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動物の世界に学ぶ「民主主義」の作法

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
While they may not conduct continent-spanning electoral contests like this coming Super Tuesday, species ranging from primates all the way to insects have methods for finding agreement that are surprisingly democratic. (Eleanor Davis/The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY SCI ANIMALS VOTE BY ELIZABETH PRESTON FOR MARCH 2, 2020. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
Eleanor Davis/©2020 The New York Times

群れで暮らす動物たちは、集団としても決断を下す必要がある。仲間に同意しない場合であっても、自分たちを守ったりエサを探したりする際はお互いが依存し合う。だから、集団として、次に何をするのか、どこに住むのかといったことについて、コンセンサス(合意)を得るやり方を見つけ出さなければならない。「スーパーチューズデー」のような大陸規模の選挙戦はしないだろうが、霊長類から昆虫の類いまで、驚くほど民主的に合意を見つける方法を知っている。

ミーアキャットの場合

ミーアキャットは毎日、その日がスタートすると、巣穴から出て日光の下に現れ、エサを探し始める。それぞれがエサを探し、虫などのごちそうを捕まえようと地面を掘るのだが、緩やかな集団で移動し、めいめいが約30フィート(約10メートル)の間隔をあける、とスイスのチューリヒ大学の動物行動科学者マルタ・マンザーは言う。それでも、ミーアキャットは一つの群れを成して行動し、エサを探し、ムシャムシャ食べながら砂漠のあちこちを動き回るのだ。

ミーアキャットは移動しながら互いに呼びかけ合う。その一つは優しいミューという鳴き声で、研究者たちは「移動コール」と呼んでいる。「ここから移動する準備ができた。一緒に行くのは誰なの?」と呼びかけているらしい。

マンザーと彼女の同僚は2010年の研究で、南アフリカのカラハリ砂漠に生息するミーアキャット十数集団の移動コールについて調べた。群れの規模はそれぞれ6匹から19匹。だが、研究者たちは、集団が移動を決める前に鳴き声をあげるのは、各集団を構成している3匹くらいだけだったことを突きとめた。集団は移動する方向は変えないが、より良いエサ場に向かって動くスピードを2倍に速めるのだ。

動物が何かをしている仲間のクリティカルマス(critical mass=ある結果を得るために必要な数量)に応じて行動を変える現象を、生物学者たちは「クォーラム・レスポンス(quorum response=定足数反応)」と呼んでいる。マンザーは、人間の意思決定の際にもこのクォーラム・レスポンスが現れると考えている。

「あなたが、ある集団のメンバーで、仲間の誰かが『ピザを食べに行こう』と言っても、誰も応じなければ、何も起きない」と彼女は言う。ピザを食べたがる声に数人が同調すれば、その要望はもっと説得力を増す。

別の一連の実験で、マンザーと共著者は、移動コールをするミーアキャットがその集団で支配的な立場にいるのか、従属的な立場なのかは関係ないことを見つけた。むしろ、「そのミーアキャットの決断がどう見えるかによるのだ」と彼女は言っている。

彼女は、このことは人間にも言えると考えている。「あなたの地位が高くない場合でも、ちゃんと分かって行動しているふりをしていれば、集団は従うだろう」と彼女は指摘する。

ミツバチ

春には、ハチの群れが、まるで危ないブドウの房のように木の枝にぶら下がっていることに気づくかもしれない。この昆虫たちは住まいに関する難しい決断の最中にあるのだ。

ミツバチの群れが二つに巣分かれすると、一匹の女王バチと数千の働きバチが巣箱から一緒に飛び立つ。数百匹の斥候役が四方八方に飛んで新しいすみかを探すのだが、その間、群れは数時間あるいは数日間、休憩する場所を見つける。斥候バチは有望な穴か空洞を発見すると、そこをくまなく点検した後、まだ木の枝でブンブンと音をたてている群れのもとへと舞い戻る。そして群れの表面を歩き、尻振りダンスを繰り返す。そうすることで、そのハチが見つけた場所の具合や方向、そこまでの距離といったことについての情報を仲間のハチたちに伝える。

他の斥候バチたちも戻ってきて、それぞれが独自のダンスをする。そうこうしているうちにだんだんとある斥候が他の斥候に説得され、それに合わせてダンスの振り付けを切り替えていく。すべての斥候バチがひとたび同意すると、群れは新しいすみかへと飛び立つのだ。

リカオン

ペットの犬と同様に、アフリカのリカオンは熱心に社交の時間を過ごしたり、またある時はのんびりと過ごしたりする。

群れの仲間たちは跳びはね、精力的な儀式でお互いにあいさつを交わす。ラリー(rally=決起集会)と呼ばれる儀式だが、その後でリカオンは一緒に狩りに出かけたり、あるいは戻って休息をとったりする。2017年の調査で、研究者たちは、狩りに出かけるか、留まるのかの決定が民主的にみえることを発見した。狩りに賛成の時は、リカオンはクシャミをするのだ。

ラリーでクシャミが多ければ多いほど、リカオンが狩りを始める可能性が高い。支配的な地位のリカオンがラリーの開始を主導すると、群れは説得されやすくなる。クシャミは三つで足りるかもしれない。しかし、従属的なリカオンがラリーを開始した場合は、狩りを促すには最低でも10のクシャミが必要だ。

研究者たちは、リカオンが実際には他の隠れたシグナルを通じて一票を投じている可能性も指摘している。クシャミをするのは鼻をきれいにして、獲物の臭いをかぐのに役立てるためかもしれない。いずれにしても、リカオンはクシャミで全員同意の決定にけりをつける。

ヒヒ

私たちヒトに最も近い親戚である霊長類は、集団がどのように意思決定をするかについての多くの資料を研究者に提供する。科学者たちはメスのリーダーに従うテナガザルや、移動の準備ができた時にうめき声をあげるマウンテンゴリラ、お互いに声を震わせるオマキザルを観察してきた。

そのプロセスがもっと微妙な場合がある。集団は次にどこへ行くかについて、個々のメンバーからの明示的なシグナルがないまま群れで移動するかもしれない。野生のオリーブヒヒがこれをどのようにやっているのかを理解するために、2015年の論文の筆者たちはケニアでその群れを構成する25頭の首に追跡装置のGPS(全地球測位システム)を付けた。彼らは2週間にわたって、ヒヒたちの動きをくまなく監視した。そして、どのヒヒが集団を新たな方向へ引っ張るのかを見つけるため、個々のヒヒの動きを数多くの組み合わせで調べた。

このデータは、オスであれメスであれ、地位が支配的であれ従属的であれ、どのヒヒも新しい方向に仲間を引き寄せるかのように動き出す可能性があることを示した。複数のヒヒが同じ方向へ移動し始めた時は、他のヒヒも一緒に来る可能性が高い。ところが、2頭の潜在的なリーダーが90度未満の間隔でそれぞれ別の方向に引っ張る場合は、フォロワー(追従者)たちは妥協して中間のコースをとるかもしれない。いずれにしても、最後は、集団全体が一緒になった。

ドイツのコンスタンツ大学の動物行動学者で、ヒヒの調査を率いたアリアナ・ストランドバーグ・ペシュキンによれば、ヒヒの世界は、人間の集団と違い、票を集計し結果を公表したりはしない。結果は自然に表面化するのだ。しかし、そうした巧妙な合意形成も、私たち人間集団の投票プロセスに類するひとつとみなせるのではないか。

「たとえば、選挙をする前、誰に票を投じるかを決めるに際して、お互いの意思に影響を与え合うかもしれない」と彼女は言っている。(抄訳)

(Elizabeth Preston)©2020 The New York Times

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