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「キム・ジヨンの人生は“私の物語”」 著者チョ・ナムジュ、川上未映子と作品を語る

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「82年生まれ、キム・ジヨン」著者のチョ・ナムジュさん(左)と川上未映子さん

日本でも翻訳版(筑摩書房)が出版されてから約1カ月で6万部を突破し、韓国の小説としては異例の売れ行きを見せています。ここまで話題になった理由について、川上さんは「『あるある』の連続なんですよね。知っていることが書かれている、というよりは、知らないことが書かれていないと言ってもいいくらい」と話しました。

なぜ、この本がここまで女性の気持ちをとらえることができたのでしょうか。「女性なら誰しもが経験するエピソードを、女性の一生を再構築する形で書きたいと思いました」と語る著者のチョさんは、「女性が書き込んでいる掲示板、ルポ、インタビューなどを読んで参考にした」と執筆の舞台裏を明かします。

日本女性も「他人事じゃない」

日本語訳を担当した翻訳家の斎藤真理子さんは日本でのヒットについて、「翻訳をしていた2018年、財務省の事務次官のセクハラ問題があり、東京医大の不正入試問題があり、日本の女性たちの間でも『これは他人事じゃない』という気持ちが起きていた」ことも大きかったと話していました。

韓国語の訳書が多数ある翻訳家のすんみさんは「誰かに読んもらって感想を聞きたくなる本。私は共感したけど、他の人はどうなんだろうって確かめたくなる。韓国で100万部売れた理由は、『私と同じ経験をした人いない?』と、この本を読んだ人が、他の人の感想を聞きたくて本をプレゼントして送るという現象が広まったこともあると思う」と話していました。

(左から)「82年生まれ、キム・ジヨン」翻訳者の斎藤真理子さん、著者の著者チョ・ナムジュさん、川上未映子さん、翻訳家のすんみさん

「読者の方が小説を完成させてくれた」

この本が話題になってから、韓国社会に変化が訪れています。ネット上での女性に対する差別的な言葉や暴力的な言葉などに対し、抗議の意志を示したり、盗撮などのセクハラについてやめるよう要求したりするなど、一つ一つの問題について女性たちが声をあげていく動きが起きています。本が人を動かし、人が人を動かし、社会を変えていく。

チョさんはそんな光景を目の当たりにして、「韓国の女性たちはこれまでは男性中心の社会に対して、何を言っても無駄だと思っていた時期が長かったが、今の世代は自分たちが声をあげていくことで社会が変えられるじゃないかと実感しているのではないか」「自分も物書きとしてこういう世代に影響を受けている」と話していました。「主人公のキム・ジヨン自体は、社会に向けて行動を起こそうとも、語ろうとも言っていない。ただ、これを読んだ読者の方が、声をあげて、この小説を完成させてくれました」と語っていました。

「82年生まれ、キム・ジヨン」著書のチョ・ナムジュさん

82年生まれ、キム・ジヨン」がヒットしたことを受けて、韓国ではさらに積極的な試みが企画されています。チョさんら7人の作家による共著のフェミニズム小説集「ヒョンナムオッパへ」が2017年に刊行されたのです(日本語版は今年2月に白水社から出版)。川上さんとの対談の中では、タイトルにある「オッパ」という言葉についても、興味深いやりとりがありました。

「オッパ」「主人」呼称に違和感

チョさんによると「オッパ」は韓国語で「お兄さん」という意味で、男性を呼ぶときによく使われる言葉だといいます。一般的に韓国社会では、男性は女性から「○○さん」と対等な関係で呼ばれるよりも、「オッパ」と呼ばれた方が喜ぶそうです。しかし、何げない言葉の中にも、男性が女性よりも優位であることを当然に思う思考が「ロマンティックに包まれている」のではないか、と疑問を投げかけます。

これに対して、川上さんが「日本語では女性が結婚相手を『主人』という呼び方があります。これは主従関係じゃないかって思うんですよね。言葉が内面をつくるから、私はこの呼び名を廃止したいって言っているんです」「(パートナーのことは)『嫁』っていうの。家の属性でいうんですよ」と話すと、チョさんは驚いた様子で「今でもそんな呼び方が使われているんですか?頭がぼんやりと混乱しています」「(「主人」という)この呼び名問題もそうだけど、当然と受けてきたことを考え直す機会になって欲しい」と呼びかけました。

最後に川上さんが、「この本が、こんな短期間で、たくさんの読者に届いたのは特異な例。歴史の共通点の近さなのか、わからないけど、欧米のフェミニズムが伝えたものとは違うものがあったんだと思う。その近さとは何かを私も考えていきたい」と結びました。

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