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エプスタイン被害者の回想録 富と権力に立ち向かった女性、性被害者の支援も

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『NOBODY'S GIRL』書影
『NOBODY'S GIRL』書影=関口聡撮影

2026年1月末、米司法省が公開した「エプスタイン文書」が、世界に波紋を広げている。2019年に未成年者の性的人身売買などの罪で起訴され、拘置所内で自殺した資産家ジェフリー・エプスタインに関する膨大な捜査資料には、彼と交流のあった各国の富豪や政財界の要人、名門大学の教授らの名前が記されており、事件への関与の有無にかかわらず、釈明や辞任に追い込まれる例が続いている。

本書『ノーバディーズ・ガール』は、エプスタインと彼の共犯者ギレーヌ・マクスウェルの被害者で、性被害者支援活動家としても知られたヴァージニア・ロバーツ・ジュフリーの回想録だ。彼女は昨年4月、41歳で自ら命を絶ったが、生前、約4年をかけて執筆していたのが本書で、昨年10月に出版された。

1983年生まれの著者はフロリダ州パームビーチ郊外で幼少期を過ごしたが、7歳から11歳まで、実父から性的虐待を受けた。母親は守ってくれず、家出を繰り返すようになり、入所した青少年のための更生施設でも虐待を受けた。

16歳の終わり頃に父親の紹介で、トランプ大統領所有のマール・ア・ラーゴのスパ施設のロッカー係として働き始め、マクスウェルに「富豪の専属マッサージ師として教育する」と勧誘された。しかし実際は性的搾取の始まりで、彼らは著者を洗脳し、エプスタインだけでなく、富裕層の男性たちに性的サービスを提供するよう仕向けていった。エプスタインからは、当時12歳だった弟の写真を見せられ、逃亡しないよう脅された。

著者は無感覚となり、従順でいることで生き延びたと振り返る。マクスウェルは、著者のような、貧困や家庭の問題を抱える少女たちを積極的に勧誘し、彼女たちの脆弱(ぜいじゃく)さを食い物にしていたと訴える。

2年以上にわたり、著者はエプスタインとマクスウェルに同行し、自家用ジェットで世界各国を移動。数多くの富豪や著名人に性的サービスを提供させられた。その中には、英国のアンドリュー元王子もいたと記されている。訴訟や命の危険を避けるため、実名が明かせない人物がいるとも。

2002年、19歳になる前に著者は2人から逃げ出し結婚。オーストラリアに移住して5年間は穏やかに過ごした。しかし2007年、マクスウェルから突然の電話があった。当時進行していたエプスタインの少女虐待を巡る捜査に関する口止めが目的だった。自分の居場所が把握されていることを知り、恐怖に襲われた。

2008年、エプスタインは有罪判決を受けたが、司法取引の結果、軽い刑で済んだ。2009年、著者は匿名でエプスタインを告発。2015年には、実名で告発し、性被害者支援活動も始めた。「#MeToo(ミートゥー)」運動が活発になる2年前のことだ。

性加害者を実名で告発することは、忌まわしい過去を公にすることであり、自責の念に駆られるだけでなく、中傷や脅迫、パパラッチに追われるなどの困難も伴った。

協力執筆者エイミー・ウォレスによる序文では、著者が夫から家庭内暴力を受けていたが、子どもたちのために本文には記さなかったことが明かされている。死の直前、著者は原稿の一部を書き直したいと兄弟たちに打ち明けていた。彼らが出版社と交渉し、ウォレスによる序文を付け加え、本文は本人の文章を尊重したまま出版された。

エプスタインに関わった人物の情報が注目されがちだが、この回想録は、富と権力に立ち向かい、正義を追求した勇気ある女性の物語でもある。著者は自身と同様に性被害を受けた女性たちのために本書を執筆した。彼女の活動は「エプスタイン文書」の公開にも大きく貢献したとされる。著者が設立した、性被害者を支援する慈善団体の活動は、現在も兄弟夫婦によって引き継がれている。

米国のベストセラー(eブックを含むノンフィクション部門)

2月22日付The New York Times紙より
『 』内の書名は邦題(出版社)

  1. The Invisible Coup

    Peter Schweizer ピーター・シュヴァイツァー

    『クリントン・キャッシュ』の著者が、大量移民は政治的武器だと主張。

  2. Nobody’s Girl

    Virginia Roberts Giuffre  ヴァージニア・ロバーツ・ジュフリー

    ジェフリー・エプスタインによる性的人身売買の被害体験をつづった回想録。

  3. Rage and the Republic

    Jonathan Turley ジョナサン・ターリー

    法学教授が、アメリカ民主主義の起源と現代的課題を考察する。

  4. Strangers

    Belle Burden ベル・バーデン

    裕福な家系に生まれた作家が、夫の不倫を知ってから離婚に至るまで。

  5. How to Test Negative for Stupid 

    John Kennedy ジョン・ケネディ

    共和党上院議員が、ワシントンD.C.と地元ルイジアナ州の政治について語る。

  6. The Body Keeps the Score

    『身体はトラウマを記録する−脳・心・体のつながりと回復のための手法』(紀伊国屋書店)

    Bessel van der Kolk ベッセル・ヴァン・デア・コーク

    トラウマが心身に与える影響と、回復に向けた治療法を解説する。

  7. 1929

    Andrew Ross Sorkin アンドリュー・ロス・ソーキン

    1929年の株式市場の大暴落と、ワシントンD.C.とウォール街の対立を描く。

  8. Work in Progress

    James Martin ジェームズ・マーティン

    米イエズス会司祭が、10代のアルバイト経験を振り返る。

  9. La Lucci

    Susan Lucci with Laura Morton スーザン・ルッチ&ローラ・モートン

    「昼ドラの女王」として知られる女優が、自身の人生とキャリアを回想する。

  10. Black AF History

    Michael Harriot マイケル・ハリオット

    黒人アメリカ人の視点と経験を軸に語られるアメリカ史。