha Brown公式YouTubeサイトより

「生理のリアル」を女性CEO自ら体現する

さらにZ世代感満載の生理用品・ライフスタイルブランドが「オーガスト」だ。

こちらは自身も20代と、まさにZ世代ど真ん中のナディア・オカモト氏が立ち上げたブランド。パッケージは生理用品というより、ロック・フェスティバルのグッズでも入っていそうなデザインとなっている。

ナディアさんも自らSNSに登場し、「生理のリアル」を訴え続けている。ネイルサロンに赴き、若い女性たちに「恋人と生理の話をする?」とインタビューしたり、同社のポップなデザインのタンポンはオフィスでも「袖の中に隠したりせず」そのまま手に持ち、「誰でもトイレ」にだって持って行けるとユーモラスに語る。

使用済みのナプキンのイラストの血液部分にはブルーでなく、実際の経血を想起させる赤いインクを使う。さらには自らのミニスカートをまくり上げ、パンティーからはみ出ているタンポンの紐を見せることすらしている(これぞ、まさに生理のリアル!)

社会起業家で生理用品・ライフスタイルブランド「オーガスト」創業者のナディア・オカモト氏
社会起業家で生理用品・ライフスタイルブランド「オーガスト」創業者のナディア・オカモト氏=2023年11月16日、ニューヨーク、ロイター

しかし、ナディアさんは生粋のZ世代であり、2020年に「オーガスト」を共同設立する前には16歳の若さで生理にまつわる貧困や社会問題に取り組むNPO「ピリオド」を立ち上げた社会活動家でもある。

自社製品や現金を低所得者や災害被害支援団体に寄付し、海洋プラスチックを取り除く運動にも参加している。さらにジェンダー・ノンコンフォーミング(典型的なジェンダー規範に当てはまらない)な人のために「チェスト・バインダー」と呼ばれる、乳房を平坦に見せる着衣も作っている。

タンポン税や「生理の貧困」問題と闘う

さらには、オーガスト社は「タンポン税」の払い戻しも行なっている。アメリカでは生理用品に対する消費税は通称タンポン税と呼ばれている。

余談となるが、アメリカではタンポン使用者47%、ナプキン使用者46%と使用者数が拮抗していることや、英語では生理用ナプキンは「pad」と呼ばれ、「pad tax」より「tampon tax」のほうが語感にインパクトがある。そこから「女性の必需品になぜ課税するのだ?」の批判と皮肉を込めてタンポン税という通称が定着したものと思われる。

近年、アメリカでは州ごとに徐々にタンポン税を廃止しているが、今も50州中21州で課税対象となっている。そのうちの1州、インディアナ州では昨年、女性州議員がタンポン税廃止に取り組んだものの、成せなかった。消費税率7%の同州では生理用品が年間560万ドル(約8億4000万円)の税収をもたらしていることが挫折の理由だった。

こうした背景があり、オーガスト社は課税州の消費者がオーガスト社(およびハニー・ポッド社を含む提携企業)の生理用品購入時のレシートを撮影して送信すると、消費税をキャッシュ・アプリによって返金する仕組みを作った。

仮に10ドル(約1500円)の生理用品をインディアナ州で買えば、消費税は70セント(約105円)。一見、大きな額には思えない。しかし女性は生涯を通じて約6000ドル(税抜き、約90万円)を生理用品に費やすとするデータがある。つまり、インディアナ州であれば420ドル(約6万3000円)を、税率11.5%のアラバマ州であれば690ドル(約10万3000円)を消費税として支払うことになる。

生理用品課税州のリストを見ると、一般的に貧しいとされる南部諸州が多く含まれていることに気付く。「生理の貧困」はアメリカにも存在するのである。

生理を当たり前のことにする

今、生理用品ブランドに求められるのは安全性の高い材質、高吸収などの機能性に加え、生理のスティグマ(汚名)、タブーを取り除くことだ。ナプキンを交換するためにトイレに行く際に他者の目に触れないように隠し持つなど不要な不便を取り払い、生理痛についても頭痛や腰痛と同じように、ごく当たり前に語り合えるようになること。それらを明るくポップにカラっと行えるようにすること。

「顔のない」老舗大企業に代わり、実際に生理を毎月経験する女性たちが、女性に必要なものを見極め、自身の存在をアンバサダーとしてSNSに打ち出し、女性たちの共感を得て売り上げを伸ばしているのである。