韓国の独立書店はまだまだ増えると思います。書店の開き方に関する講座には大勢集まります。日本の『本屋は死なない』(石橋毅史)を翻訳したら3刷まで重版になり、3000部を発行しました。書店の経営は厳しいにもかかわらず、関心の厚みを感じています。自分の好きなことをして生きていきたいという若者から、本が好きなので副業として店を開きたいという方までさまざまです。
韓国では、1990年代半ばには5600店もあった書店が、2010年代に入って2000店余りまで減りました。ネットの普及と少子化が主な理由です。オンライン書店の割引率の見直しや政府の支援で、数年ほど前から減るスピードは落ちてきました。また、独立書店と呼ばれる小規模の店が増え始めました。500は超えているでしょう。済州島だけでも数十あると思います。地域の書店の活性化を図る条例をつくる自治体も増えています。金額は限られていますが、店舗の改修を補助したり、図書館で買う本を地域の書店に発注したりしています。
生き残る戦略が重要です。利益率が高いカフェや物販で経営を支えている店も少なくありませんが、書店としてのアイデンティティーをどう考えるか。新しいサービスとして、お客が好きなジャンルの本を選書して定期的に配達するとか、ネコにかかわる本だけを集めて専門性を高めるとか。詩のアプリを作って3万以上の詩を載せて、30万人近い会員を集めた人たちもいます。スマホで発見した詩集を買う読者が現れるのです。
市民運動でつながった人が中心になって出資して協同組合方式の書店をつくったグループもある。逆に言えば、70~80年代の民主化運動がさかんだった時代にはやった社会科学専門の書店は姿を消しつつあります。大学のそばを中心に何百軒もあったのに、現在は数軒にまで減っています。民主化を果たし、そうしたコミュニティーがしぼんでいったからです。大学生は就職のために本を読む。これは、善し悪しではなく、時代の変化です。
新しい試みが次から次へと続いていますが、書店とコミュニティーとのつながりがポイントになると思います。これをいかに築くか。本が売れないからコーヒーを売るのではなく、本を通じてコミュニティーを作っていく。これは、世界中で同じ課題に向き合っているのではないでしょうか。
韓国の出版文化は、1950年代の韓国戦争(朝鮮戦争)前は日本の影響が大きく、その後は米国と日本の影響を強く受けてきました。民主化が80年代後半。書店でいえば、最大手の教保文庫の創業も1980年代です。読者が求める水準の書き手の不足を、翻訳書が埋めてきました。世界で一番早く世界中のベストセラーを翻訳していると言えるほどです。売れそうな日本の作家なら、企画の段階から交渉して契約を取ろうと必死です。出版社の経営にかかわりますからね。
2017年の統計によれば、1年間に発行された5万9724点のうち、翻訳書が1万1383点と19%を占めます。そのうち日本の作品は、漫画を含めて4905点で、翻訳書の43%を占めています。内訳は漫画が4割、文学が3割です。外国の翻訳書のうち日本が最も多く、米国が続きます。日本は先進国のなかでは文化的にも近く、誰しもちょっとは知っている国です。おもしろい本であれば、韓日両国の政治関係がどうであれ、読む。本を選ぶときには作者の国籍を問いません。
韓国の読者が開放的であることはもちろん良いことなんですが、書き手が不足していることの裏返しでもあります。翻訳はすぐにできますが、国境を超えて多くの読者をつかめる作家や編集者は簡単には生まれません。出版文化を時間をかけて育てていく取り組みも必要だと思います。
「本屋さんに行こう」連続インタビュー