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母として、幼児教育に思うこと 子供はやっぱり「身軽な旅人」がいい

World Now 更新日: 公開日:
「ぴっぴ」で遊ぶ子どもたち photo:Mishima Azusa

育児につい結果を求めてしまう

息子が3歳になるまで毎日つけていた育児日記。久しぶりにめくってみた。絵本のことがたくさん書いてある。1歳半の頃。『きんぎょが にげた』(五味太郎作)が大のお気に入りだった。

最後のページで、たくさんの金魚の中に1匹だけ目が笑っている金魚を見つけては、喜ぶ様子が可愛かったこと。2歳半の頃。満月に近づく雲に「くもさん どいて おつきさまの おかおが みえない」と、『おつきさまこんばんは』(林明子作)に出てくる言葉を叫んだこと――。

いわゆる「早期英才教育」の類いは何もしてこなかった。心がけてきたことといえば、絵本の読み聞かせくらいだ。

息子はいま10歳。宇宙の不思議、外国の話、冒険物語。今でも本を読んであげれば喜び、面白い感想を口にしたりもするのに、自分で読書をすることはめったにない。感想文や日記も苦手だ。

読み聞かせで楽しい時間を共有できたのだから、それで十分だと思う一方で、読書好きで、あわよくば文章を書くのも得意になってくれたら、という下心が全くなかったと言えばウソになる。まいた(つもりの)種がいつ芽を出すのか、年齢が上がるにつれて、つい結果を求めるようになっていた。

ただ、分かりやすい結果を期待し、応えてくれるよう仕向けることには違和感もある。そんなモヤモヤを抱えながら、ずっと心ひかれていた場所があった。

長野県軽井沢町。「森のようちえんぴっぴ」には園舎がない。2歳から5歳の33人は、木登りをしたり、穴掘りをしたり、走り回ったり。雨でも冬でも森ですごす。

4月のある日。夢中で遊び続ける子どもたちの様子を、入園したての2歳の女の子が「ママ」とべそをかきながら、じっと見つめていた。大人は声をかけない。「ここは安心な場所かな、あの遊び楽しそう、と観察している。必要なプロセスだから」

10年前にここを立ち上げた中澤眞弓(68)は、東京の幼稚園に長く勤めていた。子どもが入園する3歳の時点で既に、親は先々を案じて「あれもこれも」と考えすぎ、苦しそうに見えた。「遊びを通して体を鍛える」というように、何でも目的ありきで、大人が口を出す場面が多い保育にも違和感があったという。

私には保育園に通う6歳の娘もいる。「私もそうだ」と耳が痛かった。でも、肩の力がふっと抜けた。目的ありきではなく、遊ぶことそのものによって十分に満たされること。大人は手や口を出しすぎないこと。親としても心に留めておきたい、シンプルな一つの「解」だと感じた。

一方で、「3歳までに」とあおる広告や、いろいろな習い事など、多くの情報や選択肢を前に冷静でいるのは難しい。

めまぐるしく変わる世の中で、どうすれば我が子は将来食べていけるのか。不安が親たちを「投資」に駆り立てる。首都圏の1歳の約2割、6歳の8割超が習い事をしているという調査結果もある。

赤ちゃんから始めさせる親が少なくない有名な通信教材は、続けさせる根気が私にはないだろうと手を出さなかったが、息子の小学校で知り合ったお母さんに「やってない人に初めて会った」と驚かれ、逆に私も驚いた。そんな私も水泳、ピアノ、実験教室と、なんだかんだ習わせてきた。やっぱり英語もやらせないとまずいかな……。

『習い事狂騒曲』の著者で、教育ジャーナリストのおおたとしまさ(43)は「子どもが生きる未来は、今の大人には想像もつかない世界。『これをやらせておけば大丈夫』は、当たるかもしれないし、外れるかもしれない」と語る。

背負うリュックを軽くしよう

そして、幼児教育を旅支度に例えた。

「旅慣れた人の荷物は小さい。子どもにも、多くのものを持たせるより、最低限の道具を使いこなす力を伸ばしてあげたほうがいい。それは体力、やり抜く力、自分にはない力を持つ人とチームを組む力、くらいかと」

省みれば私も、「あれもこれも」と焦り、必要か分からないものまで子どものリュックに詰め込もうとしていたのかもしれない。

小さな荷物で、軽やかにどこへでも行けるように。今はそう思う。