この園にはあらかじめ用意しているカリキュラムというものが存在しません。すべての子どもの発達や成長の様子をきめ細かく観察し、その記録をもとに子ども一人ひとりの個別カリキュラムを毎週検討しているからです。
教師はみなタブレット端末を携帯していて、気がついたことを臨機応変に記録しています。写真もです。端末から、発達段階に応じてどんな保育メニューがあるのか参考のため調べることができるようにもなっています。
親はいつでもこの記録にアクセスできます。蓄積した成長記録は、その後に進む小学校でも生かされます。ひとりのこどもの成長を長期的にみんなで支える仕組みになっているのです。
振り返れば私が保育の世界に入った1970年代とは大違いですよ。当時は一斉カリキュラムがあって、教師はそのカリキュラムを実施する専門家という位置づけでしたから。子どもの脳というのは人との様々な関わりを通じて発達するということがわかってきたため、教師の役割が変わってきたんだと思います。子どもの教育を担うべき専門家は、私たち教師ではなくむしろ親なんですよ。教師はその子どもを育てるチームの一員に過ぎないのです。
ですから発達の記録や情報を親と共有することはとても大切なことなのです。親は子どもの能力がどこへ向かって伸びているのかしっかり理解する必要があります。保育園の各部屋には大人用の長いすを置いてありますが、もし親に時間があれば、そこで子どもたちの様子を見守って欲しいと考えているためです。
ここは移民の家庭が多いことが特色のひとつです。そうした移民の親が保育園に見学に来たときは、お国の言葉でお話や歌を披露してもらったり、園で用意しているありあわせの食材で郷土料理をつくってもらって食べたりすることもあります。そうした経験が充実した学びにつながっています。
ここは公立の小学校内にある施設ですが、運営はジョージ・ブラウン大学が行っています。大学で幼児教育を学ぶ学生の教育研修の場でもあるのです。そうした学生と向き合うことで私たちは日頃の取り組みを新しい視点で見つめ直すこともできますし、実際、大学傘下の11の保育園のスタッフが年に一度集まり、最先端の保育理論と実践について議論する機会をもうけています。
こうすることで昨日の繰り返しではなく、いまできる最良の保育を提供したいと考えています。
時代の流れははやく、テクノロジーはすごいスピードで進歩しています。子どもたちには創造的で、自立した大人になってもらいたい。周りの人と協力して問題を解決できる人になってもらいたい。私たちの保育園を含むカナダ・オンタリオ州の幼児教育のカタチは、そうした思いからできたものです。