韓国に暮らしていると、アイドルを追いかけて韓国へ来たという日本の方々にお会いする機会がたびたびある。コンサートなどで一時的に来るのが大半だが、そのために韓国に住んでいるという場合も。かくいう私も韓国映画を理由に韓国に住んでいるので、似たようなものかもしれませんが。
最近、ボーイズグループWanna One(ワナワン)を追いかけて韓国にやってきて、そのまま住んでいるという自称「アイドルオタク」さんに会った。グループの活動が今年1月までの期限付きだったため、最後まで見届けたいと、やってきたそうだ。そんな彼女が、「自分みたいなアイドルオタクのドラマがある」と、紹介してくれたのが、4月に放送が始まったtvNドラマ「彼女の私生活」(全16話)。これまで気になっていたアイドルオタクの世界を丁寧に解説してくれる。
主人公は、美術館でキュレーターを務めるソン・ドンミ(パク・ミニョン)。美術館の仕事が終われば、アイドル追っかけに直行するドンミだが、美術館ではアイドルオタクではない振りをしている。これを韓国のオタク用語で「一般人コスプレ」というのだそうだ。
そういえば、金浦や仁川の空港でよく大きなカメラを持って待ち構えている女性を見るが、帽子やマスクで顔を隠していることが多い。アイドル本人ならまだしも、「なぜに撮る側が?」と思っていたが、職場などではアイドルオタクであることを隠して「一般人コスプレ」をしているのかもしれない。
ドンミもしかり。帽子とマスクで顔を隠し、大砲のようなカメラを持って空港に現れる。大砲は韓国語で「デポ」だが、この大砲のようなカメラをオタク用語で「デポ」と言うそう。50万円ほどする高価なカメラで、私も仕事柄アイドルの写真を撮ることもあるが、こんな高価なカメラは持ったことがない。この写真をどうするのかというと、ドンミ自身が運営するホームページで掲載する。ただ撮ってアップするだけでなく、より美しく加工修正してアップする。まさに芸術作品だ。そこまでするなら、顔も名前も出して、アイドル本人に貢献度をアピールしたらいいのに、と思うのだが。
日本では、職場の同僚がアイドルの写真を机いっぱいに貼っていたり、アイドルオタクを堂々と公言する友達も多かったが、韓国では少し事情が違うようだ。アイドルを追っかけるのは若い時だけ、というような偏見があって、20代後半くらいになってくると「その歳でまだやってるの?」という痛い視線を受けることも。
ドンミが美術館で「一般人コスプレ」をするのも、そもそも採用面接の際に前館長がアイドルを毛嫌いしていると察したため。ドンミとアイドルの熱愛記事(誤報ですが)が出た時、前館長は「美術館の品格に関わる」と言って、即、ドンミをクビにしようとした。ドラマなので誇張はあるにしても、オタク活動ゆえに職を失うなんて……。
ところで、ドラマの本筋は、ドンミと、美術館の新たな館長として就任するライアン・ゴールド(キム・ジェウク)のラブコメディーだ。キム・ジェウクは、日本でもドラマ「コーヒープリンス1号店」などで知られ、昨年は映画「蝶の眠り」で中山美穂と共演したのも話題になった。日本語がペラペラの俳優だが、今回の役は米国育ちという設定。実の両親は韓国人だが、米国に養子に出されたという過去を持ち、それゆえ簡単には心を開かない性格だ。二人は、ある事件をきっかけに、「交際している振り」をする関係に。
一方、ドンミが追いかけるアイドル、シアン役はチョン・ジェウォンが演じる。ドンミがとろけるのも分かるくらい可愛いビジュアルだが、実際のチョン・ジェウォンはラッパー。ONE(ワン)の芸名で知られる。
まだ始まったばかりで、今後どう展開するのかは予測がつかないが、毎回アイドルオタクの新世界を覗き見るのは楽しい。