早稲田大学社会科学総合学術院(都市計画)の卯月盛夫教授は、市民参加のまちづくりを研究している。
東京・世田谷区で、無作為抽出の区民を交えた区庁舎構想づくりに検討委員長として加わるなど、多くの住民参加による政策の合意形成に携わってきた。2019年にドイツ・ボン市で行われたプール問題での市民会議も視察した。
卯月教授は、都市計画やまちづくりに市民参加が必要な理由について「現代は、政策課題が非常に多岐にわたり、複雑化している。選挙の時点で各政党や候補者の政策が見えて、イメージしやすい時代ではなくなった。市民と市議など政治家の間にギャップが存在するようになった」と語る。
地方選挙の投票率も低下している。
2023年の統一選では、投票率の平均は知事、道府県議、市議、町村長、町村議選で過去最低だった。
卯月教授は「選挙で選ばれた政治家たちが、民意を反映しているとは言えなくなっている。有権者も、自分が投票した政治家が当選したとしても、その政治家に全権を任せたと思っているだろうか。思っていないのではないか。大きな政策案件になるほど、ふだんの生活からは遠くなるし、その都度、住民の意向を確認しながら政策形成を進める必要がある」という。
卯月教授は2016年に世田谷区の区庁舎建て替え問題について、検討委員会の委員長を務めた。その時は、専門家や学識経験者7人に加え、公募した市民5人、そして無作為抽出で選んだ市民8人が加わった。もともと1102人が無作為抽出で選ばれ、案内を出したところ128人から応募があり、さらに抽選で8人を選んだのだという。
このような構成にしたのは、「公募だと、問題に対して何らかの意見を持っている人が応募してくる。ゼロベースで、ニュートラルな立場からも議論をしてほしかった」からだという。
そのメンバー構成での議論は「実に良かった」と強調する。「抽選で委員になった人は、新たな課題に真摯に向き合い、学習をしながら自分たちの意見をいうようになる。ごく普通の人たちのさまざまな視点から、穏当な議論が行われたんです」
2019年のボン市での市民会議も、「4日間のうち、最初は決まった人がずっと話していた。極端な意見もあったが、だんだん均衡していった。参加者たちの価値の変容を感じました」という。「5、6人の小グループを作って、メンバーを変えながら密に議論していく。このプロセスが重要。小グループというのが大事で、全員が意見を言うことができて、平等に話せるんです」。最終的に、参加メンバーは全員と相互に意見を交わした。
卯月教授は、最年少の14歳で参加していた少年に話を聞いたという。
「議論の内容は理解できるし、楽しいです、と言っていました。彼が意見のとりまとめ役をすることもあって、立派に役目を果たしていた。案内が来た時、両親も参加を勧めてくれたし、学校を休んで計画細胞に行きたいと先生に相談した時も、ぜひにと背中を押してくれたそうです」
くじ引きで選ばれた人たちが、政策を議論することに正統性があるのだろうか。
政治家たちは選挙という制度で選ばれたうえで、政策形成に携わる。卯月教授は、政治家の正統性について「投票率が50%を切るような状況で、政治家にだけ絶対的な正統性があると言えるのだろうか。しかも世代によって投票率には差があり、全住民を代表しているのか。それよりもむしろ、くじ引きで選ばれた人たちのほうが、利害関係も少なく民意を代表しているかもしれない」という。
いずれにせよ、選挙だけで民主主義が実現できる時代ではなさそうだ。
教授は「現代は政策形成のあり方が模索を迎えている時代」という。どういう形が民意を代表できるのか、テクノロジーも利用しつつ、さまざまな手法を探る時代に来ている。