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新しい民主主義、日本での取り組みは?合意形成プラットフォーム「デシディム」も活用

World Now 更新日: 公開日:
加古川駅前の将来について話し合うワークショップで、駅前の地図を見ながら意見を交わす参加者たち=2023年8月19日、兵庫県加古川市、荒ちひろ撮影

「こんな駅前だったらいいなっていうアイデアを自由に言葉にしてみましょう。デシディム上には、90くらいアイデアが載っています」

兵庫県加古川市で8月中旬、「2040年の加古川駅周辺を考える」と題して、若者を対象にした市のワークショップが開かれた。参加した17人の高校生や大学生に呼びかけたのは、一般社団法人コード・フォー・ジャパンの東健二郎さん。東さんたちは、スペイン発のデジタルプラットフォーム「デシディム」の日本語版を手がけてきた。

姫路と神戸の間に位置する人口約25万人の加古川市は2020年10月、日本で初めてデシディムを導入した自治体だ。この日のワークショップは、デシディムも使って進める駅前再整備を考えるプロジェクトのリアルイベント。参加者たちは、スマホやパソコンでデシディム上の提案を参考にしながら、駅前の理想の姿を話し合った。

加古川駅前の将来について話し合うワークショップに参加した若者たち=2023年8月19日、兵庫県加古川市、荒ちひろ撮影
加古川駅前の将来について話し合うワークショップに参加した若者たち=2023年8月19日、兵庫県加古川市、荒ちひろ撮影

「可動式のベンチを置いて滞在できる空間をつくる」

「駅前の広場に不要な本を置く読書スペースをつくる」

「歩道橋の下に、靴下をぶら下げて飾り付ける」

この日出てきたユニークなアイデアは、市の担当者が後日、デシディム上にまとめて掲載した。

参加者の一人、この春から大阪公立大で学ぶ小川明莉さん(18)は、加古川東高校の卒業生。高校時代に課外活動で地元で盛んな靴下産業を盛り上げるプロジェクトに取り組んだとき、市の担当者や民間企業の社員らとデシディム上で意見交換したり、助言をもらったりした。

「(行政への)意見箱と違って、双方向でやりとりできる。デシディムは、行政を身近に感じられるツールだと思う」

パブリックコメントなどの従来の取り組みに加え、広く市民の声をとりいれる方法を探していた加古川市は、デシディムに注目。民主党の衆院議員を務めた経験がある3期目の岡田康裕市長が市民とのオープンミーティングを設けるなど、市民参加を推し進めてきた経緯もあった。コード・フォー・ジャパンと協力し、デシディム日本語版の作製を進めた。

デシディム本家のスペイン・バルセロナ版では、身分証明書をつけて実名で登録する形だが、日本語版ではニックネームで参加できるようにしたり、LINEとの連携でユーザー登録できるようにしたりと、参加しやすさを重視した。

これまでに駅前再整備のほか「河川敷の活用」「市施設の愛称募集」など31のトピックで意見募集などを実施。昨年度末までに900件超のアイデアが寄せられた。パブコメではこんなに集まらないという。

登録者は今年9月末時点で約2500人に上る。

一方で、具体的な施策に結びつけることが前提のバルセロナとは違い、デシディムはあくまでもデジタル上のツールの一つで、最終的な意思決定の権限は議会や市長にある、との位置づけだ。

無作為に選んだ市民が参加する「くじ引き型民主主義」の例も出てきている。

約92万人が暮らす東京都世田谷区では2012年6月に「くじ引き型」の区民ワークショップを初めて行った。無作為に選んだ1200人に案内を送り、応募した88人が「20年後の世田谷区で実現させたいこと」を話し合った。

2022年にも、10年後の区の将来像を議論するために、無作為に選んだ460人に案内を送り、44人が申し込んだ。若年層の参加割合が低い傾向があることを考慮し、35歳未満から多めに抽出したが、結果として、応募者44人のうち、10~30代が33人を占めた。

オンライン参加ができることも影響しているかもしれないと、政策経営部の副参事、真鍋太一さんは分析。「日ごろ、あまり行政に関心のない人、普通の生活者の視点もとり入れたい」と話す。今年6月、デシディムを使った意見募集も始めた。

ただ、世田谷区でも、こうした市民参加の取り組みについて「意思決定機関ではない」と強調する。「ものごとの是非を決めるのではなく、どう進めていきたいか、納得感を高める役割がある」

無作為に選ばれた市民が、地域での温暖化対策を話し合う、欧州発祥の「気候市民会議」も広がりをみせている。
8月中旬、神奈川県厚木市の市民ホールでは、市と市民からなる実行委員会による「あつぎ気候市民会議」が開かれた。

「あつぎ気候市民会議」で話し合う参加者たち=2023年8月20日、神奈川県厚木市、荒ちひろ撮影
「あつぎ気候市民会議」で話し合う参加者たち=2023年8月20日、神奈川県厚木市、荒ちひろ撮影

住民基本台帳から無作為抽出した16~74歳の約3000人に呼びかけ、希望者から男女比や年代などが市の人口構成の縮図になるよう約50人を選んだ。

3回目のこの日は、数人のグループに分かれて「地産地消」や「省エネ」などについて話し合った。参加者の一人、高校3年生の小林宰吏さん(18)は「突然(参加を呼びかける)封筒が届いてびっくりしたけど、ラッキーだと思った。学びながら参加したいと応募した」。

「あつぎ気候市民会議」で話し合う参加者ら=2023年8月20日、神奈川県厚木市、荒ちひろ撮影
「あつぎ気候市民会議」で話し合う参加者ら=2023年8月20日、神奈川県厚木市、荒ちひろ撮影

市民の声を予算に直接反映させようという取り組みもある。

東京都では2017年、知事の小池百合子が掲げる「東京大改革」の一環として、都民による事業提案制度を始めた。都民から事業を募り、実施の是非をオンラインなどによる「都民投票」にかけ、選ばれた事業に予算をつける取り組みだ。

受け付ける提案は、事業期間が1年、想定費用は2億円以下、「ハコモノ」事業は除くなどの条件がある。応募案の中から、投票にかける十数案への絞り込みは都職員が行う。2018~2023年度の予算に向けて寄せられた1906件の応募のうち、41件が事業化された。

たとえば、2020年度には、家族構成や住居、ペットの有無の三つの質問に答えるだけで、防災用の備品リストが提案されるウェブサイト「東京備蓄ナビ」を開設した。その後は、担当部署の通常予算でサイトの運営を続けている。

都民の提案をもとに事業化された「東京備蓄ナビ」。家族構成や住居、ペットの有無の質問に答えると、必要な防災用の備品リストが提案される=都のウェブサイトから
都民の提案をもとに事業化された「東京備蓄ナビ」。家族構成や住居、ペットの有無の質問に答えると、必要な防災用の備品リストが提案される=都のウェブサイトから

応募件数は2017年の255件から、5回目の昨年は684件に増加。2024年度予算に向けて、今年は847件が寄せられ、15件が投票にかけられた。11月ごろに事業化を目指す案が発表される予定だ。