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ゆとりを得た世代の「知への欲求」 市民の力が中国の書店を支える

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毛丹青・神戸国際大学教授=2019年3月10日、北京市

■「よい本を読ませたい」民間の力が牽引

中国で書店が増えているのには二つの動力があります。文化の力を底上げしたいという政府の政策による「人工的」なものと、ビジネスや人々の知的好奇心といった民間の「野性的」なものです。私は後者の要因が圧倒的に大きな牽引力になっていると思います。

国営企業の跡地などが再開発され、ショッピングモールが開業したとき、しゃれた書店を店子として入れることが施設全体の格を高める、と考えられているのです。人も集まる。だから、不動産会社は書店に対して家賃を減免する。中国は人口が多いので、豊かになって書店に足を運んで本を買うぐらいのゆとりがある層は分厚い。14億人全員が書店に足を運ばなくても、文化に「ファーストクラス」を求める人たちだけでも成り立つんです。この規模感は、ほかの国にはありません。

SNS映えすると評判の店内。ネットで話題の店舗は「網紅」と呼ばれる。お客の投稿は店の宣伝にもなる=2019年3月6日、西安市・言几又

おしゃれな書店には子ども連れが目立ちます。自らは幼いころ文化大革命を経験したり、貧しくゆとりがなかったりして、十分に教育を受けられなかった世代には、孫や子どもに良い本を買って読ませたいという思いが非常に強い。良い教育を受けさせたい、と。

それは子どものためだけでなく、自分のためでもあるんですよ。子どもに本を買い与える行為を通じて、ああ、自分は苦しい時代から精神的にも生活的にも脱皮したな、と喜びを感じられるからです。中国での本の売り上げは4分の1が児童書で、前年比で1割以上も伸びています。絵本の市場は世界最強ではないでしょうか。日本の絵本も人気があります。

児童書コーナー。中国では本の売り上げの4分の1を児童書が占め、1割以上も伸びている。「美しい書店」と評判の西安の言几又は子どもが楽しめる遊具も備えた特別な部屋に仕立てていた=2019年3月6日、西安市

中国のお客さんは書店に対して、本を読むという行為だけでなく、総合的な生活や文化を楽しむ場としての役割を求めています。不動産会社が商業施設を開発し、アクセントとして、あるいは建物をきれいに「お化粧」する役割として書店を入れたがるのです。

■「国産コンテンツ」増えるか

広々とした書店が急に増えているので、問題はコンテンツです。書棚に何を置くか?「中国の夢」「すごいぞ中国」という政治スローガンに沿ったようなものは、お金を払って読もうと思う人はそうそういません。当然のことながら、中国の読者もつまらないものは、読まない。その空白を埋めるように、外国の翻訳本が流れ込んでいます。中国の作家の作品にも良いものはありますが、おしなべて質や多様性が読者の需要に追いついていないのでしょう。

美しい書店と評判の「言几又」。高層ビルの1~2階にある=2019年3月6日、西安市

単一的なつまらないもの、ステレオタイプのものを読んで育てば、自由な発想は生まれない。いま、翻訳本を含めて様々な刺激を受けている若い世代が自由にコンテンツを生み出すようになれば、読者との溝も埋まっていくのではないでしょうか。しばらく時間がかかると思います。

中国政府は書物の「貿易赤字」を気にしていて、翻訳本について出版を許可する点数を抑えようとしています。将来は割当制になるのではないか、といううわさもあるほどです。人気があるのを知りながら数を絞ろうとしている。民族産業を育てたい中国当局の政策と好奇心旺盛な読者がせめぎあいながら、市場はしだいに成熟し、コンテンツも力をつけていくと思います。

80年代以降にうまれた世代は、子どものころから日本文化に触れながら育っています。親しみを持っており、理解も速い。日本文化を中国の人々が消費する時代になっている。日本側から言えば、日本文化がコンテンツとして中国市場で売れる時代になっているのです。

恩田陸、宮部みゆき、夢野久作、連城三紀彦、横山秀夫・・・。日本の作家の小説がずらりと並ぶ。日本文学コーナーを持つ書店も少なくない=2019年3月7日、西安市上海三聯書店

たとえば、芥川賞を受賞した又吉直樹さんの小説「火花」。私は読んですぐに、中国の若者に読まれるだろうと感じ、翻訳して紹介したいと思いました。東京の出来事でありながら、上海に場所を置き換えても違和感がないような、そんな印象を持ちました。

日中の若者たち、とりわけ都市部で生活する層は価値観やライススタイルを共有している。「火花」は17年6月、私の翻訳で中国語版が出版されました。又吉さんの上海でのトークライブや交流にも同席しましたが、たいへんな反響がありました。

毛丹青さんが翻訳した又吉直樹さんの「火花」(右)。20世紀初めに、魯迅の弟周作人が翻訳した清少納言の「枕草子」と並んで平積みされていた=2019年3月6日、西安市の書店言几又

2011年に北京で月刊誌「知日」を創刊し、文学やサブカルチャーを紹介しました。その後、16年には上海で隔月誌「在日本」を立ち上げました。いずれも中国語です。知日は「日本を知る」という意味でしたが、今度は「日本にいる」というメッセージです。本を売るだけでなく、価値観や文化を共有していくイベントも企画しています。

4月に神戸-上海を結ぶ国際フェリー「新鑑真号」で日本に渡り、高野山、京都、奈良と日本の文化を学ぶ旅を企画しました。約10日間で80万円ほどの費用がかかりますが、あっという間に15人が集まりました。日本文化に向けられた中国の人々の知的な好奇心は、非常に強い。過去10年を振り返ってみても、日本との政治的な関係がどうであれ、変わらなかった。いや、深まったともいえます。これからも日中で共有できる文化や生活スタイルは増えていくはずです。そのつながりを大切にしたいと思います。

無印良品のホテルのわきにある「MUJIBOOKS」。小津安二郎、柳宋悦、花森安治らの著作が並んでいる=2018年7月17日、中国深圳市

「本屋さんに行こう」連続インタビュー

#1 中国の発禁作家が見た本屋の最新事情 「書店は増えた、言論空間はどうか」

#2 「西安のソクラテス」が、考える人を中国で育てる

#3 ゆとりを得た世代の「知への欲求」 市民の力が中国の書店を支える

#4 中国が向かう「書店4.0」とはどんな世界か

#5 変化のスピード、半端ない 韓国・独立書店の顔が語る本屋事情

#6 「本が売れないからコーヒーを」ではない 韓国の経験が教える生存戦略