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民主化運動の「アジト」だった書店、若きロック歌手たちに後を託す

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大学街で人文社会科学専門書を扱う「プルムジル」店長のウン・ジョンボク氏=2019年1月22日、ソウル

【前の記事を読む】「本が売れないからコーヒーを」ではない 韓国の経験が教える生存戦略

成均館大学の近くにあるこの店の名前「プルムジル」は、韓国語でふいごで風を起こす、という意味です。1986年に開業し、私は93年に3代目店長として店を継ぎました。民主化前の韓国では、軍事政権の独裁に対抗するため、出版社を作り、文章を書き、大学の前に書店を開くことが重要な運動の一つでした。書店は学生運動のアジト的な役割も果たしていました。韓国中にありました。この大学の近くにも数軒あったんです。それが今では、ソウルではソウル大学のそばにある「クナリオミョン(その日が来れば)」とうちしか残っていません。

皮肉なことですが、80年代から90年代にかけて政府の弾圧がひどければひどいほど、社会科学にかかわる本は売れていたんです。社会変革を訴える本です。マルクスの資本論を日本語の本から翻訳したりしていたんですよ。旧ソ連の崩壊で社会主義が退潮し、これにかかわる本が読まれなくなった。韓国は思想的に米国の植民地のようになってしまいました。

そこへ家賃の値上がりとインターネットの普及が追い打ちをかけた。私も農業でもやろうかと思っていたのですが、2003年におきた米国のイラク侵攻に怒りを感じ、やめるわけにはいかないとも思っていたのです。他の店がやめていくので使命感も感じていました。

大学街に残る数少ない社会科学専門の書店「プルムジル」。80年代は民主化運動の拠点にもなっていたという=2019年1月22日、ソウル

外国の方は驚かれるかもしれませんが、民主化から10年が過ぎた90年代後半に入ってもまだ、スパイを探して書物の情報を収集するために韓国の情報機関が毎週のように店にやってきていました。国家情報院、警察、軍の機関とそれぞれが連携せず、ばらばらに成果を競い合うものだから、たいへんでした。大手書店の教保文庫に売っている本でも、大学街の店にあると問題視された。「教保は金儲けのために売っているが、あなたは北朝鮮に利益をもたらすために売っている」と非難されました。

逮捕されたのは97年4月15日、金日成の誕生日と同じ日です。「禁書」を販売したことが理由だとされましたが、説明は曖昧でした。金泳三政権(1993~98年)は書店をターゲットに摘発していました。社会人になってまで監獄に入れられるとは・・・。それでも、軍事政権に戻ることがあってはならないという思いで書店を続けました。金大中政権(98年~03年)になって毎月1回の訪問になり、盧武鉉政権(03~08年)になってようやく来なくなりました。

両親は、私が社会のために書店をやっていることを誇りに思ってくれていた。母親は93年に他に就職先を探さないで3代目の店長になった私に、資金を援助してくれた。毎朝午前3時に起きて段ボールやガラスビンの廃品回収をしてお金を貯めて支援を続けてくれた。亡くなった父もずっと手伝ってくれていました。戦前に大阪で生まれた父親でした。兄も途中から書店の経営に加わったのですが、二つの家計を維持できる収入を得るのは難しくなりました。もう閉店しかないかな、と思い始めました。

ハンギョレ新聞が取材に来て、1月に記事が出ました。任せられる後継者の条件を問われたので、30代前半で人文学への愛があり、誠実で健康な男性と答えたんです。そうしたら、記事を読んで3人の若者がやってきました。オックスフォード大大学院で歴史学を学んだロック歌手、メディアアートの講師兼詩人、そして出版関係者の仕事をしている人です。驚きましたし、うれしかった。同時に、稼げない商売だから心配でもありますが。6月に引き継ぐ予定です。

いまのお客は7割が大学生、残りは卒業生や人文社会科学の書店が少ないのでわざわざこの店を探してやってきた人です。これに、新しい3人がまた別のお客さんを連れてくるかもしれません。新しい酒は新しい革袋に盛れ、と言います。若い人が経営すれば書店にも良い変化があるかもしれません。期待しています。

■断絶だらけの韓国の歴史埋める場にしたい

書店跡継ぎを申し出たロック歌手、チョン・ボムソン氏

新聞を読んでプルムジルのウン・ジョンボク店長に会いにいきました。私は音楽をやっている人間なんですが、長期的には出版社を運営しながら書店をやるという夢はあったんです。米国ダートマス大学へ留学し、英国のオックスフォード大学大学院で歴史学を修めました。

英国の書店は歴史が古いものがたくさんある。日本の神保町にも似た印象を受けました。プルムジルは35年の歴史のある書店です。新たに始めるより、これを土台にやってみるのはおもしろいのではないか、と思ったんです。6月から引き継ぐにあたって、クラウドファンディングで支援を募りました。1000万ウォン(約96万円)の目標額を超えて、900人を超える方から2740万ウォンが集まりました。

若い我々の世代には、民主化闘争の拠点だったことにも、何かロマンチックなものを感じます。今年は(日本統治時代に各地で起きた)3・1独立運動から100周年、南北関係も動いています。文在寅政権は、朴槿恵(パククネ)前大統領の退陣を求めて市民が集まった「ロウソク革命」から生まれました。

私は韓国へ帰国後、兵役を終えて、ロック歌手の活動をしていますが、私もデモに参加してライブで歌いました。現在進行形の歴史を私の世代が引き継いでいる。オックスフォードで歴史学の論文を書いていたときよりも、もっと歴史の現場にいるんだ、と実感します。米国にもう一度戻ってロースクールに行くことも考えていましたが、韓国に残って音楽を続けながら、歴史ある書店の運営に参加したい。母が昔、古本屋をやっていたり、米軍の前で歌っていたりしたことも影響があるかもしれません。

書店「プルムジル」の跡継ぎを名乗り出たロック歌手のチョン・ボムソン氏。英オックスフォード大学大学院で歴史学を修めて帰国。「母国の歴史をとどめたい」と話す=2019年1月22日、ソウル

ウン・ジョンボク店長にお会いしたとき、30代前後の健康な男性が条件だとおっしゃるので、思わず「なぜ女性はだめなのか?」と問い返してしまいました。「書店は重労働だから女性には無理だ」と。これには、ふーん、そうかな、と思いましたが。もうひとつの条件である人文学の愛着については、フランスの哲学者ミシェル・フーコーや米国の哲学者トマス・ペイン、英国の哲学者ジョン・ロックについて聞かれました。ロックの「統治二論」について話すと満足そうな表情をみせてくれました。誠実さについては、私は遊び人に見えたようですが、ほかの二人がまじめそうだから良い、と。

韓国の歴史は断絶だらけです。植民地時代、韓国戦争(朝鮮戦争)・・・。ハングル世代とそうでない世代という断絶もあります。漢字が読めない世代に向けて、過去の書物をシリーズで翻訳していく計画をすすめています。また、南北間の断絶を埋めるような双方にかかわる人物の物語も掘り起こしていきたい。書店は、こうした書物を出版していく拠点にもしたいと思います。

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