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住民の声を聞き、政府につなぐ アメリカのNPO、こんなにアクティブ

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米ポートランドのNPO「APANO」のメンバー。キャシー(左)とリン(中)、事務局長のチ=秋山訓子撮影

【米国NPO訪問ルポ(上)】なぜアメリカはNPO大国なのか 内側から観察して見えたこと

まちづくりといっても抽象的な言葉で非常に幅広い。何をしているのだろう。

APANOは移民が多く住む「ジェイド・ディストリクト」に本拠地を構えている。APANOの「ジェイド・ディストリクト・マネジャー」が、リン・ドーン。リンはベトナム出身で、8歳の時に難民として家族と共にアメリカにやってきた。テキサス州ヒューストンで育ち、結婚後しばらくベトナムに戻った後、再び米国へ。友人がいたポートランドに10年ほど前にやってきた。父母が地域のベトナム人コミュニティで積極的に活動していたこともあり、ポートランドに来た当初からAPANOにボランティアとして参加していた。スタッフになったのはこの2年ほどだ。

「この地域の移民の多くは、自分たちで何か小さなビジネスをしている。ビジネスがうまく回るように彼らの相談にのったり、家族はきちんと暮らしているか、学校には行けているか、日々のやりくりで何か困りごとはないか聞いてまわったりしています」

小さなビジネスとは、要は小さな商店やレストランのようなイメージだ。小商いや定食屋さん、というと感じがつかめるだろうか。

そのために、週に一回は地域を細かく回って住民たちと話をしている。実際、リンは実によく地域のことを知っている。「あの中古車ディーラーは××出身で、大学で何を専攻して、米国にやってきたのはいつで、それはこういう理由で、趣味は……」のように。そういった話から聞く困りごとを市をはじめとする自治体に政策提言をして、歩道や駐車場の整備につながったこともあるのだという。

リンが親しくしている住民の一人がキャシーだ。中国出身の移民で、カリフォルニア州に父母と娘2人を置いてポートランドでひとり魚屋を開き、仕送りをしている。カリフォルニアは商売をするにはあまりに競争が激しいからだという。「彼女は中国の小さな村出身で、教育もそう受けているわけじゃない。でも家族のために週6日、朝から晩まで働きづめだった。苦労の連続だったと思う」とリン。

リンと一緒にキャシーの店を訪れた。店頭の看板には英語と中国語、スペイン語で店の名前が書かれている。「できるだけ多くのお客さんに来てもらいたいと思って」とキャシー(彼女はスペイン語は話せないし、英語もあまり上手ではない)。ポートランドは治安が良い街だが、それでも彼女の店の窓には銃弾の跡(!)が残り、店のドアを壊されたこともあるという。「悪いことをする人たちがいるんです」

「TIENDA DE MARISCOS」「海鮮市場」「SEAFOOD」。キャシーの店の看板は3カ国語で表示されている

店内は魚に加えてスナック、お菓子なども置いてある。近所の小学生が学校を終えて「こんにちは」と駄菓子を買いにやってきた。キャッシャーの裏には、娘さんたちと思われる写真が貼ってあった。

キャシーは言葉少なに「リンは本当に優しい。彼女にはすべてにお世話になって」と語るのみだったが、2人の様子からは強い信頼関係があるのだと伝わってきた。

地元の人たちとの接点といえば、ボランティア活動もある。APANOではボランティアと共に、地域の清掃活動などをしている。地道な活動だが、人々が交流し、社会とかかわる接点になる。担当者のメイウィー・ユアンは両親が中国・広州から米国に移住し、ポートランドの隣のセーラムで生まれ育った。「父母がなぜ米国に渡ったのか、全部を話してくれるわけじゃない。父は文化大革命で下放されたみたい。言えるのは、彼らは本当に苦労して私を養ってくれたということ。彼らが米国にやってきた時、ほとんど英語を話せなかった。私の父母だけじゃなく、アメリカに移住してきた第一世代は自分を犠牲にして私たちのような第二世代を育ててくれたと思う」

ワナ・リーも広州出身だ。父母の強い意向でポートランドに留学し、そのままこちらで結婚して住み着いた。ジェイド地区に住んでいたが、彼女のような中国系移民がポートランドで急増したのに伴い、APANOが広東語を話せるスタッフを募集し、彼女に決まった。

ワナ(右)もカルメン(左)も中国がルーツだ

中国系移民で子どもを地域の学校に通わせている親たちと交流して、信頼関係を築き、意見交換の会を持っている。今ではSNSで220人の親たちのグループを作り、週に一度ミーティングを開いて要望や困りごとを聞いている。親たちには英語を上手に話せない人や、米国の教育システムをよく知らない人たちも多いからだ。

といっても、信頼関係はそう簡単に築けるわけではない。「最初は何をしたいんだと警戒されて大変でした」とワナは言う。「一人一人に会って話しかけ、ていねいに説明して、何を困っているのかみんなで話し合って声をあげることが大事なんだと話しました。私自身が移民で子どもを育てて学校に通わせているということで、信頼を得られた分も大きいです」

実際、そこで話しあったことで語学教育の仕方が変わったこともあるのだという。

後述するように、APANOは自治体や州などの地方政府に各種の政策提言をして、官僚や政治家にも働きかけている。そうした政策提言は、リンやメイウィー、ワナのように現場で地をはうように一人一人の住民と会って困りごとを聞くところから始まっていると思える。たとえば、大樹が根をはって地から養分を吸い上げ、空高い樹上で花開き緑が茂るように。現場の声を制度やシステムの変革につなげているようにみえる。

APANOが運営するアパートもそうだ。「affordable house」、手頃な価格での住まい、とでも訳すのがいいだろうか。ポートランド地区は地価がどんどん高騰している。そこで、経済的に豊かでない人たちが多い移民でも住めるような住宅を供給することは、リンやワナが接する人たちからも切実な声としてあがっていた。

「あるとき、幹線道路の交差点に面する一等地の家具店の土地が売りに出されていることを知って、これは住宅に利用するしかない、と地元自治体に購入をはたらきかけたんだ」とAPANOの事務局次長、ダンカン・ファン。「こんな一等地はなかなか出てこないからね」。その結果、自治体政府は購入を決定。まちづくりに使うこととなり、案を募った。APANOはパートナーの団体と共に住宅とコミュニティセンターを作ることを提案し、その提案が通ったのだった。

賃貸住宅建設の責任者、事務局次長のダンカン

アパートは昨年完成、今では4階建ての建物に48世帯が暮らす。一階はAPANOの本部とコミュニティセンターだ。家賃は収入によって違うが、周辺の相場に比べて安く抑えられているという。入居者募集に応募するために、広東語やベトナム語での書類の書き方のワークショップも開かれた。「400以上の世帯から応募があった。つまり10倍近かったわけで、住まいのニーズは本当に高いと改めて痛感した」とダンカン。

APANOはアパートの管理運営の経験があるわけではないので、そのノウハウを持つ団体とパートナーを組んでいる。このように、得意不得意の分野を補い合ってパートナーシップを組むのも米国のNPOの特徴だといえよう。

手頃な価格でのアパートのニーズは高く、APANOは近郊の他の自治体にもはたらきかけ、自治体でまちづくりのための予算が決まった。その予算で新たな賃貸アパートのための調査を加速させる。

これらの活動を支えるのが、資金集め、ファンドレイズだ。米国は寄付がさかんな社会…といっても、寄付してもらうには地道な営業活動が鍵を握る。その担当者、ハバニ・フィフィタは2019年に大学を卒業したばかり。カリフォルニアで育ち、オレゴンの大学に通った。「カリフォルニアはいろんな人種がいたけれど、ここではそうでもなくて…私の祖父はトンガから移民してきたんだけど、トンガ、っていってもわかってもらえないことも多かった」。自分のルーツを強く意識するようになり、社会正義にまつわる仕事をしたいとここを選んだ。

ファンドレイズの仕事ではどんなことを?「いろんなイベントに行ったりして、知り合いを作り、信頼関係を築いて、寄付してもらう。どこ出身?ああ、そこの高校卒なら誰それを知ってる?みたいなところから話を広げ、つながりをつくっていく。自分は社交的じゃないと思っていたのに、仕事だと別人格になったみたい(笑)」

次回は、アメリカのNPOの最大の特徴といっていい、政策提言や政治的な活動がどのように行われているのか、紹介したい。