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「発行止めろ」一本の電話でつぶされた新聞社  「アラブの春」から7年、言論が消えた

World Now
閉鎖されたバーレーン唯一の独立系新聞社「アルワサト」が看板を外す瞬間=今年2月撮影、関係者提供

唐突で不自然な閉鎖命令

「アラブの春」のとき、人々が路上で声を上げていた国々でいま、「言論の自由」が消えかけている。反政府デモがほぼ抑え込まれたペルシャ湾の島国バーレーンでは昨年、唯一の独立系の新聞社が姿を消した。

「発行を止めなさい」

国内最大の発行部数を誇った新聞社「アルワサト」に昨年6月4日午後、情報省から一本の電話がかかってきた。「法律に違反し社会に亀裂をもたらした」。司法手続きも経ず発行は即日停止となり、185人は職を失った。「あまりに唐突で不自然だった」と元社員は話す。

記者がかつて訪ねたアルワサト本社=2012年4月6日、マナマ

バーレーンでは2011年、「アラブの春」の影響で反政府デモが広がった。アルワサトはウェブを含めて発行停止処分を3回受けつつも、政府と反政府双方の主張を報じる編集方針を貫いてきた。

元社員は電話の半月前にあった米大統領トランプのサウジ初訪問で「湾岸諸国全体が一変した」と振り返る。バーレーン国王と話したトランプは、人権問題であつれきを生んだ前オバマ政権を念頭に「私の政権では、そうした緊張は起きない」と語った。その一言の影響は絶大だった。「誰も民主主義を語らなくなりました。だから、もう気にする必要がなくなったのでしょう」

右上に看板を外した跡が残る旧アルワサト本社=マナマ

「トランプがお墨付きをくれた」

バーレーンの女性人権活動家エブティサム・アルサエハ(49)が公安当局に呼び出されたのは、この会談の5日後のことだ。

休日で人気のない建物を奥に進むと、窓がなく、天井以外は黒く塗られ、防音素材が張られた部屋に通された。私服姿で名前を明かさない男性に目隠しをされ、後ろ手に縛られた。「トランプが我々に何をしてもいいというお墨付きをくれた、と言って、私を殴り始めました」

人権活動家のエブティサム・アルサエハ

それから約7時間、人権活動や国外で連絡を取っていた相手などを繰り返し詰問された。頭や腹を殴打され、気を失ったら冷水をかけられた。「もうお前に耳を貸す人はいない、誰も助けてくれないぞ、とも言われました」。いったん解放されたが、約一カ月半後に逮捕されて独房に47日間入れられ、投獄は約4カ月に及んだ。

バーレーンで多数派を占めるシーア派の最大野党は解散させられ、金曜礼拝後に開かれてきた反政府デモも消えた。地元記者は声を潜める。「表現の自由も報道の自由もなく、死んだように口をつぐむしかない。最悪の状態になってしまった」

フォロワー5000人いたら規制対象

エジプトでも状況は悪化する一方だ。今年7月、SNSの投稿者を「5000人以上のフォロワーがいる」だけで「メディア」とみなして規制の対象にするSNSの規制法案が国会で可決。「テロリストを支援している」「フェイクニュースを拡散させないため」などの理由で、衛星テレビアルジャジーラなど21のニュースサイトも禁止された。取材中も記者(高橋)が弁護士らに国内の人権状況について聞くと、急に口を閉ざし「私が仕事を失うことになるから」と言われる場面もあった。

カイロ中心部では、壁にある消された落書きが目についた=エジプト

トルコでも16年にクーデター未遂事件が起きて以来、大統領エルドアンが政権に批判的な報道機関約170社を次々に閉鎖。米国のNPO・ジャーナリスト保護委員会によると、世界で収監されている記者262人のうち73人がトルコに集中する。国際NGO・国境なき記者団の「報道の自由度」(17年)ではトルコが180カ国・地域中157位、エジプトが161位、バーレーンが166位と、いずれも「アラブの春」前より大幅に悪化している。

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