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もう、「理想の自分」を追うのはやめた ソウルのベストセラーを読む

Bestsellers 世界の書店から
Photo:Nishida Hiroki
Photo:Nishida Hiroki

ソウルの書店にも春がやって来た。ピンクや黄など、あざやかな色合いの表紙がずらりと並ぶのを見ると、なんだかウキウキしてくる。総合ベストテンの中には、若い書き手による、ささやかな幸せを渇望するエッセイが並んだ。生きにくさを感じる人々が、本の中に脱出口を求めているのだろうか。切実さが胸にしみる春だ。

エッセイ『私は私で生きることにした』4月初め現在、61刷を重ねる。イラストレーターでもある著者が挿絵も描いた。著者はおそらく、30代前半の女性だろう。いつの間にか大人になってしまった自分に戸惑っている。「幼いころの理想からかけ離れてしまったと気づいたとき、大人の思春期は始まるのかもしれない」

なぜこの社会は「理想的な自分」を強要するのだろう。なんでも数字で物事を測ろうとする国民性。女性なら体脂肪率17%、体重48キロ、謙虚で明るい性格、良い大学を出て大企業に勤めるのが理想像だ。5キロ減量、TOEIC(英語テスト)スコア900点など、だれもが高すぎる目標値を設定して邁進している。

しかし、教科書に掲げられた「機会の均等」などどこにも存在せず、「努力は必ず報われる」という格言も間違っていた。理想に追い付かなくて劣等感を抱えた人々は、社会から認められない空虚感を埋め、薄っぺらな優越感を味わうために、他人を侮蔑する。レストランで働く若者を指して、「ちゃんと勉強しないと、おまえもああなるよ」と我が子に言い聞かせる母親がいる。

皆が社会の不条理を諦めたり、我慢を重ねた結果、手に入れたのは、OECD加盟国の中で自殺率最高、出生率最低という二つの指標だった。

大人として生きてゆくことの難しさ。「確信が必要なあなたには悪いが、10年間タロットや四柱推命、風水などあらゆる占いをやりつくした結論から言う。生きるとは、模糊(もこ)なるものに耐えていくこと」

著者が望む幸せとは、仕事をし、愛する人とおしゃべりし、おいしいものを食べ、好きな音楽や本を共に楽しみ、天気が良ければ日向ぼっこするような、穏やかな日常を過ごすことだ。元気な筆致で、読者に勇気を届ける。でも、そんなささいな幸せすら、もがき苦しまなくては手に入らない現実が悲しくなる。

セクハラ、パワハラに立ち向かう

エッセイ『無礼な人に笑って対処する方法』の著者は30代後半のキャリアウーマン。タイトルにひかれて手に取る読者が多いと聞いた。

なるほど私の周囲にも、一言どころか三言も四言も多い人がたくさんいるから、世の無礼な人の多さは想像して余りある。

職場では、相手が権力を持つ場合はパワハラだし、男女間ではセクハラになる。しかし働く女性は、不快感を表明しづらい。こちらの領域を侵犯してくる相手に、どうすれば賢く対処できるのか。

無礼な人間は、周囲に制止してくれる人がいないから助長する。だからまず、「一線を踏み越えましたよ」と忠告することが大切だと著者は説く。

しかしそれを実践するには、知恵や勇気がいる。「毎日運動して体を鍛えるように、自己表現の筋肉を鍛えるためには、時間と努力が必要だ」

今韓国では、米映画界に端を発したMe Too運動が急速に拡散し、芸能界のみならず政界、教育界など社会を震撼させている。不当なことを我慢しない。それこそまさに、著者が希求する「今日の自分を幸せにする」努力にほかならない。

『くまのプーさん、幸せなことは毎日ある』は、プーさんの言葉の中から「幸せを呼ぶ魔法の言葉を集めた」という。なんとプー語録は、19世紀のドイツ哲学者ニーチェの思想とも通じるのだそうな。

そんな難しいことを言わずとも、表紙のプーの笑顔を見ているだけで心がホカホカしてくる。

「小さな幸せが積もり積もって、大きな幸せになるよ」

愛をテーマにした抒情詩のようなエッセイ『すべての瞬間がおまえだった』。イケメンの若い男性作家が、心寂しい読者に、どうかくじけないで、あなたは素晴らしいと語りかける。

「おまえの行く道はすべてが春で、おまえの見るものすべてが温かく、おまえのやることはすべてが明るいだろう。おまえはその中で、花のように咲けばいい」

ささやかな幸せの喜び。愛する人へ贈る歯の浮くような賛辞。やがて訪れる胸の張り裂けそうな別れと、温かい思い出。やわらかな言葉の端々で、「あなたならきっとできる」「もっと自信を持って」と励まし続ける。

そして読者は気づく。なによりも今、自分のそばにいる人を大切にすることこそが幸せなのだ、と。

韓国のベストセラー(総合)

20184月第1週 インターネット教保文庫集計より

※『 』内の書名は邦題(出版社)

1 곰돌이 , 행복한 일은 매일 있어 くまのプーさん、幸せなことは毎日ある

곰돌이 푸   くまのプーさん

小さな幸せを説くディズニーキャラクター。プーさん人気はユヅ君のせい?

2 모든 순간이 너였다 すべての瞬間がおまえだった

하태완  ハ・テワン

パステルトーンの挿絵もステキな、イケメンインスタグラマーのエッセイ集。

3 사람의  人の力

윤석금  ユン・ソッグム

百科事典のセールスマンからのし上がった、企業の経営者が説く成功への道

4 82년생 김지영 82年生まれのキム・ジヨン

조남주  チョ・ナムジュ

平凡に生きる女性の心をむしばむ社会の圧力。共感を集めてトレンドに

5 무례한 사람에게 웃으며 대처하는  無礼な人に笑って対処する方法

정문정  チョン・ムンジョン

自分を不快にする相手に勇気を持って立ち向かうこと。それこそ幸せの実践だ

6 나는 나로 살기로 했다 私は私で生きることにした

김수현  キム・スヒョン

ささやかな自分なりの幸せ。「人生とは、私に一番似合う一枚の服を探すこと」

7 연애의 행방 『恋のゴンドラ』(実業之日本社)

히가시노 게이고 東野圭吾

翻訳されればすぐにベストセラーになる、人気作家の恋愛コメディー

8  만만하게 보이지 않는 대화법 『軽く扱われない話し方』(だいわ文庫)

나이토 요시히토 内藤 誼人

センスある話術を身に着けて、仕事や人間関係を円滑にしたい人へ

9 나미야 잡화점의 기적 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(KADOKAWA

히가시노 게이고 東野圭吾

おそらく韓国で最も人気のある日本作家はこの人だ。読まれ続けている

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