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政治家とNPOの連携が社会を動かす カリフォルニア州では「タンポン税」撤廃も

World Now 更新日: 公開日:
カリフォルニア州議の下院議員、アル・ムラツチ(後方中央の男性)とNPOのメンバー
カリフォルニア州議の下院議員、アル・ムラツチ(後方中央の男性)とNPOのメンバー=アル・ムラツチ事務所提供

NPOが政策を提言し、政治家がそれを受け止めて政策にする。あるいは、政治家とNPOを行き来して、政策実現を図る。政策実現のために連携する政治家とNPOを米国で取材した。

政治家とNPO。どちらも社会変革をめざすという点で共通している。

NPOが政策提言し、政治家が受け止めて法律や制度をつくる。あるいは、政治家による制度づくりをNPOが支援する。

日本でも増えているが、NPOの活動がさかんな米国のカリフォルニア州では、当たり前のように行われている。同州では、買い物をすると原則として7%程度の消費税がかかる。食品など生活必需品にはかからないが、2020年に生理用品も消費税が撤廃された。

米国では生理用品が生活必需品と見なされず、多くの州で消費税がかかっていた。「タンポンタックス」と呼ばれるが、民主党のカリフォルニア州下院議員だったクリスチナ・ガルシアさん(46)は、疑問を持っていた。「毎月生理がくるたび、なぜ女性に生まれただけで税金を多く払わなければならないの、と腹立たしく思っていた」

NPOと連携したクリスチナ・ガルシア
NPOと連携したクリスチナ・ガルシア=2023年8月31日、米国カリフォルニア州、秋山訓子撮影

州法を作ろうと準備していた時に、女性の政治参加や政策提言に取り組むNPOの「Ignite(着火の意味)」が訪れた。彼らも生理用品の消費税撤廃に取り組み、いくつかの州で議員に働きかけていたのだ。

Igniteのディレクター、ジョスリン・ヨウさん(28)は、100人以上の若い女性を連れて州議会に出かけた。ヨウさんは、政策提言をする時の戦略を「同じ考えのNPOなどと一緒に連合を作って政策を要望している人が多いという数を示す。そして、政治家の地元の選挙区の人たちもこんなに利益を受けるということを説明する」とする。

彼らの訴えをしっかり受け止めたのがガルシアさんだった。当初、同僚議員から「なぜ生理なんかに取り組むの」と冷笑されたこともあったという。しかし、多くの若い女性が望んでいるという確信もあり、タンポンを抱いたバービー人形「タンポンバービー」を持ち歩き、自らを生理用品の免税キャンペーンの「プリンセス」と称して必要性を訴え、議会でも賛同者が広がった。

同州で民主党の下院議員を務めるアル・ムラツチさん(58)は2020年、有害物質の除去などに取り組むNPOとともに、化粧品などの原料に発がん性物質の使用を禁止する全米初の法律を成立させた。ムラツチさんが以前に、石油の製油所での有害物質使用禁止の法案を作ったため、NPOが彼に注目したのだ。

米国には、社会課題の専門知識や、現場での解決の取り組みの経験が豊富な多くのNPOがある。州や連邦レベルでも多くの政策提言を行っている。

「NPOの政策提言は日常的にある。データを持ち専門的な知見があり、信頼できるところと組むのはよくあること」とムラツチさん。一方で、化粧品会社もロビイストを雇い、政治家に働きかけていた。「独自にテストをしているから法律は不要で、ビジネスの妨げになるというのが彼らの言い分。私のところにも来ました」

民主党のカリフォルニア州下院議員、アル・ムラツチ
民主党のカリフォルニア州下院議員、アル・ムラツチ=2023年9月2日、米国カリフォルニア州、秋山訓子撮影

そういった企業側の動きもあり、ムラツチさんが中心となって最初に作った法案は2019年に委員会で否決された。その後、対象を欧州連合(EU)ですでに禁止されている物質に絞ることで、成立につなげた。その間、NPOはメディアに働きかけるなどして世論を盛り上げた。「少しでも社会をよくしたい。NPOと目的を共有しています」とムラツチさんは言う。

NPOのメンバーが自ら議員になる場合もある。米国では市町村レベルだと、議員は兼職が通常なのでなおさらだ。

ジェイ・ラージ・シングさん(37)はオレゴン州タイガード市で初めての有色人種の市議だ。昨年当選した。

インドからの移民の両親が地域活動に熱心で、自らも「地域に根ざした組織で働くのが好き」。学生時代はNPO「APANO」(オレゴン・アジア太平洋系米国人ネットワーク)でインターンをした。

APANOはその名の通り、アジアや太平洋の島々出身の人々を支援する。活動は、彼らが多く住む地域のまちづくりや起業相談、政策提言まで幅広い。

2020年からはもともと関心のあった気候変動の仕事をするため、別のNPOに移り、昨年市議に立候補した。米国では一般的に市議の報酬は手当程度(タイガード市議は月額700ドル〈約10万円〉ほど)で、シングさんは現在、ポートランド市などが属するマルトノマ郡の職員としても働き、気候と健康を担当する。

APANOからは、ここ数年だけで地方議員がほかにも生まれている。それを後押ししてきたのが、2018〜2020年に事務局長だったチ・ウィンさん(41)だ。2015〜2017年に同州キングシティー市の市議を務めたウィンさんは、自らも議員とNPOの間の「回転ドア」を行き来した経験を持つ。「キングシティーは引退した人が多く住む街だった。若い家族が住みやすい街にしたかった」

市議として、市役所のナンバー2で市政の実務を担うシティーマネジャーに若くて推進力のある人物を任命することや、産業振興のための都市計画の境界変更を提案した。パートナーの仕事で引っ越したために市議は任期を残して退任し、APANOの事務局長に。APANOでは他のNPOと連携して、学生に「投資」する州法成立を後押しし、市に働きかけて貧困層向けの住宅や、コミュニティーセンターの整備を実現した。

ジェイラージ・シング(左)とチ・ウィン
ジェイラージ・シング(左)とチ・ウィン=2023年8月23日、米国オレゴン州、秋山訓子撮影

「政治は汚い、と逡巡するスタッフもいたけれど、政治が汚いんじゃない。お金の使われ方が汚い。それを変えるのも政治。政治は必要悪、と話してきた」

ウィンさん自身は、子どもが4人いることもあり、現在は家業の農場経営に専念しているが、いつか政治の世界に戻りたいという。