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毎日3つ、本屋が消える日本 その先にある希望は

Re:search 歩く・考える 更新日: 公開日:
東京・代官山の蔦屋書店

「本屋さんにいこう」後編 本のある空間の意味は何だろう。そんな問いを携えて、書店が大躍進する中国、日本よりひと足早く淘汰と再生を繰り返す韓国を訪ねた。その先に、書店が消えゆく日本を考える。(吉岡桂子、写真も)

【前編】本屋の新展開 中国と韓国はここまで変わった

日本では、書店が毎日3店余りのペースで消えている。アルメディアの調べでは、2000年の2万1654店から18年には1万2026店まで減った。

私は岡山県の海が近い農村で育った。小学校は1学年1クラス。学校から自宅は離れていて、近所に同じ学年の子はいなかった。友だちを待つ間、学校や市民センターの図書館で時間をつぶし、1人で帰る時は寂しさを払うため本をめくりながら歩いた。本は見知らぬ世界と私をつないでくれる頼りになる友だちだった。つまんない本にでくわしても、仲良くならなきゃと無理して読み通した。そうしないと読む本が尽きてしまう。

町に1軒だけある書店は教科書、新聞の販売店を兼ねた立ち読み厳禁の小さな店。日本の地方のあちこちにあった光景だろう。テレビで見る都会の大きな書店が羨ましかった。たくさん並ぶものから何かを選ぶ行為は豊かさの象徴だ。自分に合わないものの存在を知ることでもある。スマホがない時代に育った世代の郷愁だろうか。

漢字の文化に深い縁がある中国、香港、台湾、韓国、そして日本の書店をめぐりながら感じた。書棚が持ち主の心を映すとしたら、書店は身近なコミュニティーを表す。歴史というフットライトを浴びせながら、人々の生活、街、その国家をあぶり出す。グローバル化が進むなかで流通経路は違えど、本だけで店を続ける難しさは共通している。

中国や韓国では、小説や実用書など、おびただしい数の日本の本が翻訳され、書店に並ぶ。村上春樹や東野圭吾だけではない。青山七恵、又吉直樹、たかぎなおこ――。書籍に関していえば、中国は大幅な「貿易赤字」で、当局はそのことを気にし、割り当ての導入を検討するほどだ。物語を書く力は読むことで育まれる。自由に読んで考え、そして書く作者の層の厚さは、日本の戦後のたまものだと思う。この貿易格差はいつまで続くのだろうか。

西安で読書を通じた交流サロン「知無知」を経営する諶洪果に会った。「知無知」は、哲学者ソクラテスの言葉「無知の知」から借りた。言論統制が強まり、自由な議論ができなくなった大学での副教授の職を辞し、15年にサロンを開いた。「書店が増えるのは良いことですが、不動産開発熱が支える虚飾の繁栄ともいえる。長続きするとは思えない」と疑問を呈した。同時に、読むことの真の繁栄は中国政府の狙いには合致しないとも。「本を読むことは自分を顧み、変えていくこと。独立する考えを身につけることだから、本来は権力には怖い行為です」

米国では、ネットにおされて大型書店が閉店に追い込まれる一方で、コミュニティーの住民が支える書店は底堅くふんばっているという。日本でも本を愛し、本で人と人をつなげたい、自らもつながりたいと考えて個人が立ち上げる小さな書店がじわりと広がる。大きな政治の力ではない。小さな力の集まりが身近な出会いの場としての書店を支えていく光が、ほのかに見える。

言論統制と同走しながらも、国家資本主義が支える中国の書店の隆盛。民主主義と自由経済を享受しながらも、消えていく日本の書店。体制間の競争を体現しているかのような現象だ。中国の書店増は、バブルか知識欲か。威容を誇るレーニン図書館(現ロシア国立図書館)は旧ソ連時代、国家が知識を握る象徴であったように、中国の書店熱も中国共産党の掌の上の出来事なのだろうか。

5年後、つまり2020年代前半には多くの書店で家賃免除の期間が終わる。再び西安を訪ねたい。「書香の城」の行方を確かめるために。

本屋の物語は、まだまだ終わらない。

■台湾発の複合型書店、日本上陸へ

ニアオウー、ニアオウー。猫の鳴き声ではない。「蔦屋」の中国語の発音だ。

中国で書店の取材をしていると、誰に会ってもカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する蔦屋書店の話になる。とりわけ東京・代官山の店は注目されていて、多くの人が視察に訪れていた。本だけではなく、CDやDVD、文房具やカフェなどライフスタイルを提案するあり方が、急拡大する中国の書店にとって学ぶべき「聖地」と化している。

そして、もう一つの書店が話に登場する。台湾の「誠品」だ。あの「蔦屋」が参考にした、と。蔦屋自身は「創業者とは交流もあり敬意を持っているが、参考にはしていない」(広報担当者)と否定するが、中国では伝説のようだった。

台北・誠品の日本書コーナー。東野圭吾の作品が数多く平積みになっている

「誠品」は、厨房の設備を手がけ、投資でも財をなした創業者の故・呉清友が台北に最初の店舗を開いたのが1989年。以来、雑貨やアート、レストランから映画館、ホテルまで併設し、本そのものを目的としない人も引き寄せる。日本、中国、韓国で増えている複合型書店の代表格だ。台湾に43店、香港に3店を展開する。

その「誠品」は2015年秋、江蘇省蘇州に中国大陸1号店を出した。全体の面積が5万平方メートルを超える巨大な店だ。食事やショッピングを楽しむ場所を併設する。深圳には大陸2号店がある。

中国副首相の韓正は上海市長だった10年、台北訪問にあわせて誠品を視察し、都市設計にかかわる本を4冊買った。台湾で出版された本のなかには、少数民族や歴史、政治などの関連で大陸では販売できないものもある。その点でも、大陸からの旅行客が訪れる「名所」になっている。

台北・誠品の、本の作者を招いてのフラワーケーキ教室。店内ではさまざまなイベントが開かれている

誠品は今秋、日本に進出する。東京のど真んなか、日本橋だ。会長の呉旻潔は「アジア文化の発信地」として期待を寄せる。

【前編】本屋の新展開 中国と韓国はここまで変わった