平均的な女性の生理の期間は、生涯で2535日とされる。7年近くも、ナプキンやタンポンを使い続けていることになる。生理用品を持っていなければ、対応に追われるし、さらに、痛みや不快感もなんとかせねばならない。
これまではあまり語られることのなかった問題を、最近は女性(正確に言えば、トランスジェンダーでも、男女どちらにも自分を分けたくない人でも、生理のある人すべて)が公の場で議論するようになった。市場には、新しい商品も進出している。月経カップがあれば、専用の新しい下着も開発され、「生理のコーチ」という専門家まで現れるようになった。
女性には、尊厳をもって生理と向き合う権利がある。これを認めさせようという運動が、世界中で起きている。米国では、「生理の平等化(menstrual equity)」という考えをオープンに論じる動きとなっている。
では、その説明から始めよう。
「生理の平等化」とは、生理用品を誰もが平等に入手できるようにすることだ。同時に、「性と生殖に関する健康とその権利(リプロダクティブ・ヘルス)」について教えることでもある。
具体的には、新たな法をつくることを目指している。刑務所でも、保護施設でも、学校でも、平等に入手できなければならない。もちろん、米議会だって例外ではない。さらに、生理用品に課税しないよう求めている。生活の必需品だからだ。こうした幅広い要求は、新たな政策分野にもなりつつある。
「バイアグラは非課税なのに、タンポンはなぜ課税されるのか」というのが、キャッチフレーズの一つだ。
メディアの関心も高まっている。論議を促すできごとも起きている。
例えば、2015年のロンドンマラソンに参加したキラン・ガンディー(訳注=米国人、当時26歳で完走)。あえて、生理用品を使わず、血が流れるまま走り続けた。さらに、インスタグラムが生理の血の痕を映像から消した問題も生じ、議論に拍車をかけることになった。
18年6月には、英下院で一人の女性議員が、「生理と貧困」という問題があることを思わぬ方法で訴えた。自分が生理中であることを明かしたのだった。
ニューヨーク州選出の米下院議員は最近、議会当局と言い争いになった。自分の事務所の女性のスタッフや訪問者用として支出したタンポン代37.16ドルを経費として認めるよう求めたからだ。
インドは18年7月下旬、生理用ナプキンに課していた12%の税金を廃止することにした。著名人も加わった権利擁護団体のキャンペーンを受けての決定だった。カナダは、すでに15年に非課税化している。豪州も、18年中にこうした動きに続きそうだ。
具体的には、どんな論議が交わされているのか。ここに、まとめてみた。
〈生理用品を平等に入手する闘い〉
全米のいくつかの州は、刑務所などの矯正施設や保護施設、学校で生理用品を確実に受け取ることができるように定めている。米上院は現在、二つの刑務所改革法案を審議しており、その中には十分な量の生理用品が支給されていないという苦情に応えた改善策が盛り込まれている。この2法案の一つは、ホワイトハウスも支持している。さらに、米司法省は17年、受刑者には無料で生理用品を与えるよう管轄下の刑務所に指示している。
米下院では、ニューヨーク州選出の民主党議員グレース・メンが二つの関連法案を提出している。生理用品を買いやすくするために、従業員が会社の支出口座を利用できるようにすることなどを求めており、「この問題への関心は日増しに高まっている」とメンは言う。
同僚議員のショーン・パトリック・マローニー(ニューヨーク州選出、民主党)も同じ思いだ。生理用品代の支払いをめぐって議会当局ともめたばかりで、メンと連名で下院議長のポール・ライアン(共和党)に直訴の書簡を送った。
「まず、トイレットペーパーを使えるようにしていただいていることを、ここにたたえたいと思います。さらに、一歩進んで、女性用の衛生用品も使えるようにしていただけないでしょうか。必要としている人がいるのですから」
〈タンポン課税の廃止を〉
ニューヨーク州、イリノイ州、フロリダ州、コネティカット州。この2年間で生理用品にかかる税金を新たに廃止した米国の各州だ。これで、今も課税を続けているのは、全50州のうちの36州になった。このうち二十数州で、課税廃止の法案が提出されている。 「生理の平等化と健康増進の動きがこれほど目立つようになり、党派を超えて公の場で取り組まれるようになったことは、私にとっては単に勇気づけられるだけではない。成果をつかみとる手応えをしっかり感じることのできる流れでもある」とジェニファー・ワイスウォルフは語る。「Periods Gone Public(公の場に躍り出た生理)」を17年に出した著者だ。
同じような活動は、世界中で進められている。英国では、「課税を断ち切れ」運動が、欧州連合(EU)からの離脱をめぐる論議の中に登場している。若手活動家のローラ・コリトンは、14年に「生理への課税をやめろ」の署名運動を始め、30万筆を超える賛同を得た。
ところが、EUの規則が障壁となった。このため、(訳注=EUからの英の離脱を決めた16年の)国民投票では、離脱派をまとめる論点の一つにもなった。(訳注=19年3月に)英がEUから離脱すれば、課税は廃止される見通しだ。
〈世界での果敢な取り組み〉
国連人口基金(UNFPA)のアフリカ東・南部担当のジュリッタ・オナバンジョは、生理をめぐる健康改善運動がうねりのように広まっていると話す。
UNFPAは18年5月、この地域の政府やNGO関係者を招いて、初の関連シンポジウムを開いた。ケニアとウガンダは、すぐに生理用品への課税をやめた。ジンバブエは地場の関連企業を補助するようになり、ケニアでは学校でナプキンを配るための財政支援も始まった。
しかし、生理用品の入手だけが目標ではないとオナバンジョは注意を促す。きれいな水と衛生設備の確保、関連情報と医療の提供がともに重要になる。尊厳をもって生理と向き合うには、貧困という大きな壁とも闘わねばならないと言うのだ。
この問題では、世界中の女性につきまとう難問がある。汚いもの、恥ずかしいものとする文化。自らの羞恥心。それを打ち破った先には、社会的な孤立の恐れも待ち受けている。UNFPAの最近の報告書によると、生理の不順やからかわれるのがいやで、学校に行かなくなる少女も多い。もっと悲惨なのは、ナプキンを買う金がなく、売春で入手し、性病の危険にさらされている貧しい子供がいることだった。
「リプロダクティブ・ヘルスという視点を見失ってはならない」とオナバンジョは胸に刻んでいる。
〈技術の進歩で解決できることは〉
生理アプリ。栄養摂取や自己療法を指導するサイト。繰り返し使えて環境に優しいナプキンもあれば、吸収性に富んだ専用下着や月経カップもできた。新しい製品やサービスが登場し、生理の負担は軽くなっていくように思われる。
人気の生理日予測アプリ「Clue」の開発者によると、今では180カ国で250万人が利用するようになった。さらに、女性の健康問題の研究では世界トップクラスのいくつかの大学と非特定化された利用データを共有し、サービスの改善に努めている。
さまざまな「次世代製品」も考案されている。「生理痛をスイッチオフ」とうたう電動刺激装置「Livia」の開発チームは、クラウドファンディングサイトIndiegogoで170万ドルもの資金を集めた。しかし、ネットでの評価は割れている。効果があったという人もいる。一方で、商品の遅配や装置の不調、顧客サービスの悪さといった苦情も多く寄せられている。
「指導」という分野では、ダイエットやトレーニングに多くの関心が集まる。はり療法や薬草のすすめもあれば、瞑想(めいそう)やマッサージの指南もある。
「心がけているのは、自分の体の機能についての情報をできるだけ多く提供すること」。リプロダクティブ・ヘルスの啓発に努め、最近、ロサンゼルスで生理時の指導プログラムを設けるようになったLOOMの共同設立者エリカ・チディ・コーエンはこう説明する。
生理に伴い、ホルモンの分泌がどう変わるのか。自分を集中させるにも、よい時期と不向きな時期がある――そんなことを含めて、アドバイスにあたっている。それをもとに、出張などの重要な日程を組む人もいる。
「体に起きていることを理解した上で全力を尽くせるようになれば、よい結果も期待できるようになる」(抄訳)
(Karen Zraick)©2018 The New York Times
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