【前の記事を読む】中国が向かう「書店4.0」とはどんな世界か
■あえて本に集中してみた
韓国は変化が速いんです。本を売るだけではなく、カフェも兼ねた文化的な空間の機能も果たす書店をつくろうと考えて「サンクスブックス」をオープンしたのが2011年3月。リアル書店より割引率の高いオンライン書店の攻勢で、小さな書店がつぶれていった頃でした。去年、引っ越したんですよ。
母校弘益大学に近い場所ですが、カフェやソファ、雑貨や家具を売る場所はなくしました。始めたころは珍しがられたカフェですが、今や大手の教保文庫がカフェ付きで、ゆったり座れるソファを置いた店を近くに出してくる時代です。コーヒーが当然となったからこそ、本に集中してみようと考えました。
新しい店は、面積は3分の2ほどになりましたが、お客さんが本を買う過程を楽しめる店にしたいと思っています。私はもともとデザイナーで、今もその仕事を続けています。立ち読みがしやすい高さのカウンターテーブルや釘を使わない本棚などを設計しました。小さなこだわりが積み重なると、空間に違いが生まれます。スマホやデジタルでは満たされないものを埋める、アナログな空間を作りたい。スマホに向き合う時間が多くなればなるほど、そのバランスをとるための場としての書店や本が重要になっていくと思うんです。
書店は地元のものです。私がこの店を開いたのも、大学時代から親しんだ街からなじみの書店が消えて不便になったからなんです。若い女性のお客が多いので、店長は20代の女性です。「地域の人が好きな本」という条件だけ出して、選んでもらっています。お客さんと接する人が選ぶのが一番です。街の「サランバン」になりたいと言ってきました。サランバンとは韓国の家屋で書斎兼居間として使われていた部屋ですが、たまり場みたいな意味です。いろんな書店があることが街の魅力を高める。文化の厚みとは、多様性ではないでしょうか。
中国で本屋が増えているのは、政府の政策や不動産会社のビジネス上の需要が大きな要因かもしれませんが、弾圧があるからこそ人々が本を求めるという面もあるのではないか、と感じますね。自由ではないから文化に触れていたいという欲求でしょうか。私は1968年生まれで韓国が民主化するころに成人した世代ですが、そんなことを思いますね。
書店をめぐる韓国の変化が速いのは、日本より環境が厳しいからです。それに尽きる。本が売れないのは世界共通。日本は売り上げを支えてきた雑誌が不振でたいへんだと聞きますが、韓国では教育書が少子化とネットの普及で打撃を受けて危機に陥ったのです。日本の書店はちょっと変化させれば生き残れるかもしれませんが、韓国は市場規模からみても、そうはいかない。2010年前後にかなりの店が閉店に追い込まれました。私が書店を始めたころです。
その後、政府がオンライン販売の割引率を見直すなかで、新たに参入する動きがでてきました。若者が書店にチャレンジするようになりました。慎重な日本人、果敢な韓国人。気質の違いもあるとは思いますが、低成長とも関係しています。高成長の時代は、お金にならないことに取り組むのは変な人だと見られたかもしれませんが、今は自分の時間のすべてをつぎ込んでもなかなかお金になりません。であれば、自分の好きなことをやったほうがよい、と。親からみても、家でぶらぶら遊んでいるなら、外で好きなことを生き生きとやってくれた方がいいですよね。
本屋めぐりが好きで、日本でもあちこち訪ねました。京都の恵文社一乗寺店、大阪のスタンダードブックス、東京の本屋B&B、タイトル、森岡書店、かもめブックス・・・。数えきれません。本を通じて日本と交流ができればいいな、と思っています。
「本屋さんに行こう」連続インタビュー